第840話 撮影本番 (翔)
「ついに本番だ……」
大丈夫だ、俺。みんなたくさん励ましてくれたし、緊張だってここ数日間で使い果たしたじゃないか。
だが、やっぱり試合なんかより数倍緊張しちまう。
うまく話せるだろうか。
つーか、スタッフから聞いた話だと、テレビ出演初でこの番組はチョイスがおかしいらしいな。
そんなこと、俺にとっちゃ緊張する度合いは同じだからどうでもいいんだが。
「説明したとおり、名前を呼ばれたら出てください。煙が噴出しますので、そこだけは注意を」
「はい」
目立つだろ、それ。目立つよなぁ。いや、まずこの番組の今回のメインゲストが俺の時点で目立つもなにもないんだが。
「本番3秒前! 2、1、キュ!」
スタッフさんの声と拍手の嵐が聞こえる。
はい、始まった。もうどこにも逃げ場はねーぜ。
「さて、今夜も始まりました、おしゃべりィ……エイトッ!」
おおお、テレビで聞いたことある声が間近で!
まあ、撮影は昼なんだがな。
オープニングトークが始まったから、俺の出番はあと5分前後できてしまう。今のうちにもう一度身だしなみを確認しておこう。
しばらくトークしていたが、この番組の一番のおふざけ役の人が何かに気がついたように声を挙げた。
「まってまって、発見しちゃったんだけどさ、今日さ、エキストラの子たちめちゃくちゃ可愛くない? やばくね?」
「あの六人?」
「そうそうそう、やばくない? え、てかマジで……ちょっとお話し聞いて見ていい?」
六人揃って可愛いって……どう考えても有夢達だろう。まあ、あいつらが注目されるのは仕方ない。むしろ注目されない方がおかしいってもんだ。
芸能人じゃないかだの、興味はないかだのと色々と聞かれているようだが…。あいつら興味はねーから、やっぱり否定したみたいだな。
ははは、学校でいじられるのは俺だけじゃーねー。あいつらもだ。道連れだな。
今はMCの人がゲストのヒントが書かれた板を読み上げているようだ。そのワードが非常に気になる。
イケメンってなんだ、イケメンって。ネットのチェックおよびエゴサーチはしてこなかったが、俺ってそんなにイケメンで話題なのか。
「出揃いましたか? では今日のゲストをお呼びしましょう。2XXX年度の高校生インターハイの柔道部門に出場し見事個人戦、団体戦をダブルで制覇。実力と共にその素顔がイケメンすぎて話題になった今もっとも熱い男子高校生、火野翔さんでーす!」
「ワーワーッキャーキャーッ!」
すぐに答えが出された上に、ガバディなんじゃないかと言われたが……とりあえず呼ばれた。
出なければならない。出陣だ、頑張れ俺!
「では、出てください」
俺は黙って頷き、前に出た。足は震えないように調整してある。煙が噴出され、あたりが広く明るくなって行く。
「うおーきたーっ」
「がたいええなぁ」
「では改めてご紹介しましょう。火野翔さんです!」
ワーワーキャーキャーと声がすごい。俺ってそんなに期待さるような人物だっただろうか。いや、どうせエキストラ指導とかされてるんだろう。
「おお、でかいでかい」
「今日はどうも、よろしくお願いしますっ……えーっと、テレビ出演は国営放送の実況中継を除けば、今回が初めて……ぇえ!! この番組がテレビ初なの?」
「ええ、はい」
やはり驚かれるか。メインキャストのこの人達は俺がゲストだと撮影本番まで聞かされずにいるわけだからな。
このMCの人だけじゃなく、残り七人全員がそこそこ驚いてるようだ。
「それは災難だったなぁ、ははははは」
「なにそれ、すっげぇ珍しくね?」
「スタッフはなに考えてたんでしょうねぇ、アホじゃないのか? こんなところが初めてとか可哀想に」
毎週この番組見てるわけじゃないが、そこまで言われるような番組だったか? でも確かにおさらいしてきたムービーではかなり深いところまで探られたりしたからな。
事前アンケートとかも、出演が決まった次の日あたりからやらされたし。
懐かしのあの人……とか、俺の好きな飯とか、紹介されちゃったりするんだろう。
「それにしてもガタイの良さと……かなり整った顔立ちで」
「なんかのモデルとかやってたわけじゃないの?」
「いえ、なにも」
そこら辺の職業には興味ないからな。鍛えてるのは趣味だし、顔は生まれつきだし。それがかっこいいって言われるのは嬉しくないわけじゃねーけど。
「いやさ、さっきの子達といいさ、発掘すべき素材はたくさんいるだなって、リューちゃんね、そう思った。ね、そう思った」
なるほど、俺とあいつらの関係がまだゲストとただの可愛いだけのエキストラ。顔見知り同士じゃないって認識だな。そりゃあ、知るわけもないよな。
……トークしていくうちにバレる可能性もあるな。
いいや、そうなったらとことん巻き込んでやれ。あいつらだってテレビでたことあるんだ。もうあのトークで注目された時点で、どれだけいじられたって一緒だろ。
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