第767話 リルの幼馴染 (翔)

 身近にそれはもう泥沼のようにどろっどろの恋愛をし、毎日毎日ラブラブしている幼馴染のカップルがいる。

 それも二組も。

 だから俺はその、幼馴染の絆ってもんを強く知っている。……リルはどう答えるんだろうか。



「あー、それって性格は今と同じってことでいいの?」

「リルは変わっていただろうが、まあ……俺はこのままだろうな」

「そっか……」



 リルは少しだけため息をついた。



「ごめんなさい。多分ないよ」

「わう……そ、そうか。一応理由を聞いてもいいか?」



 心底安心している自分が居る。

 このままリルの理由をおとなしく聞いてみよう。



「私と君は互いに互いのことを覚えていなかったね? つまりほとんど初対面だったわけだ」

「わふ、まあ、そうだ」

「そんな初対面の私に向かって放った言葉……いや、行為と言うべきか。ショーの強さを知らず、自分が勝てることに自負を持っていた君がショーと賭けた内容が問題なんだよ」

「胸を……揉ませてくれ?」

「そう、それ。初対面の人に向かって胸を揉ませてくれ……って」



 あ、リルがドン引きした顔をしている。めっちゃ珍しい、レアだぞこの顔。まず俺にすることはないからな。

 一方でウルフェルは『しまった』とでも言いたげな顔をしているな。うん。



「だから性格はそのままかと聞いたのか」

「うん。たしかに君は協力してくれたから本当はいい人なんだろうし、身体のガタイも良い、強さも申し分ない。でも……ね」



 リルは俺の方をちらりと見た。 

 去年のリルだったらこんなにはっきり言わなかったぞ、変わったもんだな。



「なんかごめん」

「良いんだよ、謝る必要はないさ」

「わーふ、そうは言っても俺にも心に決めたやついるから良いんだけどな!」



 なんだ、居たのか。見た目と喋り方からして取っ替え引っ替えしてるのかと思ってたぞ。まあそれは狼族の特性でありえないんだけど。



「もしかして昨日書記として来てくれた子?」

「そうそう」

「じゃあなんで私の胸を揉みたいと言ったんだい?」

「……ここだけの話、胸は申し訳程度にしかないんだよあいつ。だからつい……な。見た感じ同い年だったし、リル」



 なんと失礼な話だろうか。

 いやまあ……たしかにリルの胸は魅力的だ、それは否定できない。



「とにかくなんかスッキリした! 心に決めた伴侶がいるのに、なんかモヤモヤしてたからな」

「わふぅ……ダメだよそれ」

「とりあえずお幸せに……ってことで! じゃあな! お代は置いていくぜ」



 銀貨二枚を机に置き、彼は立ち去っていった。

 自分で言っていた通り、なんか憑き物が落ちたような顔をしていたな。



「ところでショー」

「は、はい」

「……なんで敬語なの? まあいいや。私の胸好き?」

「ま、まあな」

「そりゃ良かったよ。わふふ」



 実は俺も初めてリルを背負った時、胸が当たって……助けたい気持ちの方が上回ってたけど、心の奥底ではラッキーと思ってたと告白したらなんで反応するだろうか。

 よそう、おそらく言ってもなんの意味もない。

 少なくとも俺の利益にはならなさそうだな。



「ココア飲んじゃったらもっかい村を見て回ろうか」

「そうだな」



 それにしても、さすが人が集まるカフェだ。いろんな人が話をしているのが聞こえる。

 やはり、今はあの村長夫妻のことが一番の話題みてーだな。ウルフェルに話しかけようとこちらをみていた輩も何人もいたし。



「すっかりあの人達のことは話題だね」

「だな」

「彼じゃないけど、私もスッキリした…かなーりね。これでショーに100%心を預けられる」

「本当の御両親はどうするんだ?」

「昨日言った通り、アリムちゃんの前で色々やった方が確実さ」

「うん、たしかにな」



 身体の一部が残っていたのは本当に運が良かった。これで蘇らせることができる。

 そして晴れて、俺もしっかりと娘さんをもらうと言うご挨拶ができるわけだ。印象悪くないようにしなと。

 とりあえずSSSランカーって言えば良いかな?

 いやダメだな。



「ショー、どうかしたの? ボケーっとしてさ。大丈夫? 胸でも揉むかい?」

「いや、今はいい。それより飲み終わったなら店を出るぞ」

「うん」



 俺とリルも店を出た。

 村をもっとみて回ることにする。しっかしほんとうに武器屋や鍛冶屋が多いな。



「何か武器でもみていくか?」

「伝説級やそれを超えた物を見過ぎて、普通のものじゃもう満足できなさそうだからいいよ。そうだ、ギルドでもみない?」

「ギルドか……一応のぞいてみるか」



 俺とリルはギルドに入った。

 内装は都市部のものよりかなり簡易だが、結構しっかりとしている。以来の数もさすがは戦闘民族だけあって信頼されているのか、数も遜色がない。


 とまあ、こんな感じで街を見て回っていたらいつのまにか午後二時半になっていたわけだ。

 俺とリルは慌てて、前村長……いや、これから現役に戻るじーさんが指定してきた馬車へと向かったんだぜ。

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