第1092話 道具作り

「美花ァ、ここにお水ちょーだい!」

「その土の上にまけばいいの?」

「うん!」



 美花は俺が指定した場所にウォーターボールを何発か撃ってくれた。小石の混じりや植物の根っこが少ないところを探し当て、手でそこの土をほじくり返し、いまこうして水を加えて粘土もどきを作るんだ。



「ずっとそこで作業してると思ったら、土でなんか作ろうとしてたのね」

「えへへ、そゆこと。今日中にはできないけどね」



 それからまた一時間してあたりはすっかり暗くなり、作業なんてできる様子じゃなくなってしまった。せっかく作った粘土もどきが乾かないように大きい葉っぱで厳重に包み、木の陰などに放っておく。

 お夕飯はそのまま食べれるものを選んだ。木の実ばっかりだけど。お腹いっぱいにはならないし、お肉とかお魚とか食べたいけれど、こんな状況で贅沢は言ってられない。



「有夢、夜ってやることないよね? もう寝ちゃおうか」

「そうだね、寝ちゃおう」


 

 次の作業は朝早く起きてからがいい。体感時間が正しいならまだ夕方の終わり頃だけどね。焚き火をしているとはいえ、暗くなるにつれ冷え込みが酷くなってきている。俺と美花は身を寄せ合って、いや、抱き合って寝ることにした。まあ、いつも通りだね。俺は学ラン、美花のカーディガンを脱ぎ、二枚広げて布団代わりにするの。



「……私たち、どうなるのかな」

「わかんないけど、俺と美花ならやれるでしょ! 大丈夫、一緒にがんばろ!」

「うん!」



 それから俺たちは寝ようと努力したけど、体感で三時間くらいは寝付くことができなかった。その間にキスをしたり、明日の予定を決めたりした。ちなみに体力を使うし、そもそもこんなところでするのは常識外なのでエッチなことはしなかった。当然だよね。



_______

____

_



「さて、昨日決めたことをやろう!」

「頑張ろうね!」

「おー!」



 朝起きてすぐ、そうやってお互いの士気を高める。今日、俺は引き続き道具作り。美花は仮拠点作りをすることになっている。

 というのも、美花もよくよく考えてみたらアイテムマイスターの記憶はある程度残ってたみたいで、木の枝や蔓を取ってきて雨風を一時的に凌ぐものくらいは作れるだろうとのこと。土の地べたで寝るのは結構こたえたらしい。サバイバルだもんね、役割分担は大事。昨日寝てる間にSSSランクの魔物は来たりしなかったので、拠点の周辺は今の所安全。美花を一人で行動させても大丈夫な気がする。



「そういえば、スキルのカテゴリー二番目ってさ、こんな環境でもスキルポイント振らずに成長するのかな?」

「あっ! すっかり忘れてたけど、剣術とかって練習を積めば育つし、料理とか裁縫とか、カードなくても手に入れられるスキルは結構あるんだったね」

「生活に余裕ができたらそこらへん伸ばそうね」



 料理や裁縫、石加工、木材加工などなど。こんな環境でも覚えられるものは多い。実際にアナズムに来たばかりの時もここら辺のスキルのおかげでなんとかなった場面も多々あったし。どう伸ばしていくか効率を考えるのも大事だね。粘土こねこねしてる間に何か習得できたりしないかしらん。

 俺の粘土作りには美花の水が必須だからそっちを先にある程度手伝ってもらってから、お互いの作業に入った。俺はひたすら粘土をコネコネしつつゴミを除去し、いい感じになったら欲しい道具の形に成形する。まず欲しいのは鋭利な物とスコップのような物だ。それらができたら釜戸を作り、焼き物を作りやすくしようと思っている。

 とりあえずはできた道具を干す。ここまでできたらお昼ご飯食べようと決めてたので、美花のところに様子を見に行った。



「美花ぁ、俺は一段落したよ! お昼ご飯食べるかお手伝いするよ」

「あっ、有夢! みてみて!」



 美花は拠点近くにあった三本の木が並んでいる場所に、竹のような木材をうまく並べて床を作っていた。さながら超小型のツリーハウスの床だけバージョンだけど、こんな短時間でここまでできるのか知らん。美花って一般の女性と比べて特別力持ちってわけでもないし、こんなこと軽々とできるのは翔くらいなものだと思うけど。そもそもどうやってこんな大量の折れた手頃な植物を集めたんだろ。



「ふふ、色々疑問に思ってる顔をしてるわね。私、非力ってほどじゃないけど力が強いってわけでもないもんね」

「う、うん。そうだよ。こんな短時間でよくこんな立派なの作れたね?」

「この木材、軽い竹って感じなんだけど、ここからちょっと行ったところにたくさんそれが折れた状態で放置された場所があるの。往復二分くらいかな」

「それって……」

「近くに生き物がいるってことでしょ? 危険だけど、サバイバルなんて危険と隣り合わせじゃない? それにその動物、というかSSSランクの魔物だけどもう遠くに行った気がするのよね。これは勘だけど」

「ま、まあ、魔力も感じないし、美花の勘は当たるから信じるけど……」



 すごくひやりとしたよ。それにしてもこの世界でも美花の勘、予感は健在なんだね。おじさんゆずりのこの勘、これからも発揮してくれたら生活が楽になりそうだけど。

 ちなみに美花のお父さんことおじさんのお店が大繁盛して全世界チェーンにたった数年でなったのも、この勘のおかげだったりする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る