第1052話 三匹の竜 2

「美しい……」

<……そっ、そうか?>



 ガバイナは気がついたら、変身した、もとい元の姿に戻ったローズの姿を見てそう言葉を漏らしていた。ローズの耳にしっかりと聞こえておりドラゴンの姿のまま照れる様子を見せる。



<ローズとやらから発せられるこの薔薇に近い匂い……どっかで嗅いだことあるんだよな>

「それは、そのまま薔薇じゃないのか? 身体の模様や元の名前といい、ローズはローズドラゴン系だったのだな」



 ガバイナが言うようにローズがドラゴンと化してからこのマジックルーム全域に薔薇の匂いが漂っていた。しかし、ファフニールロットはそれに対して首を傾げた。



<いや、余はこの匂いをこの城の食料庫や、勇者が出してくれた肉の塊の中から……>

<わーっ! と、とりあえず、とりあえず目の前の敵を倒そう! なっ! 我が正確にはどんな竜かなどはそれからだ!>

<……まあそう言うなら仕方ない>

「戦いに臨もう」



 二匹と一人はカオスブラックドラゴンの方を向く。対峙された本人はあきれた様子でガバイナ達を空中から眺めていた。



<キングローズドラゴン……のメスだからクィーンローズドラゴンか。人間態は転生者だったが、竜態はSSランク程度しかないではないか。身体が金色故に亜種ではあるようだが>

<確かに我は元々SSランクの亜種の魔物! だが、ステータスは人間の時のままだ!>

<ほう……>

<これが我の咆哮だ! 喰らえ邪竜!>



 ローズは口を開け、魔力を集中。すぐさま黄金の咆哮が放出された。しかしカオスブラックドラゴンはそれならばと同じく自身の咆哮をそれを押し返すように放つ。二つの流れはぶつかり合い、ローズが若干競り勝った。威力の弱まった咆哮の残骸をカオスブラックドラゴンは危なげなく回避する。



<ちっ、ステータスがそのままというのは本当のようだな。さっきの半分程度の威力とはいえ押し返されるとは>

「ドラゴンになったからできるのか……凄まじい攻撃だな」

<いや、これ一応スキルだから人間の時もできるけど……口を開けて攻撃するのって人間態じゃみっともないだろ?>

「そうか?」

<こ、こんな姿になったとしても我の中身は十六の少女のままだぞっ!>

「そういうものか」

<なるほど、人間にとっては口から攻撃するのはみっともないのか。覚えておこう。では今度は余がそのみっともない攻撃を見せてやろう>



 ファフニールロットはそういうと口を開き咆哮を放つ。その咆哮に対しても力比べをするかのようにカオスブラックドラゴンは進んで咆哮で返した。結果、ファフニールロットの咆哮はカオスブラックドラゴンのものに押し負け、ファフニールロットは再びカオスブラックドラゴンの咆哮を全身に浴びてしまう。



<ぐおうっ!!>

「大丈夫か!?」

<問題ない。回復は間に合う。しかしそうか、少女とはいえ侮れない威力をしているなローズとやらは>

<ふははは! 吾輩ら老年の竜はどうやら若き竜には力負けしているようだなっ……!>

「人間同様、竜も歳には勝てないか……」

<……おっさん共、まじめに戦ってくれないか>



 自分たちの年齢に対してそれぞれため息をつく邪竜、聖龍、人間を見てローズは怒鳴る。それを受けカオスブラックドラゴンは自身の構えを直した。



<……ともかく。吾輩が戦い慣れているのは人間相手だけだと思ったら大間違いだぞ、聖龍と小娘よ。吾輩は__>

<十匹以上のSSランクの竜と同時に対峙して勝ち残ったこともある竜の裏切り者でもあるものな。余もお前も伝説の竜同士。知らないと思ったか?>

<貴様は知っていて当然か。つまりこの状況、吾輩にとっては別段先ほどまでと変わらぬ。力では小娘に劣るが、それ以外では吾輩の方が格上だ……くらうがいい>



 カオスブラックの背後から黒紫色の巨大な魔法陣が出現した。その瞬間、マジックルーム全体の空気が重くなり、まるで空間が歪んだかのようになる。ファフニールロットとローズは飛ぶことが難しくな地面に降り立ち、ガバイナは膝をついた。



「なっ……」

<どうだ、吾輩の重力魔法の奥義は>

<くっ、身体がいうことを聞かないっ!>

「これが皆がくらっていたものか!? なんという気分の悪さだ」

<いや違う。でもまるで全く同じもののようだ……!>

<そうだろう? ……吾輩は長年、魔物ながら魔神に最も近づいた存在として君臨してきた。吾輩が倒される時が来るとしたら、それは吾輩固有のスキルが効かぬ、ドラゴンスレイヤーと同族のような存在が攻めてきた時。故に吾輩は重力のスキルを組み合わせ新たに同じような効果持つ魔法を生み出したのだ。最初から使っていればよかったか? ……ん?>



 重圧の中、ガバイナは槍を杖にしながら立ち上がった。そして一度立ち上がるとそのまま力強く地面に足をつける。槍を引き抜き、カオスブラックドラゴンの方へ向けた。



「対策をしていても、一度はドラゴンスレイヤーに敗れ封印された。つまりこの魔法も完璧ではないということだ。みろ、俺は対抗できたぞ」

<……ガバイナ!>

<やるではないかガバイナとやら! タネがわからんが>

<……ふん、面白いぞドラゴンスレイヤー! せっかくの希少な人間、やらりこうでなくてはいかんな!>

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