第981話 槍と邪竜の男

「くっ……」



 ローズは目をつぶり、覚悟をした。男の手が顔を覆おうとしている。その時鋭い衝撃が男の手を横切った。



「なんだ?」

「戦闘を始めたと思えば、住民を先に逃がせとメッセージで言われた。そしてちょうどそれが済んだと思ったらこの状況。間一髪だったな」

「が……ガバイナ……!」

「なんだ、さっきの男か」



 男はこちらに向かって歩むガバイナを視界にちらりと入れ、興味がないかのようにそっぽを向くと再びローズに触れようとした。しかしガバイナが一瞬でローズと男の間に割り込み、男を盾で強く殴り飛ばした。



「あれから初めてステータスの素早さを全力で使ったが……転生の強さというのは凄まじいな。ローズ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ! ガバイナのおかげで……」

「よかった」



 ガバイナは心の底から安心したようにローズに向かって微笑んだ。ローズは頬を赤く染め目をそらした。

 吹っ飛ばされた男はその場で無表情のまま立ち上がり、土埃を払う。



「この強さ。となるとお前も転生者だったか」

「転生者……? たしかに俺は転生をしているが、それをどこで知った?」

「が、ガバイナ、気をつけろ。奴に直接触れたらダメだ。それに気分が悪くさせる術も持っているみたいだ」

「そうだな、ローズの様子を見ていたらわかる」

「それと……その……アイツにはとにかく気をつけて。あとで詳しいことは説明する」

「わかった」



 ガバイナは武器を構え直し、近づいてくる男の方を見た。男は両手から禍々しい闇魔法のようななにかを放出し続けている。

 


「ここで二匹仕留めたら、吾輩は仕事をしたことになるな」

「なんだかよくわからないが、ローズだけでなく俺も標的だったということか」

「そういうことだ人間……ンヌウウゥン……」



 男が体に力を溜めた瞬間、太く禍々しい銀色をした二本の角と漆黒というべき色の翼が生えてきた。それだけでなく、尻尾のようなものまで見えている。

 それらを携え男はガバイナに向かって全力で駆けてきた。



「吾輩の手によって朽ちて死ね」

「……!」

「むっ!」



 男は大きく飛び、そのまま上からガバイナに向かって手を振り下ろした。ガバイナはそれを動じることなく盾で防いた。衝撃で足元を中心に地面に再び亀裂が走る。

 ローズはより強くなった身体の不快感に唸った。そして男はガバイナが自分の攻撃を盾で防いだことに驚きの表情をあらわにしていた。



「ど、どういうことだお前」

「……ん、なんだ?」

「なぜ吾輩の技が効かぬ……。まさか人間ではないのか!」

「いや、俺は普通に人だが……」

「が、ガバイナ……ゴホッゴホッ……な、なんともないのか?」

「なっ、ローズ大丈夫か!?」

「外傷はない、一応。それよりどうして」



 ガバイナは何が起こっているか全く理解できていなかった。男もなぜこうなっているか理解できず、ガバイナから距離を取る。

 その時、その場にいた全員が強大な魔力をいくつか感じ取った。



「これは……!」

「もう駆けつけてきたのか」

「そういえば前もふらふらっと現れたな」



 全員が城のある方角を見た。そこからやってくるのは慌てた顔をした赤い髪の少女と緑色の髪の少女。



「……あれがレベルメーカー……」

「なんだそれは」

「この謎の男に加え……部が悪いな。……ああ神よ、すまない」

「なっ!?」



 男はうなだれると一瞬で二人の目の前から姿を消した。それと同時にローズが感じていた不快感や違和感は全て消滅する。

 赤髪の少女がこのひび割れた広場に足を踏み入れ、声をあげた。



「うわぁ、なにこれ!?」

「いきなりトズマホが鳴り出したと思ったら……」

「あれ、ガバイナさんとローズがいるよ?」


 

 二人はローズとガバイナに駆け寄ってきた。



______

___

_

 


「横になって休むってこういうことなの?」

「これはお詫びとは別よ。どう、今日の私の脚は」

「いつも通りスベスベだよ」

「えへへー」



 俺はミカに膝枕をしてもらっていた。

 「あ、そうだ。横になって休むならどうせだしいい枕がいいじゃない?」って言うや否やソファに座って自分の太ももを差し出してきたんだ。もちろん寝転がるよね。



「じゃあ、おやすみ」

「えへへ……おやすみっ」

「……寝ている間に変なことしないでね?」

「有夢の寝顔が可愛すぎてよだれが垂れちゃうかもしれないけど、それ以外なら我慢する」

「わ、わかった」



 ウトウトし始めた頃、寝始めて多分30分くらいで急にトズマホが鳴り始めた。街中でSSSランカーレベルの人が二人も暴れてるって。あくまで二つとも人間に対する反応だけれど、脱獄したやつやあの侍だってSSSランクの実力はあるだろうし、すぐにでも駆けつけたほうがいい。



「むぅ……行こうミカ」

「そうね、急ぎましょう」



 トズマホのナビに従って俺たちは現場まで向かう。事件があったのは憩いの場としても受けられた広場の一つみたいだ。その周辺では大勢の人がガヤガヤと騒いでいた。

 広場にたどり着くとそこには盾と槍を構えたガバイナさんと、気分を悪そうにしているローズがそこに居たんだ。

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