第857話 ブフーラ王国移動 (叶・桜)
「ついたー!」
1日半もの間、個人用豪華船を満喫した二人はまんぞくそうに船を降りた。
本来ならば4日はかかるが、船はアナズムでの最先端技術を導入し、普通の船では通らないような海峡も渡ってしまうため、この速さを実現できたのである。
料金はすでに叶が払ってあるため、船員の人達に御礼だけ言うとそのまま入国審査が待つ門の前へと移った。
メフィラド王国とは完全に異なったデザインの門構え。
そして気温ですらまるで違う。メフィラド王国は春先でポカポカとした暖かさであったのに対し、すでにこの国は初夏ほどの暑さがあった。
「あつぅ…」
「もっと涼しい格好してればよかった。馬車は行きと同じような感じだし、そこで着替えようね」
「うん、そうするわ……」
そのまま二人は門の前、門番に話しかける。
「ご旅行ですかな? 身分証明となるもののご提示を」
「はい、これ僕と彼女のです」
「ほほぅ……メフィラド王国から……SSSランクッ!?」
「何か問題ありましたか?」
「い、いえ。ようこそおいでくださいました。お通りください」
門を開けてもらい、くぐる。初夏程度の暑さなのは先ほどまで海の真隣であったためであり、どうやら門の向こう側からはさらに歩くたびに暑くなっていくようだった。
「あ、あつい……アイス食べたい……」
「もうすぐそこが王都行きの馬車があるから、そこまでがんばろ。ほらアイス」
「ありがとぅ……」
叶の言う通り5分ほどで馬車乗り場に着いた。すぐにブフーラ王国、ブフーラ城城下町へ行くための馬車の乗車券を買い乗り込む。
「はー、もう汗が……タオルで拭かなきゃ」
「私はアイス食べたから大丈夫。それより氷魔法使うなりして暑さ対策すればよかったんじゃないの?」
「いやー、俺はこの暑さ含めて楽しみたかったから」
「気持ちはわかるけど」
この馬車もまた高級であるということが一目でわかる代物だった。本来ならば個人で馬車に乗ること自体が相当な贅沢。さらに加えて充実した部屋とサービスが付いているためやはり値段は普通は手が出せないものとなっている。
「面白いねぇ……同じ最高級の馬車なのにメフィラド王国のデザインとはまるで違うよ。この世界の面白いところは言語が全アナズム共通なのに、地球のようにしっかりと文化は分かれてるってところだよねー」
「そうね! ……って、なにしてるの!?」
「え、あ、ごめん。別室でやった方が良かったかな?」
叶は上半身だけ裸になりタオルで汗を拭いていた。翔に触発されて鍛えているという身体は、彼の兄のように胸がないだけの女性などと称されることは決してないだろう、しっかりとした筋肉のつき方をしている。もともと筋肉質な方ではあったようだ。
顔だけならともかく、身体まで込みならば女の子と言われてしまうことはないだろう。
筋肉がついて行く過程を桜はお風呂を覗くことで毎日確認していたが、こうして目の前に晒されるのは稀なのでどぎまぎしていた。
「う、ううん、いいの! それよりほんとにだいぶ筋肉ついたね……」
「でしょー! 成長期に筋肉を鍛えすぎると身長があまり伸びなくなるからそれを考慮していい感じに鍛えてるんだけど……どうかな?」
「カッコいい……」
「ほんと!? ありがとう」
ニコッと嬉しそうに叶は微笑んだ。やはり顔だけ見ると女の子であると桜は認識を修正する。
再びかすかな筋肉に目を写し、思ったことを口にした。
「触ってみていい?」
「見た目だけでまだそんな硬くないと思うけど、いいよ」
許されるがままに、へそ周りあたりを桜は撫でた。
しっかりと出来ている筋肉による凹凸。
「リルちゃんの気分がわかった気がする」
「そうなの?」
「うん」
「俺にはよくわかんないなぁ」
叶が一通り汗を拭き終わると、二人は夏服に着替えることにした。もちろんそれぞれ別室で。
服には暑さに耐性がつくエンチャトをかけてある。
「お、可愛い」
「えへへ、ありがとう。でも地球と同じような半袖で良かったのかなぁ」
「あまりにも浮いてるみたいだったら、ブフーラ王国の普通の人の服装やお店に入ったりしてデザインを見てから作り直そうよ」
「それもそうね」
目がきちんと見えるようになってから、桜にとって初めての夏服。しかし露出が多いものは選ばなかったので、エグドラシル神樹国で自分の服装に気がついた時のように、服に恥ずかしさなど抱いたりはしなかった。
ただ腕と首回りがすっきりしており、薄手だといった程度の認識。
「むっ……」
「どうしたの、かにゃた?」
「いや、なんでもない……」
しかし叶は薄手になることによって、桜の胸が普段より膨らんで見えることに気がついてしまった。
やはり中学生にしてはかなりの大きさ。
数秒間考えてから、別に露出や透けて見えているわけじゃないから気にすることではないかと思い直す。内心ではそこそこ気に留めながら。
「ね、そういえば何時間くらい馬車で移動するの?」
「えっ!? あ、あー、確か半日と3時間くらいだったと思うよ」
「そっかー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます