閑話 翔と有夢の二人旅 その1

「んじゃあ、そろそろ行くとするかな」

「わふー、そんな時間かい」



 有夢と二人で出かけている時に偶然、温泉旅行地への二泊三日のペアチケットが当たり、俺と有夢の二人で行くことになった。本来ならどちらかが譲り合ってカップルで行くか、金を追加して四人で行くのがいいんだろーが、二人きりで旅行なんてめちゃくちゃ久しぶりだっつーことでたまには、俺と有夢の二人旅をすることにしたんだ。



「そうだ、ショー。……浮気はダメだよ?」

「お、おう」

「まあ、相手があゆちゃんだから言える冗談なんだけどね」



 たしかに男二人旅ではあるが、その相手が有夢だからこそ成立する不思議な冗談だろう。……本当に冗談のつもりで言ったのだろうかリルは。目がマジなんだが。



「あと、たしかヒコーキで移動だよね? まあまあ遠いところなんでしょ? お土産お願いしたいな」

「おう、ちゃんと買ってくる。じゃあな!」

「わふー、行ってらっしゃい!」



 俺は家を出た。有夢とは駅で待ち合わせになっている。一応、十分早く駅に着くよう出てきたが、有夢のことだからもう先に居るだろう。ナンパとかされてなかったらいいが。

 しばらくして駅に着くと、どう見ても有夢にしか見えない女の子が髪の色が奇抜なチャラそうな男三人に絡まれているところに出くわした。マジでナンパされてんじゃねーか。まあ、平常運転だな。



「いや君スッゲー可愛いわ。ちょ、お茶だけ。な?」

「ごめんなさい、ボク、人を待ってて……」

「そんなんいーじゃんね? 俺らいいとこ知ってんの」

「つかボクっ娘? 萌えるわー」



 有夢と目があった。仕方ない、助けてやるか。こういう時大抵、俺があいつの彼氏役をやる羽目になるんだ。男の彼氏役は有夢だとわかってても複雑な気持ちだぜ。



「おい、あゆむ。待ったか」

「しょー! 全然待ってないよ!」

「え、なに? 彼氏?」

「すっげぇ筋肉……」

「い、いこうぜ」



 俺の筋肉を見ただけで引き下がってくれたか。粘りのない奴らだ。有夢が嬉しそうな顔をしながら近づいてきた。



「いやぁ、参ったよ」

「いつものことだろ」

「まあねっ。ところでさ、どう? 今日」



 有夢が自分の服を見てほしいそうに体を振った。相変わらず女物の服を着ている。特にアナズムで本当に女になっちまってからは普段着すら女物しか着なくなってしまった。今回も美花と服を選んできたのだろうか。有夢のことを男だと知らなかったらじっくり見ていたいくらいの可愛さはある。



「お前はマジで何着ても似合うな」

「えへへー、ありがとっ。リルちゃんっていう彼女ができてから褒めるの上手になったよね」

「気のせいじゃねーか?」



 今のはいい意味でも悪い意味でもあるんだがな。

 そうこう話してるうちに空港行きの電車があと五分で来そうだったのでホームに入り、せっかくなので特別車両券を買う。ここから空港まで1時間くらいかかるためのんびりできた方がいいだろう。お菓子と飲み物も買った。本格的な旅行って感じがするぜ。

 電車が来たら乗り込んで、二人一緒の席に座る。どうせここまでの過程も普通の人にはカップルにしか見えないだろう。



「いやー、いいね、いつも通学に使ってる電車の特別車両に乗るのって」

「悪くはねーよな、たしかに」

「お菓子もたくさん買ったし、のんびりいこう。……そうだ、気が早いかもだけどお昼ご飯はどうする?」

「空港で食うか……時間的に空弁でいいんじゃねーか?」

「いいねー。じゃ、とりあえず、おかし食べちゃおっと」



 そう言って有夢はお菓子の袋を開け、中身を頬張った。美味しそうにものを食べるその姿は食事中の小動物そのもの。

 ……そういえば、美花は、実は男より女の方が恋愛対象であり、有夢は見た目が女、中身は男だからあいつにとってのベストパートナーとなり得た、という噂を耳にしたことがある。多分本当なんじゃねーかなと、有夢の行動一つ一つを見ていると思えてくるぜ。



「むむ、どうしたの俺の顔じーっとみて!」

「いや、餌をもらったげっ歯類みたいに食うなと思ってな」

「つまりかわいいってこと?」

「……あ、ああ、そういうことだ」

「そっかぁ!」



 すべすべで白いほっぺたをニッコリと歪め、微笑んだ。

 くっ……本当にこいつは男なのか。俺は親以外の男の中でこの世で最も有夢に耐性がある人間と言われている。そんな俺だが、実は日に何度かこいつがマジで女なんじゃねーかと思ってしまう時がある。無論、『アリム』になってねー時だ。

 今更ながら、頭の中でリルの『浮気はしないでね』という言葉が思い浮かんでくる。



「そういえば俺、今日飛行機の中で寝ちゃうかも」

「そ、そうか。また徹夜したのか?」

「うん、1時間しか寝てないの」

「マジックルームのおかげでそういうの解決したんじゃなかったのか?」

「いやぁ、ついね。設定ミスっちゃって」

「まあ別にいいけどよ」

「折角ゲーム持ってきたのに」

「今日の夜にでもやればいいだろ」

「そだね!」



 だいたい飛行機に乗った後は2時間ちょいかかるらしいからな、たっぷり寝る時間はあるだろう。……アイテムマスターで眠気自体をなくすアイテムをこの場で作っちまった方が早いとは思うんだがな。

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