第858話 ブフーラ王国観光 (叶・桜)
およそ15時間の移動を経てブフーラ王国の中心であるブフーラ城下町、通称王都にたどり着いた二人は馬車から降りて叶が予約しておいたという宿屋まで向かっていた。
「私たちの旅行って、移動時間すごく長いわよね」
「流石に移動に次ぐ移動は飽きちゃったね。帰りは瞬間移動で帰ろっか」
「高級馬車とか船とか予約してるんじゃないの?」
「あれは旅行に行くことが決まったその翌日と、帰る予定の前日に予約してるから大丈夫だよ。もちろん瞬間移動使って直接ね」
宿屋も同じように予約しているらしい。そんなめんどくさいことをいちいちやっている上に、つまりは目的地に訪れるのが初めてじゃないとわかった桜はその件についてツッコミを入れようかと考えたが、全ては自分を喜ばせるためだと気がつき押し黙る。
そのかわり暑いにも関わらず甘えるように、昔から何度も繰り返してきた抱きつき方で叶の腕に密着した。
「えへへ、色々準備ありがとね」
「瞬間移動使えるんだし、このくらいしないと」
「でも現地に赴いてわざわざ予約だなんて、楽しみが半減しない?」
「そんなことないよ。例えば今回の観光の間泊まる宿屋なら座標を計算して直接建物内に移動してるから、外の景色は初めて見るんだよ」
「無駄に器用なことするわね」
街中を歩いて行くうちに、さまざまな屋台が目に入る。メフィラド城城下町の場合は決まった公園の道に沿って屋台が並んでいたが、この街はまるで屋台の無法地帯。
流石に通行の妨げとなる場所に店を構えている者はいないが、あちこちに出店があるのだった。
「ココアパウダーとマンゴーのサンドイッチ! あっ! あれはパイナップルフレッシュジュース!」
「桜が好きそうなものばっかりだねー。甘いものが多い」
「食べよ! ね、ね、叶!」
「まずは宿屋まで行かないと。それまで我慢ね?」
「うん……わかった」
桜はしょんぼりしながらも、やがて宿屋にたどり着く。やはり超高級な宿屋だと一目でわかるような建物だった。
桜がまたびっくりしていることなど気にせず、叶は躊躇することなく中に入り、受付へと。
「おおこれはこれは。ご予約していたカナタ様とサクラ様ですね」
「はい」
「ベッドはダブルのひとつだけ、街並みがよく見えるゴールド階級のお部屋でよろしいのでしたよね?」
「ええ、そうです」
受付の人は叶に鍵を渡すと「カナタ様にお話が」と引き止めた。彼自身がこの宿屋の主人だと説明される。その上で聞きたいことや謝りたいことがあるそうだ。
叶は桜に鍵を渡し、先に行っていてと言うと宿屋の主人と望み通り話をすることにした。
「ようこそ、心の底から今回はご予約ありがとうございました。カナタ様。料金も先払いでしっかりといただいております」
「ええ、先払いの方が僕個人は気が楽なので。それよりまさかプラチナの部屋が空いてないなんて」
「そのことについて謝りたかったんですよ。プラチナルームを取られた方がどのような方かは申し上げられませんが、引いていただき誠に感謝しかございません」
この宿屋はシルバー、ゴールド、プラチナと部屋ごとに階級が分かれている。シルバーでも普通の人は泊まれないほどに高い。しかしこの宿屋のなかではもっとも部屋数が多く安い部屋となっていた。ゴールドは10組分しか部屋がない。プラチナに至っては1部屋であった。
「いいですよ、仕方のないことですから」
「ありがとうございます。話は変わりますが、本当に当店のサービスはお受けにならなくて良かったのですか? 確かにお客様の自由ではございますが、あのような美しい方と御宿泊になられるのに、夜伽に使うアイテムを部屋から一切無くしてくれなどと……。しかし部屋のベッドはひとつなのでしょう? 散策は良くないのですが、どうしても、どうしても不可解で気になってしまいまして……」
「あはは……」
無論、叶は今までの場所と同じように夜伽に使うようなグッズは全て取り除かせていた。それが叶の中では当然だったが、主人には理解できなかったようだ。
叶は自分と彼女の関係と年齢を伝え、それを理由として察してくれと言った。
「あっ……なるほど。それは考慮しておりませんでした……誠に申し訳ございません」
「それも仕方ないですよ、まさかこんな子供が自分のお金で泊まりに来るだなんて思わないでしょうし。」
「そんなことは決して……」
「それよりですよ。その分、頼んだサービスの方は……」
「ええ、甘味の充実でございますよね、それはそれは当店が出来る限り最高の甘味によるもてなしをご用意しておりますとも。……当方の質問もここまででございます。なにぶんお客様の声を直接聞き、参考にしていますので。ご協力ありがとうございました。ごゆっくり、当宿屋を堪能してくださいませ」
叶は主人と別れると言われた部屋の番号まで行き、すでに桜がいるはずのその部屋の戸を開いた。当然だが桜がいる。
叶は内心、桜を一人にさせてしまってことを焦っていだのだった。目が見えない時の名残りで。
「あ、かにゃた。おかえり。何話してたの?」
「まあ色々。お客と店の話ってやつさ」
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