第859話 ブフーラ王国観光 2 (叶・桜)

「それにしてもあれね、この格好でも大丈夫かと思ったけど案外目立つわね」

「地球の日本での普通の服装だからね。仕方ないかも。相談した通りこの国に合わせた衣装を着てみようか」

「うん!」



 二人は着替えることにした。

 それぞれ別室でこの国の人々の服装を思い出しながら防熱機能をつけた服を作り出す。

 着替え終わったらそれぞれお披露目。



「おー、似合ってるね、かにゃた」

「そういう桜こそ」

「ほ、本当だったらもう少し色を控えめにしてたと思うけど、今回は見本があったから……な、なんとかダサくならなかったよ」



 ヒラヒラで薄い布を複数枚巻き、その下にドレスを纏っているこの服装は露出があまり多くないため、桜にとってもなかなか良かったようだった。

 叶の目には桜が天女のように見えた。否、まともな人なら桜の美しさに必ず一度はそう見えてしまうだろう。



「大丈夫、可愛い」

「えへへへ」



 色々ともっと褒めたかったが、叶は一番シンプルで一番喜んでもらえるその言葉を選び、整えてある髪型が崩れないように頭を撫でた。



「さて、そろそろ外に行こうか。甘いものたくさん食べるんでしょ?」

「うんっ!」



 二人は手をしっかり握りながら宿屋から外に出る。宿屋の周辺にもやはりとんでもない数の屋台があり、そこから早速ひとつの店を選んだ。



「らっしゃい」

「えーっと、パパイヤ氷のミルクシロップっていうのください」

「あいよ、銅貨8枚ね」



 叶にはインドの屋台がどんな風かの知識が入っている。よく似ているこの国だったが、屋台の風貌から衛生面に関してはきっちりしていると認識することにした。


 

「凍らせたパパイヤジュースを削って、それに練乳みたいなのをかけるのか。すごく甘そうだな」

「いいじゃない甘いの!」

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

「嬢ちゃん可愛いからサービスしといた」



 

 たしかに今作っている別の人の分より量が多いように見える。桜はスプーンで削られた氷をすくうと叶の口まで持って行く。



「一口あげる。あーん」

「あーん……うおー、すげー甘い……」

「そんな甘いんだっ。ふふふ……あむっ……んーっ!」



 桜にとっては甘さがちょうど良かったようだ。嬉しそうにしている桜をみて叶も微笑む。

 


「次いこ、次!」

「楽しんでもらえてるみたいで何より」



 それから10つほどの店を周り練り歩いて行くうちに、やがて中央の大きな広場に出た。

 どこからか笛や太鼓の音が聞こえてくる。



「あそこで結婚式の時に見たこの国伝統だとかいう踊りやってるよ」

「ひゃー、ほんほはー」

「見に行く?」

「ふん!」



 甘いシロップがふんだんにかけられた揚げドーナツのようなものを頬張りながら、叶に手を引かれて、桜はその見世物へと近づく。

 遠目ではあまりわからなかったが、露出が多めの服装を身にまとった、数人の女性が踊っている。

 あきらかに前に見た結婚式のものよりも露出が激しかった。



「(スタイルいいなぁ……リルちゃんとお姉ちゃんほどじゃないけど。妖艶っていうのがちょうどいい踊り。よく見たら観客も男性がほとんどだし……は、かにゃた、まさか!?)」



 何を勘ぐったのか桜は勢いよく叶の方を振り向いた。叶はその踊りを眉間にシワを寄せて真剣に眺めている。

 その様子は、周りの男性達のように露出の多い女性を食い入るように見ているのだと桜の目には移ってしまった。



「むぅ………」

「んーー」

「ね、かにゃた!」

「ん? どしたの」

「もう行こう! その……もっとお店回りたい」

「そうだね、俺もちょうどそう思ってたところだ」



 自分でもわからない場所から湧き上がる謎の嫉妬心。

 密着するにはとても暑い気温であるにもかかわらず、桜は叶にいつもより強く抱きついた。



「おわっと」

「むーん」

「どうしたの?」

「どうもしない! だ、抱きつきたかったから抱きついただけよ」



 男性向けと看板付きで銘打って伝統とは違う露出を多めにするなどの無駄なアレンジがされた踊りをみせられ、期待を裏切られた気分だった叶。

 桜が同じ理由で怒っているのかと考え、強めに頭を撫でた。桜を落ち着かせ、自分自身が癒されるのが目的だった。



「あぅ……」

「ふふふ。早く甘いもの売ってる店を探そう。多分そこらへんにあるんだろうけど」

「パイナップルジュース飲む。ほら、あそこ」

「うん、あれは普通の甘さっぽいし俺も飲もうかな」



 抱きつかれたまま叶は近くにあったパイナップルジュース専門の屋台でそれを二つ注文。

 飲みにくかったが味には満足したようだった。

 なお桜は無駄に思考を繰り広げていた。



「(やっぱり、男の子だし女の人の露出が好きなのかしら。でも私の裸を見た時って興奮してるというよりは申し訳なさで慌ててたような。今まで何かしら私とハプニングあったりわざと胸を押し付けたりしても謝る以外の大した反応はなかったし……。でもあの踊りは食い入るようにみてたよね?)」



 そこに、桜にひとつの考えがよぎった。今までの自分からは絶対に出てこないような考え。自分の姉と近い考察。



「(…私の身体、魅力ってあるのかな? お姉ちゃんの言う通り、もっと性的な面で叶を……うーん……恥ずかしいけど結婚生活にも関わるかもしれないし、試してみるか……な? なにより付き合ってもう数ヶ月経つ幼馴染の彼氏なんだから、いつまでも恥ずかしがってるわけにはいかないよね)」

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