第1057話 能力と決着

「たしかに俺は剣の扱いは最高峰だ。で、俺の能力をコピーしたお前は俺の剣術の真似ができるのか? いや、剣術だけじゃなくて、俺の持つ全技術を」

〔……どうだろうね〕

「わかってる、できないんだろ?」

〔……〕



 ニャルラトホテプは黙ってしまった。それは図星であったから。ニャルラトホテプの能力は相手の容姿・記憶・スキルをコピーできるがコピー元の体に染み付いたものまでは真似できない。仮になんらかの職人になったとして、その職人が作る物の仕組みや作り方は理解することができるが、実際作ってみると身体がそれに追いつかないのであった。

 ニャルラトホテプは何も言わずにイルメの姿に戻った。



「おいおい、その姿はずるいって」

「……たった今、この数秒で君の記憶を探り終えた。相当な修羅場を何百回も、普通じゃありえないくらい潜ってきたみたいだね」

「ああ、その通りだ」

「……ステータスも、」

「ステータスも、ダンジョンを何百個とクリアしたことでそのボーナスにより転生者と引けを取らないまでになっている、といいたいのか?」

「うぅ……。そうだよ。だから、だからこそ君はバトルマスターというスキルを使いこなせるんだ。このスキルは、ステータスやスキル関係なしで、本人の強さ、経験の豊富さで効果が変わるから」

「正解だ」



 ギルマーズは微笑んだ。それとは対照的にイルメの顔はだんだんと青くなる。様子が変わったのは顔だけではない、足腰も震え始めていた。



「なんで、なんでこんな化け物がいるんだよ。アリム・ナリウェイなんて、ただ単にレベルを上げてスキルを強くしてるだけの存在と比にならないくらいの化け物ッ……! 本当は、本当だったら君単独で全部の魔神を倒すことだってできたんでしょ!?」

「できたかもな。でも、一番安全で結果的にみーんな五体満足でいられるのはアリムちゃんに任せることだった」



 当然のことのようにギルマーズは言った。イルメは恐怖からすでに立つこともままらなくなり、地面にへたり込んでしまっている。そしてボソボソと、説明をするような口調でつぶやき始めた。



「……バトルマスターは所有者の経験に基づいて、戦いに必ず勝てる、自分や周りにとってもっとも利がある最善の答えを出すことができるスキル。その過程も全部未来予知に高いレベルで読み取ることができる。必ず勝てる戦いをする、だからバトルのマスターなんだ。勇者だって廃れるような力だよ」

「俺が直接言わなくても記憶読んでここまでわかるんだ、十分、お前の能力も化け物だよ。ま、バトルマスターの能力はもう一つ。目の前の敵より頭一つ分強くなれるだけの力を戦闘中だけ元から加算されるっていうのもあるが」



 イルメはギルマーズの方を見る。ギルマーズは攻撃する様子もなくイルメのことを見下ろしていた。イルメは目に涙を浮かべ、土下座をした。



「お願いします、見逃してくださいっ……」

「それが……俺からコピーしたバトルマイスターが出した答えか?」



 イルメはコクコクと必死に頷いた。そして再びアリムに似た姿のまま、SSSランクの魔物最高峰の一角というプライドを捨て、たった一人の勇者でも導者でも賢者でもない男に土下座をし始めた。



「いやだから、その姿であの子がとりそうにない行動するのはなぁ……」

「だって勝てないもん! 瞬間移動だって予測されて全部回避されるし、仮に大技を放とうときても事前に止められちゃう! 諦めるしかないよ!」

「まあ、バトルマスターも弱点がないわけじゃないんだけどな? 自分が戦いの場に居なけりゃ使えないっていうデメリットがあってよ。そのせいでこの国の王様とか何回か殺されちゃったわけなんだわ、どっかの集団に」

「ひっ……ゆ、許して。わ、私達は神さまに言われたから従ってただけ……!」

「俺のスキルコピーしてから随分と弱気になったな……。あ、そうだ。集団で思い出した」



 ギルマーズは剣をしまい、土下座を続けているイルメの前まで歩いていく。イルメは嫌がり少しずつ後ずさりしようとしたが、ギルマーズのなんらかの魔法によってそれは制止された。



「なんで戦いにおいて最善の答えを出せる俺がその神様とやらに付いてないと思う? まあ、どんな答えがでようと俺は仲間や友人達と一緒に戦うわけだが、それ無しで考えてよ」

「……そ、それは……」

「わかるよな。劣ってるとはいえ俺のスキルをコピーしたんだから」

「……」

「まあ、あとはどうなるかだけ見ていようぜ。特別に見せてやるよ、この後からどうなるか。生かしておいてやる」

「ほ、ほんと!?」

「ああ」



 イルメの目は輝いた。それは年相応の見た目の少女が喜んでいる姿に相違なかった。



「ありがとう……私はっ! まだ生きていられる!」

「やっぱアリムちゃんに似た子を殺すのは忍びないしな、最初から言っている通りだ。俺が後味悪くなく勝つには……これが一番なのさ」

「は、はいっ」

「じゃあ封印っと。よかったぜ、いつも封印セット持ち歩いてて」

「えっ……あっ……? あぅ……」



 イルメの体はどんどんとギルマーズが取り出した杖のようなものの先端から吸い込まれていく。やがて全身がその杖の中に入ってしまった。聞こえていることを踏まえて、ギルマーズは杖に話しかけた。



「この先を見せてやるとは自由にのさばらせるわけないだろ、アリムちゃん、お前の話をするとき顔を歪ませてマジで恨んでいたような感じだったしな。それに……俺がお前の相手をした時点で、お前はあの中でもヤバイ相当の強さだってことにもなるからな。ことの顛末を迎えたあとは、お前の処遇はあの子に決めさせるぜ」



 ギルマーズは杖をしまい、後方に振り向く。メフィラド王国城下町へ戻るために。




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実はギルマーズ、Levelmaker書き始めた頃から作中最強しようって決めてました。

ずっと能力を公開しなかったのはこの作品の題名をLevelmakerからギルマーズメーカーにしないためです。

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