第1061話 神の力

「……やめろ」

「あん?」

「……やめてくれ……」



 ヒュドルが次々と挙げていく自分の愛する者への拷問案の数々に耐えられなくなり、常に更新される毒による激痛でしばらく黙っていたウルトはボソボソとそう言った。

 精根尽き果てた顔をしているウルトをみて、ヒュドルは破顔する。



「ひ、ヒハハハハハ! そうか、そうかやめてほしいか! やめないけどな、やめないけどなぁああああ!」

「……俺なら……俺だけならどうなっても……」

「そう言われてもねぇ。もうこんな首だけの状態になってる奴が新しいオモチャの代わりになるわけないしなぁ。あ、魔力高めて急激に痛みを増やにてみるか。それなら楽しめるかもな。ほらよ」

「ぐ……くっ、うああああああああああああがっ……はっ……」

「うーん、奴隷商だった手前、他人の苦痛の声ってのは快感だけどな……やっぱ女のほうがやりがいあるよなぁ」

「…………っ」



 ヒュドルは毒の魔力を元には戻さず、そのまま街に向かって歩き始めた。ウルトの意識は朦朧としている。朦朧としているが意識自体はある。彼はまだヒュドルを自分のみで倒すことを諦めていなかった。ただ、一つ、諦めていたのはヒュドルを生かして捕らえるということ。ヒーローと崇められたウルトの心の中に、昔、最初にヒュドルと対峙した時同様に明確な殺意を覚えていた。

 そしてウルトはまずこの状況から脱出するためにクーリチャーマスターによる体の変化を起こす。今まで魔力が尽きていたため魔法やスキルを使えなかったが、ヒュドルが拷問方法について嬉々として話している間に少しだけ回復していた。その少しは、とても大きい。



「……ん? なんか静かになったか?」



 街の高い建物が見えてきた頃、ようやくヒュドルはウルトがうめき声すらあげていないことに気がついた。しかし生命活動をしている感覚はあるため死んではいないことはわかっている。

 長年培ってきて得た、勘。それがひたすらに警報を鳴らしている。ヒュドルは慌ててウルトの方を振り向いた。ウルトは、毒の沼に浸かりながら痛みすら感じていないような、平然とした表情をしていた。



「……おっ、お前……お前、なんで……」

「………」

「なぜか答えろッッ! なぜ毒が平気なんだッ!!」



 ヒュドルは不気味に感じ、ウルトの顔面をステータスに任せておもいきり蹴飛ばす。直撃した。しかしウルトはやはり痛がる様子もなく、潰れた顔面をヒュドルに向ける。



「な、なんなんだよ……」

「お前が……お前が俺の愛する者へ卑劣な思考を張り巡らせている間に……俺はMPを回復させていた。俺はクリーチャーマスター。生物の力を得、自身の身体も自由に操れる。痛覚をなくすことなど簡単なんだ」

「そっ……そうかいそうかい。じゃあ『やめてくれ~』って発言は……」

「調子に乗ってもらって時間稼ぎするためのものだよ。本心でもあるけどね」

「お、おい、出てくるんじゃ……」



 ウルトは毒沼から手を取り出し、地面に手をかけ自分の体を這いずり出した。ヒュドルは慌てて殴ったり蹴ったりを繰り返すが一向に聞いている様子はない。SSSランクとしての威力はあったためウルトは攻撃を加えられた箇所が悲惨な状況になっていったが全く気にしていない。



「くそっ……痛みを感じねぇんじゃ、何をしても楽しくねぇ。……こ、ここで死ね!!」

「死ぬのはお前だ、ヒュドル。痛覚をなくしたのは実はもう十分も前。その間に存分にMPを溜めさせてもらった」

「はっ、MPを溜めたところで十分じゃ四回か五回の変身が限度! それで俺様を倒せるなどと……」

「ヒュドル、まさか神の力を手に入れたのはお前だけだと思っているのか?」

「……あん?」



 赤い炎の翼がウルトから生え、かかっていた毒や物理攻撃でできた傷が癒える。そこまではヒュドルの想定の範囲内。だが次の瞬間、ウルトの赤い羽根は全て白く変色し、神々しくなっていった。まるで、ヒュドルが仲間と認識していたメフィストファレスや、洗脳済みの元勇者の悪魔形態のようであった。



「お、お前それ、悪魔の力じゃねぇか……」

「違うよ、言った通り神の力さ。正確には魔神、だけどね」

「……まさかこの間現れた悪魔神サマイエイルの力を、クリーチャーマスターで真似たとか言うんじゃねぇだろうな……」

「その通りだ。あの時はサマイエイルの羽根に触れた、お前含め犯罪者は全員アムリタでアリムちゃんの慈悲として生き返らせてしまったようだけど……。今回はお前を生き返らせる必要なんてない。殺した後に、その死体を急速に自然分解させてもらう。跡形も残さない」

「は……ははは……ふざけんな……。神の力を真似るだなんて、そんな馬鹿なことが……俺は神から力を受け取っただけだぞ!? 神そのものの力を持ってるわけじゃ……!」

「それは、残念だったね」



 ウルトは無表情のまま、白い羽根でヒュドルを包み込む。ヒュドルの生命活動は停止した。そのあとウルトはヒュドルの死体を、悪魔の一人から手に入れた腐食の能力で腐らせ、地面に埋葬し分解させる。全てが済んだ後に、ウルトは一息ついた。



「久しぶりに痛みを味わったよ……。もう動けそうにないや。悪いけど……城に戻るのは……もう少し……あ……と……」



 ウルトは気絶した。





#####



~アナズムの国民によるQ&Aのコーナー~



Q. ラストマン、もといウルトは同性のワシから見てもかなり整った顔立ちをしておるが……おそらくあればクリーチャーマスターによる効果で整形したものじゃろ? そうなんじゃろ?


A. 残念ながらウルトがイケメンなのは元からよ。クリーチャーマスターを手に入れる前からあの顔だったわ。クリーチャーマスターになってから自分の顔をいじったのは、親知らずを抜いた程度よ。もう一度言うけれど、ウルトは元からイケメンよ。



(質問者:ユグドラシル神樹国在住の召喚士おじいさん)

(回答者:メフィラド王国在住の宿屋の兎族若奥様)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る