第768話 村民への告白 (翔)
「えー、みんな集まってもらってすまぬ。もうすでに話題になっているだろう、あの夫婦のことだ」
目の前にたくさんの狼族がいる。俺とリルはじーさんのそばに立たされていた。
約束通りの時間に来てからどんな内容を話すのか教えてもらい……リルがそれを一部訂正したりしたが……とにかく全村人の前でリルのことが話される時が来たってこったな。
「わーふ、おじいさん、村長達がどうしたの?」
「あやつらはすでに村長などではない」
「わふん、どういうこと?」
100人にも満たない村人の中でどよめきが起こる。あれを見る限りじゃ結構したってたみたいだし仕方ないのか?
「そのままの意味だ。奴らは大罪を犯した。それをこれから説明する」
「わふ! てことはもうあの二人が村でえらい顔しないんだね?」
「わーふー、いきなり税を重くしたり、色々規制を新しく作るから嫌だったんだよねぇ……見た目は良い人そうだから黙ってたけど」
「よくよく考えたら自分を慕えだなんて命令おかしいよね?」
あ、やっぱりそういうことやってたのか。まああの性格のやつらが一団体のうちで権力を持ったらまず好き勝手するわな。
「静まってくれ……」
「ああ、ごめんなさいおじーさん!」
「もう黙るよ前村長」
「続けるぞ。ボザ・アングルとヘリュ・アングル、その二人がして来たことを説明するには、戻ってきた同胞、リル・フエンの話をしなければならない……」
リルが前に出る。覚悟を決めた顔だ。しかし、もういろんな人に話し慣れちまって、自分の事を話すのは同胞なら抵抗がないと言った感じになってるな。
昔よりスラスラと、リルは自分の過去について話した。
あんまり村民を留めておくわけにもいかないため、重要な点だけを。
「……そ、そんなことが……」
「あの悪魔ども、裏でそんなことしてたなんてっ!」
「うまく隠し通したものだな。地下室まで作ってたのか」
「どおりで臭いも全然わからなかったわけだ」
「み、耳と尻尾を切り落とすなんて……!
耳をヘタレさせて震える人、ぽかんとした顔をした人、怒りをあらわにする人……様々だ。
「しかしやけに早く信じるな。狼族ってのはこんなに信じやすいのか?」
すっかりタメ口で、俺は少し後ろにいたウルフェルに小声でそう聞いた。
「俺らは戦闘民族だぜ? 生き抜くためには他人の嘘も見抜かなきゃいけない。つまり、嘘をついたら勘ですぐにわかるんだよ……もっともあの夫婦の十数年に及ぶ全くわからなかったが……何か称号やスキルを持っていたのかもな」
「たしかにあそこまでうまく他人を騙せるのは称号かもな……」
それをただ一人の人間を虐待したいがために使うなんて、なんという能力の無駄遣いだろうか。
もっと良いことに使えるはずだろ、普通はよ。
その後はじーさんが主になって話を進め、村長であった二人の処分としばらく、あと5年くらい自分が村長に復帰することを言った。
ちなみにあの二人の処分は岩で作った牢にずっと閉じ込めておき、来年の今頃に決めるのだそうだ。
「……こんな悲劇をずっと知れなかった私が村長に復任することに不満を抱くものも多いと思うが、すまぬ、しばらくはまた村長としてやらせてくれ」
「大丈夫だよ…前……じゃなくて村長!」
「こんなこと、二度と起こらないようにしないとね」
「わふぅむ、白狼族始まって以来の最低な身内事件だしな」
村長夫婦の解任と、前村長の復任報告会であったこの演説は終わった。俺たちはすぐに狼族……正しくは白狼族数十人に囲まれる。
「……本当に綺麗に何も傷が残ってないね」
「わふん、ショーはすごいからね!」
「いつ結婚するの? ここまで来たんだから結婚するんでしょ?」
「それより、もう忠誠の証は渡した?」
「わふ、渡したよ」
そういや、リルが敬語が苦手なのって、この民族性だったんだな。まず他人に敬語のやついないし。
敬意は払っていたとしても。
「すごいよね、最強の人と結婚できるんだよ」
「今まで苦しかった分、報われたんだな」
「わふっ……何もかも助けてくれたのはショーだよ。私は運が良かっただけさ」
なんか結婚だって言われたり、リルを助けたことに関して同胞としてのお礼を言われたりすると相変わらずくすぐったいな。今までの人生でいろんな人を助けて来たが……リルが一番俺にとって影響がでかかったかもしれん。
うん、もう運命だなこれ。
「リルっ」
「わふぇ?」
俺はリルを抱きしめた。人前だからって気にしないぜ。
「ど、どうしたんだいショー! みんなの前だよ?」
「いつもは人前なんてあまり気にしねーくせに」
「わひゅーひゅー!」
「おあついねっ」
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「もう帰るのか?」
「はい」
「また、きっと帰ってするよおじさん」
「ああ、次は結婚した後か子供ができたら来るといい」
「わふぇ……ごめん、それはあと7年は待たなきゃいけなさそうだよ……その間に一回は来るよ」
翌日、俺とリルは村を出ることにした。ここから走って宿泊した前の村に帰り、そこからまた馬車に揺られていちゃつきながらゆっくり帰るつもりだ。
「そのことなんだがな、リル」
「わふぇ?」
「俺、やっぱ警察に勤められる事になったらすぐにお前と結婚する事にしようと思う」
「……安定して来た時じゃなくて?」
「ああ、ダメか?」
リルは玉のような瞳で俺のことをじーっと見た。ちょっと何も言わないのがちょっと怖いが、顔は可愛いぞ。
しばらくして花みたいに笑うと、俺に抱きついて来た。
「もちろんさっ! それからずっと、一緒にいてくれるんだよね?」
「ああっ。ずっとな」
「わーふん!」
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