第1058話 因縁

 メフィラド城の入り口付近にて、ウルト・ラストマンとヒュドルが対峙している。自分には神の力が加わったと笑みを浮かべ勝利を確信したような態度をとるヒュドルに対し、ラストマンは英雄としての姿のまま無反応でいた。



「神の力……ね」

「なんだ怖気づいたか?」

「まさか」

「そうか、これを見てもまだ恐怖心は芽生えないか?」



 ヒュドルの皮膚が紫色に変化する。汗のようなものが身体から垂れた。その垂れた汁は大理石の床に落ちると、その部分を溶かし尽くしてしまった。



「たしかに毒の威力が上がっているようだな」

「ああ、さっきのはテメェに吸収されちまったが、今度はそうはいかねぇだろうよ!! 守れるもんなら守ってみろ英雄。カミノ・ハイドロポイズン!」

「くっ!」



 ヒュドルは全身から液状の毒を噴出し、毒の濁流を作った。ラストマンはそれが周囲に流れないよう自身の体で即座にヒュドルの周りに囲いを作り塞きとめる。肉が焼けたような音を立て、ラストマンの肉壁と床から黒い煙が上がった。ラストマンは溜まっていく毒を全身で吸収しつづける。



「おらおら、どうしたどうしたどうした! 反撃してみろよ英雄ゥ! それとも……あの日より俺の毒が増してて吸収が追いつかねぇか? テメェは即座に俺の毒に対して抗体を作ることができるが故に耐えてるが、テメェ以外の人間が一滴でも俺の毒を浴びれば終わりだ。毒にステータスは関係ねぇ。このまま物量で決壊させたらきっと楽しいことになるぜ?」

「いつ俺が反撃できないと言ったんだ」

「おう!?」



 毒が溢れるのを防ぎつつ吸収していたラストマン本人の体で作られた肉壁が急速に縮み始めた。ヒュドルは毒の排出量を上げ抵抗したがそれは無駄に終わり、ついには全身隙間なく肉で埋められてしまう。



「う、うごごごごご!?」

「……ふぅ」



 ラストマンはヒュドルが肉に挟まれ身動きが取れなくなったことを確認すると、肉壁から自身の本体を分離させた。



「さて、これからどうしようか」

「どうしようかなんて考えてる暇はないぜ? なぜなら……」

「ナッ!?」

「テメェの毒の抵抗力と吸収力より、オレ様の毒素の方が上だからだ」



 毒に対応したはずの肉壁が溶かされ、中からより毒の液を滴らせるヒュドルが出現した。ラストマンは一瞬驚きつつも、無言で、まるでやけのようにヒュドルに突撃をする。



「おう、溶かされに来たか!?」

「……チガウ」

「なんだァ?」



 ラストマンの身体が一瞬にして魔物のような何かに変化した。顔が大きく、身体は細め、大きな翼を持つ不気味な何か。既存の魔物のキメラのようであった。



「チッ、そういうことかよクソ英雄が!」

「バショヲ、移動スル!」



 巨大な顔はヒュドルに向かって口を開け、そのまま飲み込んでしまった。口の中に囚われたヒュドルは即座に全身から猛毒の霧を噴出させる。



「うぐっ……! くっ……」



 口内に蔓延する毒を一切外に漏れないようにラストマンは全て吸い込む。だんだんと自身の抵抗速度を上回ってくる猛毒の苦しみに耐えながら、ラストマンは外へ飛び立った。

 城下町からできるだけ離れたところで限界が訪れ、落下。くらい名称すら付いていないような森の中に横たわることとなった。腹部から毒で腹を溶かし出てきたヒュドルが現れる。



「あーあー、どこだァ、ここは」

「俺も……ハァハァ……知らない……」

「ま、いいや。あとで毒の津波でも起こしてここら一体更地にすりゃ帰り道もわかりやすくなるだろ。で、どうだ英雄、神の毒の力は。流石のお前でも苦しいか、ん?」

「た、たしかに想定以上だけど……なめ……ないでほしい……ね。お、俺は……不死身の英雄なんだッ!」



 ラストマンは顔の大きなキメラをやめ、英雄として認知されている姿に再び戻った。その瞬間炎が上がったと同時に、ヒュドルから受けたダメージが全て消え去った。



「オレ様は後から知ったんだ、それがフェニックスの力だってな。なにが不死身の英雄だか。その本質は魔物のコピーだっていうのに」

「魔物のコピーだったとしても、正しく使えるなら、その力は正義だ」

「正義ねぇ……でもお前、オレ様を最初に倒した時……正義もクソもなかっただろ? たんなる復讐心。醜い醜い復讐心で対峙してきた筈だ」

「…………」

「そういや、あのもう一人テメェと一緒にSSSランクに上がってきたメスウサギは元気だって話だよな? 風の噂じゃどっかの誰かと結婚して妊娠までしてるとか。幸せな結婚生活、ねぇ。あの使えない奴隷が……」

「………もうパラスナは奴隷じゃない……っ!」

「いいねぇ、その仮面の下じゃ、どんな恨みを募らせた顔してるんだろうねぇ、英雄ゥ。この戦いが終わったら殺しに行くぜ」

「……ッ!!」



 ラストマンは拳を握る。その拳は黄金に輝き、暗い森の中を明るく照らした。途方も無い熱力を含んでいることも一目瞭然であった。

 一瞬の速さでヒュドルの目の前まで移動し、その拳を顔面に打ち付ける。しかしその拳はヒュドルの頭を手応えなく貫通。ラストマンが様子を見てみると、それは毒が固まらされて作られたダミーであった。



「ハハハハハ! 当時はハプニングばかりでオレ様が敗北を喫することになったが。ぶっちゃけ、テメェはまだ青二才。SSSランカーになってから三年くらいしか経ってない若造だ。タイマンならよぉ……オレ様の方が技術や経験で部があるんだわ……」

「……それはどうかな」

「ま、オレ様が神に選ばれてるという時点で……貴様は終わりなんだぜ」



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自動車学校の合宿が終わりました!

今日から普通に投稿できると思います!

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