第839話 いよいよ本番
本番30分前には、すでにエキストラが全員集まっていた。そして全くみたこともないようなお笑い芸人さんらしき人がスタッフさん数人と一緒にやってきて、どのタイミングで笑うだとか、笑い方の練習だとかを指南してくれた。また、スタッフさんからは物音をあまり立てないようになどお願いもされる。
だいたいそれで30分は過ぎ、ついに本番が始まることになった。
「さて、今日も始まりました。おしゃべりィ…エイトッ!」
テレビで確実に見たことある人達が前に出てきて、慣れたようにトークを始めた。オープニングトークってやつだね。なかなかディープな話をしている。ていうか、本当にトーク面白い。さっきの指導では頼むから笑ってくれとお願いされたけど、これは笑わずにはいられない。
それにしても、まだ翔は出てこないみたいだ。
「まってまって、発見しちゃったんだけどさ、今日さ、エキストラの子たちめちゃくちゃ可愛くない? やばくね?」
「あの六人?」
「そうそうそう、やばくない? え、てかマジで……ちょっとお話し聞いて見ていい?」
やべ、俺たちが注目された。
他のエキストラも、カメラも総じてこちらに向く。……まあ、こういう場所に来た時点で覚悟はしてたけど。
スタッフらしき人たちが裏から回って来て、何か準備している。
「君たちさ、え、いやほんと、すっごい可愛いね! ほんとに、すっごい可愛いね! どこかでアイドルとか女優とかやってんの?」
「リョーちゃんがここまで可愛い言うの珍しいな。でもほんと可愛らしい……」
「ヤベーよな、あのレベル早々いないで、ほんま」
美花の肩が軽く裏から叩かれた。カメラもどうやら美花に返事をしてもらいたいらしい。美しく微笑みながら美花は首を横に振った。
「うっそでしょ!?」
「ちょっと君たち六人、あとでね、おじさんの楽屋きてお話ししようか……さて、そろそらゲストを迎えましょうかね」
よ、よかった、いじられはこれで終わりみたいだ。また学校でとやかく言われるんだろうなぁ……まあ、一番言われるのは翔だろうけど。
「今日のゲストのヒントはですね……あーあー、なるほどね。これです」
「なぁになに、ネットで話題、高校生、イケメン、インターハイ……」
「あー、わかった! あのね、最近有名なね」
そういえばこの番組って、メインの人達にはゲストが知らされないんだっけ。でも最近話題のインターハイで活躍したイケメン高校生なんて大体絞れると思うんだけど。
「あの……ほら、柔道の子でしょ、ね! ね!」
「わからないよ? ガバディかもよ?」
「出揃いましたか? では今日のゲストをお呼びしましょう。2XXX年度の高校生インターハイの柔道部門に出場し見事個人戦、団体戦をダブルで制覇。実力と共にその素顔がイケメンすぎて話題になった今もっとも熱い男子高校生、火野翔さんでーす!」
「ワーワーッキャーキャーッ!」
エキストラの皆さんは俺らも含めて頑張って拍手と歓声をあげる。……いや、頑張ってっていうのは間違ってるね、どうやら本気で歓声あげてる人が多いみたい。
やっぱり世間で翔って人気なのね? まだ詳しくはわからないけど。
軽快な音楽と共に煙が噴出され、舞台奥からピシッとした格好をしている翔が現れた。これが舞台補正だろうか、さっきの翔に加えてさらに3割増しでイケメンに見える。
普段の翔のイケメンさは……普通の人が20だとして、100だとしたら、今は156くらい。
「うおーきたーっ」
「がたいええなぁ」
「では改めてご紹介しましょう。火野翔さんです!」
ちょっとした段差を降りながら、ぺこりぺこりと恭しくお辞儀をする。その挙動は翔らしい。
緊張しているように見えるけど、これでもだいぶマシになってるだろう。
「おお、でかいでかい」
「今日はどうも、よろしくお願いしますっ……えーっと、テレビ出演は国営放送の実況中継を除けば、今回が初めて……ぇえ!! この番組がテレビ初なの?」
「ええ、はい」
「それは災難だったなぁ、ははははは」
「なにそれ、すっげぇ珍しくね?」
「スタッフはなに考えてたんでしょうねぇ、アホじゃないのか? こんなところが初めてとか可哀想に」
佐奈田が言ってたとおり、この番組でテレビデビューは異質らしいね。出演者さんたちはマジで驚いてるみたいだ。
「それにしてもガタイの良さと……かなり整った顔立ちで」
「なんかのモデルとかやってたわけじゃないの?」
「いえ、なにも」
「いやさ、さっきの子達といいさ、発掘すべき素材はたくさんいるだなって、リューちゃんね、そう思った。ね、そう思った」
まだあんまり翔は喋ってないなぁ。ずっと緊張しっぱなしの中、頑張って個人練習続けてたんだから頑張って欲しいね。
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