第1079話 深夜のチャイム
「すぅ……すぅ……」
ミカが隣でかわいい寝息を立てて寝ている。どうしてだろう、こんな真夜中に目が覚めてしまった。いつもだったら夜は色々あって疲れててぐっすりなんだけどなぁ。
そういえば俺って、眠れなかったり、徹夜こそ何百回もしたことがあるもののこうやって寝ている最中に眼を覚ますのなんてほとんどないや。寝ないかぐっすりかのどっちかだからね。
「よいしょっと」
ミカを起こさないようにゆっくりとベッドを出た。アナズムにいる間、俺とミカは寝巻きを着ない。いや、着てもいいんだけど結局途中で脱ぐことになるから着てないの。だから部屋は適温なはずなのにスースーする。
どうにももう一度寝付ける気がしない。本当は寝たほうがいいかもだけど。また、相方が寝てるのに真っ裸で部屋内を動き回るのもおかしいので下着だけ履いた。
どうしてだろう、徹夜したりすると夜はこわいなんてイメージがないのに、寝ている最中に起きるとそんな気分になる。不思議だね。
「……んー」
さて、起きたままでいると決めたものの、やることがない。ミカを起こさないために灯りは最小限しかつけてないし、できることも限られてる。
こういう時こそゲームだろう。ゲームは俺のアイデンティティだからね。マジックルームに籠もれば時間なんて気にせずにゲームできるし。そんなわけでマジックルームを設置して中に入ってゲームを取り出した。
ドラグナーストーリー4でまだやってない縛りプレイがある。このゲームは二週目から主人公を外してパーティを組むことができるんだけど……勇者を外して弱いと言われてる仲間キャラのワースト4体で一から裏ボスまでを通してクリアするってのをしてないんだよ。もちろん武器なしでやる。
つい最近、ミカに隠れて勇者一人で武器なしクリアを達成したばっかりだからね。だいたい200時間かかったかな。このゲーム、勇者のスペックが高すぎてレベル99にするとラスボスまでなら一人でいけちゃうんだよね。シリーズ最強の勇者だって名高いよ。それらをプレイした動画の編集も終わってるし、あとは地球に戻って投稿するだけ。……アナザレベルどうにかしないと戻れないけどね。
ドラグナーストーリー4を起動して、新しいデータのはじめからを選ぶ。文字通り死んでまで遊びたかったドラグナーストーリー4も、最初から始めるのを何回も繰り返すと感動しなくなってくるね。まあ、慣れちゃったんだから仕方ないね。
……ピンポーン。
と、突然、トズマホからチャイムの音がなった。まだ名前入力の最中だったんだけども、誰か来たみたいだ。俺はゲーム画面をスリープモードにし、誰がこのお屋敷のチャイムを鳴らしているのか確認してみた。
誰も映ってない。あ、いや、肩だけ映ってる。なるほど、慌ててるのか変な方向から押しちゃったみたいだ。そりゃこんな深夜に来るんだもんね、何か急用に決まってるよ。
考えられるとしたら、メフィラド城がまたまたまた襲われて、兵士の誰かが助けを求めに来たか、あるいは俺がSSSランカーであることを踏まえて回復魔法で治療してほしい急病人が出てきたか。こんな時間にモデルの依頼はないでしょう。
俺はとりあえずアリムに戻って、ちゃんと服を着てからマジックルームを出た。ミカを起こさないようにゆっくりと歩く。
「んっ……あゆむ……らめっ……」
びっくりした……。ミカが寝言言ったよ。また俺とエッチなことしてる夢でも見ているんだろうか。でも夢って起きる直前に見るものじゃないの? まあ、ミカってこの世界で寝てると、俺とミカが織姫と彦星になったり、俺が蟻になって『蟻ム』だなんて言って増殖したりするような、変な夢見るらしいし、こんな時間に寝言するのもそう考えるとなんてことないのかも。
とりあえず俺はお部屋から出て、お屋敷の廊下を歩く。そして玄関にたどり着いた。玄関からお庭に出て、門の前へ。
メフィラド城下町はものすごく静か。俺を呼んだ人以外、人っ子一人いないんだし仕方ないね。まさに寝静まった夜といったところ。門を軽く開けて、俺は顔をのぞかせた。呼び鈴の前に男の人が一人。俺は声をかけた。
「おまたせ! ごめんなさい、来るの少し遅くなっちゃって」
「本当、大分待ったよ……」
むぅ、こんな夜中に呼ばれて、普通なら寝てる最中のはずなのに待ったよなんて言われるのは心外だなぁ。でもそんなことにいちいち怒ってたら仕方ないので気にしないことにしよう。
「本当にごめんなさい。……それで、ボクに用件ですよね?」
「うん、間違いなく貴方に用件があってきたんですよ」
「こんな時間ってことは、緊急事態でしょう? 急病の人がいるんですか?」
「特に病気の人はいませんよ。……いや、僕自身が病気なのかも」
「?」
よくわかんない人だなぁ。さっきからお顔見えないし。もしかして精神的におかしい人の深夜徘徊かな? どこがどう悪いか分からなきゃ精神を治す薬を出すのは危ないんだけど。
「……あんなことがあったのに、もう頭の中は平和ボケしてるのか」
「え? ボクがですか?」
「……してるでしょ。ねぇ?」
そう言って振り向いたその人の顔は、明らかにアナズムの住民じゃない……日本人だった。
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