第1062話 果し合い
「ふむ、ここなら良いでござるな」
「……」
俺と幻転丸っつう侍は叶くんのスキルによってこのヘルの森のひらけた場所まで移動した。苦しいほどの威圧感を感じる。別に睨まれても凄まれてもいないのに体が身震いし、後ずさりしたくなる。
俺は今まで、アナズムに来る前から柔道の技のみで不良の大群や重火器を持った相手と戦い、勝ってきた。そうだ、多くの犯罪者たちをのしてきた。有夢と美花を守るためである場合が多いが、普通じゃ考えられないようなピンチもなんでも凌いできたんだ。自分は強い、そういう確信はあった。だがこいつを目の前にしたら、全てがちっぽけなようで__________
「……お主、全身にカッチカチに力が入ってるでござるよ。少しリラックスするでござる。拙者は何もいたぶりに来たのではない。楽しめる戦いをしに来たのでござる。実力の十割を出してもらわないといけないでござるからな」
実力の十割か……。今の俺じゃそんな力出せるかどうか。誰も応援してないし、誰かを助けるためでもない。リルも有夢も美花もいない。本当の実力者と二人っきりの果たし合いなんて初めてなんだ。いや……地域内で最強という名声が欲しいからと喧嘩自慢の不良がタイマンを挑んできたことは何回もあった。全部漏れなく受けてたち、勝利してきた。だがあれは死と隣り合わせではないから出来たことだ。
「……なるほど、このような殺し合いは初めてでござるか。ということは人を殺したこともないのでござろう。日本でも、アナズムでも」
「ああ、当たり前だ」
「拙者は日本では致したことがないでござるが、アナズムでは何十人と斬ってきたでござる。……必要な殺しだったでござるよ」
そう、真顔で侍は言った。人を殺す感覚というのはわからねー。俺にとって最も遠い行いだからだ。どこぞの親友のせいで人が死んだ時の気持ちは嫌という程わかるが。
「それで、お主は今日、初めて必要な殺しをするのでござる。拙者は殺さなければ止められないでござるよ?」
「……俺にお前を殺せっていうのか」
「その通りでござる。殺す気で来い……という意味ではないでござる。そのまま、殺しなさいという意味でござる。勝てればの話ではあるが」
「俺は……俺は人を殺さない。絶対にだ」
そう宣言すると侍は肩をすくめた。生ぬるいとでも思っているのだろうか。それでも構わない。俺は人命救助ならいくらでもできるが人を殺すことは絶対にできない。
「……そうだお主、もしかして人を殺したことはないが人の命を救ったことはあるんじゃないでござろうか? そんな、正義の目をしているでござる。数十人は救ったとみた」
「その通りだ」
「なるほどなるほど、それならば殺しを強要するのは非道。拙者がこれから戦うのは真に正義の心を持った少年でござるかぁ……いやぁ、楽しみでござるな。どうやって拙者を止めるのか。見ものでござる」
侍はゆっくりと腰にぶら下げている刀に手をかけ、鞘から引き抜いた。日本刀だ。そういや日本刀を振り回してくる通り魔も制圧したことあったな。だが明らかにアレは別物だな。刃物自体は怖くはない。怖いのは使用者の技術。あいつは俺が有夢達の中で一番ステータスを除いた格闘技術があるから挑んできたんだったか。
「……とは言ったもののまだ果し合いをはじめるわけには行かなさそうでござるな。どうしたらやる気を出してくれるものか。相手のやる気を出させるために人質などをとるのは拙者の流儀に反するし……」
取ろうと思えば人質もこの場でとれるということか。こいつのスキルは一体なんなんだ。そうだ、本物の侍と戦うことばかり考えていたが、これは魔法やスキルを交えてのもの。マスター系のスキルを持っていることも考えねーといけねーな。
「どうにか、どうにか本領の発揮をお願いできないでござろうか」
「んなこと言われてもな……」
「なら、ならばこれでどうでござろう。拙者もお主を殺さない。お互いに死を悟る攻撃を寸止めされた時に潔く降参を唱える。な? お主はその程度の見極めがつくほどの実力があるはずでござる」
「ま、まあそれなら……」
「……よし、では参ろうか。それともし拙者に勝てたのならアナザレベルについて少し教えてやるでござるよ」
向こうの方から色々と引き下げてきたな。しかしこれならいつも通り試合として本気を出せる。だが確実に俺の人生で戦った人間の中で一番強い相手だ。どれほど食い下がることができるだろうか。
……しかし何故だろうな、あの悪い奴らと一緒に居たっつーのにこいつはなんだか邪気が感じられない。有夢の偽物とかポイズンマスターとかいうやつはドロドロとした邪悪なものを抱えていたんだが。
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久しぶりの一人称かつ2000文字未満。やはり三人称は私にとってとてもとても書きにくいですね……。
ござるキャラ登場なので、私のござるキャラは封印中であります。
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