第1093話 美花の初めての死
二日目の夕方が訪れた。
俺はいくつか道具を成形し、乾かしている最中。明日の朝には良い感じになっているだろう。美花は竹のような木材で木の上に床、そして登るためのハシゴを作ってしまった。雨は木々の葉っぱで凌げる計算らしい。というわけで今日の成果は美花に軍配があがる。危険を冒した分、それ相応の進み具合だと思うけどなんとも複雑な気分だ。
「ちょっとゴツゴツするけど、土の上よりはマシだね」
「床下で焚き火をすれば床暖房代わりになるのも良いね。さすがは美花だよ。一日でこんなに環境が進むなんて」
「えへへ。……でもせっかくの分担なのに有夢にだいぶ手伝ってもらっちゃったね」
「いいの、力仕事は男の人がやれば!」
「有夢から男を主張するセリフが聴ける日が来るとは思わなかった。ていうか筋力も私と同じくらいでしょ? 有夢ってば特殊な体質なんだから」
「まぁね」
俺と美花は器用だから今のところうまく行ってるけど、実質女の子二人みたいなものだから力仕事はなかなかうまくいかない。二人してヒーヒー言いながら木材運んだからね。ステータスがもっとあればこんなことにはならないんだけど。
「……まだ二日目だけど、だいぶ疲れちゃった」
「当然だよ」
「有夢は……ずっとこんなことしてたんだね。私が来る前に」
「でもまだあれはスキルも自由に使えたし、今より楽だったよ」
「……でも……私たち二人だから……きっとイーブン……だょ」
「うん」
「ねむ……おやすみ」
「おやすみ」
イチャイチャする暇もなく美花は寝てしまった。昨日はあんなに寝付けなかったのに……たくさん動いたから仕方ないね。美花とお喋りできないなら俺も寝てしまおう。朝早く起きて、作業しちゃわないとね!
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「むぅ……あ、あれ?」
起きたのはいいんだけど、おかしい。美花がいない。お手洗い……ってことにしている場所にいるのかな。カーディガンも残ったままだし。……いや、違う。だいたいこの拠点の真ん中ってことにしてる場所に美花がやけに良い姿勢で横たわってる。寝転がってこの上から落ちたってわけではないっぽいし……嫌な予感がする。
「美花! みかっ、大丈夫!?」
「……ん、あれ……有夢?」
「どしたの?」
「えへへ……私、死んじゃった」
美花は微笑んだつもりではあるけど、とても苦しいような、そんな表情を浮かべている。死んだ……? まさか寝返りうって床から落ちて死んだ? いや、花瓶が頭に落ちてきて死んだ俺じゃあるまいし、美花に限ってそんな……。
「何があったの?」
「……あのね」
美花曰く、夜中に嫌な予感がして目が覚めたらしい。それで、床から降りて様子を探ってみるとここからすぐ近くにSSSランクの魔物がいることがわかった。俺じゃ目が覚めなかったことから、魔力の気配を完全に消せるみたい。
そこで美花は自分からちょっと離れた場所に行き、その魔物を引きつけ、食べられたらしい。と、いうのもその魔物にこの拠点がばれたら永遠に食べられ続けてしまう気がしたからだそう。美花の気がしたから、は、ほぼ当たる。もしその通りになったのだとしたら、正しい選択であるとしか言えないけど……。
「あの、有夢。私、ちゃんと足あるよね? 足から噛みちぎられたから……」
「……あるよ」
「よかった。左足食べられてから、頭からガブリとやられたから……いやぁ、痛かった。トラックに轢かれる方が痛かったけどね!」
「そっか」
「うん、有夢も虎というより、サーベルタイガーみたいな、真っ黒な魔物には気をつけてね」
「そうするよ」
なんとも言えない。俺は美花をギュとした。美花は何も答えずに抱きしめ返してきた。なんて心苦しいんだろう。美花が俺のみてないところで死ぬのは、これで……そう、3回目だ。これで3回も美花は死んだことがあることになるんだ。
「えへへ、有夢、ずっと抱きしめてくれるのは嬉しいけど、作業しないと日が暮れちゃうよ?」
「昔は……」
「ん?」
「子供の頃は、美花を守るなんて言ってたのに……」
「そんな男らしいこと言ったの、幼稚園以来だね。小学生の頃から女装始めたんだから」
「ごめん」
「気にしないで、有夢。でもこれで私も有夢も完全には死なないってわかったし……あの、こんな状況だけど、ポジティブになれない?」
「うん、わかった。気持ち切り替えるよ」
「よかった」
「その前に一つだけ」
俺はキスをした。なにかあったら抱きしめてキスをする。わかりやすくて良いじゃない。美花も合わせてきてくれた。いつもと変わらない感覚。このまま服に手をかけて脱がしちゃいたいところだけど、その先が洒落にならないのでグッと我慢する。そもそもこの世界、俺と美花がアダムとイブだけど、そうなっていいのかわかんないし。
「よし……気持ち、切り替えていくよ」
「うんっ!」
「今日は美花、予定あるの?」
「そこらへんのツルを編んで、カゴとかでも作ろうかなって」
「いいね! じゃあそうしよう。俺は昨日の続きだ」
……俺自身が死ぬのはいいけど、美花が死に続けたら、俺は心が折れるかもしれない。珍しく……いや、人生で初めて。
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