第1053話 真面目な男
「では、いかせてもらう!」
ガバイナはジャンプをした。普通の人間では到底不可能な高さのジャンプを。ステータスはもちろんのこと、滞空してからは異様なほどその時間が長く不明な浮遊感があり、何かしらのスキルを使っているのは明らかであった。
「くらえ、槍神奥義! 五月雨!」
<ふん、そんなもの……くっ!?>
カオスブラックドラゴンは回避をしようとしたが急に身体が重くなったような感覚に襲われ動きを鈍らせてしまう。ガバイナがギルマーズ等から事前に作成方法を聞き作成していた、槍の最上級のスキルの奥義をまともにくらった。
神の力により全体的なステータスも上がっているとはいえ、火力面より防御面はその伸び幅が劣っており、技をまともに受けたことはカオスブラックドラゴンにとってはかなり大きなダメージとなってしまった。カオスブラックドラゴンはそのまま抵抗することもなく地面に落ちた。
<ぐはっ……。き、きちんと使っているではないか、神奥義を……! 低いランクのスキルだけではなかったか。し、しかも吾輩に重力スキルをかけ返す余裕まであるとは……!>
<が、ガバイナ教えてくれ! 一体どういうことだ!>
「簡単な話だローズ、俺はこいつが俺たちにかけた劣化スキルと同じ効果の出る重力スキルを……あらかじめ習得していたのだ」
<なるほど、重力魔法の弱点は重力魔法だからな。しかしどうやってそのようなスキルを? ガバイナとやら>
「俺の先祖の真似をしただけだ。つまり、こいつはかつてドラゴンスレイヤーにより劣化魔法を無効され、なおかつ重力魔法のぶつけ合いで擬似劣化も無効され、その間に冒険者らに袋叩きにされ敗北したんだ。いつ同じような存在が出てきてもおかしくはないと、先祖はスキルのレシピを残してくれていた」
ガバイナは自身がなぜかカオスブラックドラゴンの劣化魔法が効かないことに疑問を持ち、その結果ドラゴンスレイヤーであることに気がついてから今までの間に、熱心に先祖のことを調べていた。そして残されていた文献を見つけ、その先祖らと同じように自分がカオスブラックドラゴンを倒すべくスキルを調整していたのであった。ジャンプの飛距離と長い滞空時間はそのスキルでカオスブラックドラゴンに対抗した際に威力が上回っている余剰分が反映したものだった。
「単純に力負けしたときは参ったが、そこはローズたちが駆けつけてくれたから助かった」
<そっ……そうか! えへへ>
<ふっ。吾輩は時代を超えてなお、あのドラゴンスレイヤーに敗北するか……>
「……敗北? まだ元気そうに見えるが。ローズもファフニールも魔法の抵抗を受けたままのようだし」
<そう見えるか? ならば貴様がさっき開けた風穴をとくと見るがよい>
カオスブラックドラゴンは横たわっていた身体を起こす。その体にはドラゴンの急所と言われる全ての箇所に正確に大きな穴が開いていた。ガバイナが無意識に、正確に、一切の狂いなく与えたものである。
<……吾輩は魔力が豊富だからしばらくは話せるが、もうだめだろうな。この部屋内じゃ仲間からの回復魔法も望めん。……この手際の良さは、冒険者としての活動態度ゆえだろうか。いかにも真面目そうな男だものな、貴様は>
「そうか、俺は勝ったのか」
<わ、我、変身する必要あったか? 駆けつけて回復するだけでよかったんじゃ……>
「変身してくれたから慣れないスキルも扱う時間を作ることができたんだ。ありがとうな、ローズ」
<それなら……よかった!>
ドラゴンのままローズは笑った。ドラゴンの見た目であるにもかかわらず、ガバイナはその笑顔にいつもの少女態のローズの面影を見た。次の瞬間、カオスブラックドラゴンは力が抜けたようにその場に横たわる。同時にローズとファフニールにかかっていた魔法はとけ、逆にガバイナの身体が宙に浮き始めた。
「お、おっと! ふぅ、解除しなければ危ないところだった」
<ガバイナとカオスブラックドラゴンが使っていたスキルの効果ってなんなんだ?>
「このスキルはSSランクの中位のスキルでな、グラビティイロージョンという。まるでなにかの病気のように身体中の細かな部分まで何百箇所全てにまばらな強さで重力をかけて体の機能全てを停止させるスキルだ。俺は体全体に打ち込まれた重力と逆の重力を打ち込み対応した。少し体が軽くなったのはそのためだ」
<なるほどな、凶悪なスキルだ>
<つまりガバイナは今後、そのスキルを使って仕事もできるわけだな。良いスキルを手に入れたではないか。余も覚えようかな?>
「ふっ……これはドラゴンスレイヤーの間だけで留めておく。強力過ぎるからな。まあ今の世の中、なぜか俺しかドラゴンスレイヤーはいないわけだが。……しかもつい最近まで称号すらなかったわけだしな」
<……なぜか教えてやろうか?>
「まだ生きていたのか」
カオスブラックドラゴンは身体を横たわらせたままガバイナに話しかけてきた。しかしその発する言葉はすでに弱々しく、命が風前の灯であることは誰もが悟ることができた。
「……わかった、最後に教えてくれ。ドラゴンスレイヤーのことを。なぜならドラゴンスレイヤーは……ドラゴンスレイヤーと表記されてはいるものの称号の効果としてはお前を倒すことに特化しているものだからな。そこらが疑問だ」
<ああ、いいだろう。吾輩の命が尽きるまで教えてやる。これは……吾輩を懐かしい気持ちにしてくれた例だと思うがいい……>
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