第1078話 他と違う呼び出され方

「……」

「……有夢、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」



 幻転丸はお話しが終わったと言って切り上げた。結果的に知らなかったことのいくつは知ることができた。結局、幻転丸はアナザレベルとの契約(と、強い人を求め)で俺たちに襲いかかってきていただけだったから二代目アナザレベルについては大きく知らないみたい。俺を襲う理由とかはわからないみたいだ。……いや、それを聞いたときはなんかお茶を濁したような反応だったので、少しは知ってるんだろうけれど、訊いても教えてくれなさそうだった。

 となると、頼りはシヴァだけど、シヴァ達もやっぱりはぐらかすだけ。あんなに俺のこと可愛がってるのにね、なんでそのことになると急に黙っちゃうんだろ。絶対鍵を握ってるのはシヴァ達三柱だと思うんだけどなぁ。

 とりあえず、それから俺たちは解散した。その直後に光夫さんに地球に帰るかどうか訊いたんだけど、迷惑かけた分、俺たちの事が心配だし、どうせ向こうの時間も俺たちから見れば止まってるのでしばらくこのお屋敷に泊まっていくらしい。まあ、この人も二代目のアナザレベルと直接関わったわけだし、何か手がかりとかを教えてくれるかも知れないので許可したの。

 ……そして、俺は今、ちょっと色々考えていた。今まで光夫さんや幻転丸を敵として相手してきたこともあったけど、幻転丸の、「地球からアナズムに連れてこられた人は無茶をしてでも帰りたくなる」という話を聞いて他人事のように思えなかったから。

 俺も、美花がアナズムにくる三周間くらい前からだんだんと精神的に疲れていっていた記憶がある。まだアナズムでは一年経ってないけど、だいぶ遠い昔の話みたいに感じるよ。なんでだろう。やっばり、アナズムには時間を狂わせる何かがあるのかも知れない。

 ミカが居なかったら、俺も、確実に幻転丸や光夫さんみたいになっていた自信があるね。魔神か神様のうち誰かと協力して暴れまわっていたかも知れない。もしかしたら、カルアちゃんをいじめたり、メフィラド王国を滅ぼしたり……。



「ね、ミカ」

「ん?」

「ありがとう」

「ん? どういたしまして」



 ここまで俺がミカに依存するのも、寂しかったからかもしれない。ショー達の話でミカは最初から病むほど俺が好きだったって話は聞いてるけど、俺は……本当にここまでだっただろうか。今となってはそうとしか考えられないけど。

 ……待てよ、俺とミカだけやけにこの世界へ来た理由がおかしくないか。俺が把握してるみんなを除いたら、幻転丸も光夫さんも、賢者としてこの世界に呼ばれてきたんだよね? 二代目アナザレベルは、俺が良い子だったからこの世界に呼んだって、初日に言ってた。だから俺は実際はなんの役職もない。

 でも、時間をいろいろ弄くり回せて、なおかつ俺を呼び出したいのであれば死ぬ直前に賢者として呼び出せばよかったんじゃないだろうか。なんでそうしなかったんだろう。そして、なんでミカまで連れてきたんだろう。俺が寂しそうだったからミカを殺して連れてきたんだったら、本当にミカには申し訳ない。

 そもそも、あんなタイミングよく頭の上に重いものが落ちてきて、運悪く打ち所が悪いなんてことある? 俺って見た目に反してかなり体が頑丈だから大怪我までならまだわかるんだけど。……ミカを轢いたトラックも、俺の頭を穿いた花瓶も、全部、二代目アナザレベルが仕組んでいた事だとしたら……? 



「本当に大丈夫?」

「あ、ああ、ごめん。なにかあった?」

「いや、すごく怖い顔してたから。まあ、有夢のこわい顔なんて子猫が威嚇してる程度なんだけど」

「……なんで俺ってこの世界にいるのかなって、思ったんだよ。いろいろおかしいもん。だいたい、みんなこの世界にしてる理由が賢者なのに、俺とミカは違うし」

「二代目アナザレベルに何かの理由で連れてこられたんじゃないかっておもってるの? まあ、私もその通りだと思うよ」

「あれ、わかってくれる?」

「私、前々からなんとなく、そう思ってたし」



 なんだ、そう思ってたのか。むしろ俺が今まで考え過ぎなかっただけなのかも。カナタとかもすでに勘付いてそう。……ていうか、勘が鋭すぎるミカがそう言ってことは事実である可能性が高いよね。

 じゃあ、なんのために? やっぱり、俺が可愛いがための超新手の誘拐とか? ……なくはないのがこわいよ。実際、地球では俺を誘拐するためにバスジャックだってされかけたことあるんだから。



「ミカ」

「ん?」

「可愛いって、罪だね……」

「そうね、心酔しちゃうもんね。……可愛いからアナズムに連れてこられたとか考えてるの?」

「もうそのくらいしかないんじゃないかなーって」

「……有夢ってI.Q、叶君ほどじゃないけど人知を超えた高さではあったはずよね? そんな大掛かりなことするの私くらいよ」

「ううー」

「……疲れてるんだよ有夢。ほら、私に甘えて休めばいいじゃない」

「そうする……」



 俺はミカに甘えるように抱きついた。まあ、呼び出されて良かった点は、友達がたくさんできたこと、親友に生涯のパートナーが見つかったこと、好きなだけレベル上げできること、レベル上げしたらやりたい放題できること、そしてミカと付き合えたことくらいだね。この世界に来なかったらエッチしたことないどころか、まだ付き合ってすらいないだろうしね! 

 ……うーん、アナズム来てからいいことばっかりなのがなんとも言えないよ。

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