第1051話 三匹の竜

「……くっ!」



 カオスブラックドラゴンはその口から膨大な魔力を含んだ黒い咆哮を放った。向かってくる黒い流れがガバイナには非常に遅く見える。彼は自分が死ぬのだと悟り、目を瞑った。

 炸裂する爆音。ガバイナは自分の体がかつてない勢いで吹き飛ばされたのを感じた。しかし、死ぬまでには至らなかった。死ぬことは確実であったはずだと不思議に思ったガバイナはゆっくりと瞼を開ける。自身の目の前には、その身体の大半が吹き飛んでしまっている何かが立ちはだかっていた。その何かはカオスブラックドラゴンと真逆であるように、全体が光り輝いている。



<流石にきついな……無事か、ガバイナとかいう冒険者よ>

「お前は……国王様の!?」

<余はファフニールロットという。カオスブラックドラゴンの魔力の質が変化したことを感じ取り、助太刀しに来た>



 ガバイナをかばってカオスブラックドラゴンの咆哮を一身にくらい、全身が爆散したファフニールロットだったが、その体はみるみるうちに再生していく。



<余の竜生の中で二番目には入る威力だったぞ、カオスブラックドラゴン。この間はお前の相方との連携の前に敗北したが、今回はそうはいかぬ>

<邪魔をするなファフニールロット。吾輩の相手はそこにいるドラゴンスレイヤーだ>

<なに、こいつが今世のドラゴンスレイヤーか! 通りであの状況で単独活動できたわけだ。……しかし邪魔とは酷いではないか。前回、貴様らは多人数で余を叩いたのだ。こちらも複数人で挑んだも文句はあるまい……なぁ、そうだろ?>



 完全に身体が治癒しきったファフニールロットはガバイナではなく、このマジックルームの入り口に顔を向けた。国王の聖竜以外にも助太刀が来たのかとガバイナもそちらを向く。そこにはもじもじとした様子のローズが居た。



「ああ、その通りだ。ファフニールロット」

「ローズ……なぜ来た! 竜族とは言えお前は普通の人間なんだ。カオスブラックドラゴンの技の餌食になるぞ!」

「すまないガバイナ……」



 ローズは申し訳なさそうにガバイナの元まで近づき、回復魔法を唱え彼を回復させた。完全に回復しきったガバイナは立ち上がり、ローズに怒りの表情をみせる。



「回復感謝する。しかし用が済んだなら早くこのマジックルームから去るんだ」

「……我も戦う。覚悟はできた」

「覚悟だけでどうにかなる話ではないだろう!」

<まあ落ち着け、ガバイナとやら。もといドラゴンスレイヤーよ。彼女の話を聞いてやれ……それまであの邪竜は余が相手をしよう>

「な……?」

<男女の惚気のために時間稼ぎかファフニールロット! 気高き聖竜が聞いて呆れるぞ!>

<悪くないぞ、こういうのもな>



 ファフニールロットは自身の背中から光でできた翼を生やし、カオスブラックドラゴンに向かって突撃をしていった。ガバイナはひとまず戦いを任せ、目の前の仲間に説得をすることにした。



「なにを考えているんだローズ」

「あの竜に一人で挑もうなどと考えたガバイナには言われたくない。……ガバイナ、聞いてほしい、私のこれから言うことを」

「……言うまでここから退かないだろ。国王の竜一匹に任せっきりにはできない。手短にな」

「ああ」



 ローズと出会ってすでに半年以上。そして仲間として一緒に活動するようになって三ヶ月ほど。今までにローズは自分だけに対してのみどぎまぎしたような様子を見せたことはあれど、今回のは特別であるとガバイナは感じていた。



「我は、本当は人間じゃないんだ」

「なにを言っているんだ……と言いたいところだが、こんな状況で告白してくるんだ。ローズにとってとても重要な秘密なんだろ?」

「……そうだ。我は……我はスキルによって人間にされた、元ドラゴンだ。それも野生のものではなく、ダンジョンのボスだった」

「そういったスキルがあるのは知っている。たしか俺らがダンジョンを繰り返している最中にも二、三枚スキルカードを見つけたはず」

「そう、そのスキルで……。だから今は竜族の人間だからカオスブラックドラゴンの技を食らうが、竜に戻ればファフニールロットのように無効化できる。……あれはファフニールとガバイナの二人だけで勝てる相手じゃない。かと言って我以外に助太刀できるようなSSSランク以上の実力を持つ存在はいない。だから我が来た」

「そうか……」



 普段は気の強めな女性であるローズの目が弱々しく潤んでゆく。誰がローズを人間にしたのかガバイナは非常に気になってたが、そのことに関しては口を噤むことにした。



「なぁ、ガバイナ。我、これから竜に戻るけど……戻るけど……我の本当の姿を見ても、嫌いにならないでいてくれる?」

「もちろんだ、ローズ。そのくらいで嫌いになったりするものか。俺とお前は知り合ってから日は深くはないが、友人であり、仲間なのだから」

「友人……」

「何か間違っていたか?」

「い、いや。そう言ってくれるならもう迷いはしない。我の本当の姿見見せてやる!」



 ローズが一瞬だけニコリと笑ったらその瞬間、全身が金色に包まれる。金色の光は次第に巨大になって行き、やがて二匹の竜と同程度の大きさになった。こうしてドラゴンスレイヤーであるガバイナの目の前に薔薇の香りを漂わせる金色の竜が現れた。

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