第762話 酷 (翔)

「わっふふ、話は聞いていたぞ。感動の再会というやつだな」

「そ、村長……」

「何を言ってるんだ? 村長はお前らだろ。……ほら、積もる話もあるだろうし、リルと話でもしないか」



 前村長はそう言った後にすぐさまメッセージで俺とリルに何やら作戦を話してきた。



【一応、この目で見るまでこの二人をどうこうすることはできない。ショーさん見守っておるから……話をつけることはできるな?】

【わ、わふ……】

【それって、リルに一度囮になれと……?】

【その通りだが……この状況だ。言葉で責める以外は下手なことができないだろ】



 大丈夫か……?

 リルがトラウマを再発したりしないだろうか。たしかにあの夫妻は外面が良いみたいだから他人が居たらまず本性は出さないだろうが。



【ショーさん、心配なのはわかる。だがリルはもう、何を言われても気にする必要はないはずだ。そうだよな? 一番の心の拠り所が居るんだから】

【わ……ふ、わかった。私やるよ!】

【そうだ、私だけじゃ不安だしな、2、3人信用できる人物も連れて行こう】

【じゃあ俺とリルでそれまでの時間は稼いでます。人を集めてきてください】

【わかった。じゃあ始めてくれ】



 即興の作戦だがきっと上手く行くだろう。

 つーか、上手く行かせてみせる。元来、俺は犯罪は見逃せないたちなんだ。



「わふ。あ……と、そ、その、ひ、久しぶり…だ…ね」

「あー、ああ、久しぶりだね。本当に…生きてくれてて良かったよ……」



 さすがは何年も村人を騙し続けてリルを虐待し続けた輩だ。演技離れてやがる。目に涙を浮かべるなんて序の口か。



「どこで、どうしてたの?」

「えーっと…それは……」

「それは俺も一緒になって話しますよ」



 俺の中の作戦はこうだ。まず、村長が信用できる人物を集めてくるまで、話して時間稼ぎをする。まあ、これは自己紹介でもしてりゃ十分だろ。

 次に村長達がきたら用事で立ち去る振りをしてクリエイトで作ったアイテムで姿を消し、臭いも消す。そしてリルの隣に居てやるんだ。

 真隣で、この二人の悪事の自白を見てやるよ。



「……そうだ、君は……?」

「ショーと言います。この村へはリルと結婚前提で付き合って居ることの報告をしにやってきました」

「リルが……結婚、ね」



 なんだその、俺の趣味を嘲笑うような顔は。

 俺がリルと一緒になるって選択は何一つ間違ってないどころか大正解だぞ。



「あー、そうだ村長、聞いてくれよ!」

「わふ。あんたっ、今、リルちゃんが感動の再会と彼氏の紹介してるところでしょうに!」



 おっと、村人が会話に割り込んでくるのは予想してなかった。しかしまあ、どんな内容でも時間稼ぎになるからいいか。



「いやそうだけどよ、一つつけ加えたほうが話は円滑に進むだろ? 村長、そのショーさんね、なんとSSSランカーなんだぜ!」

「わ、わふんっ!?」

「マジだって。あのウルフェルすら全く歯が立たなかったんだ! 喜べよ。すげー人が結婚相手だぜ!」

「……SSSランク……だと? ほ、本当なのか?」

「あ、えぇ、まあ一応……これギルドカードです」



 俺はギルドカードを見せた。受け取った奴らは、震える手で俺とリルを交互に見る。顔が青くなってるのがわかるぜ。

 まあ、こういうリルを守るための脅しになるんだったらSSSランクになっておいて良かったのかもな。



「あ、あああ、す、すごい、すごいじゃないか」

「わふ、そうだ…! せ、せっかく再会できたしゆっくり4人でお話し…し、しようよ! ね?」



 震えながら言っても嬉しそうではないんだがな、リル。

 俺以外はこの3人ともブルブルしてる状態だ。



「そ、そそそ、そうだな。じゃあ私たちの……家に来なさい」

「そ…そういうわけだから皆さん、それぞれお夕飯の準備を……か、開始してね」

「わかったよ!」

「ごゆっくり!」



 村人達は解散しだした。

 俺は前村長に場所が奴らの自宅になったと伝える。家の中でも、前村長が選んでくる人たちは全員ステータス高いため、外から聞き耳立てれば中の言葉が聞こえるらしい。

 それなら問題はないはずだな。


 俺とリルはアングル夫妻の家にお邪魔した。物が散らかっているわけじゃねーが、掃除が行き届いていない感じがするな。

 台所はごちゃごちゃで、普段、料理があまり上手くできていないこともわかる。

 洗濯物もあまり上手く干せていない。


 今までは全てリルにやらせていたのだろうか。

 リルは家事全般、母さんにべた褒めされるくらい完璧だからな。



「じゃあ少し汚れてるけど、そこに腰をかけて」

「わふ」

「はい」



 俺とリルの目の前に夫妻が座る。

 リルはだんだんと緊張がほぐれていっているのか、震えは弱くなっていた。

 それでも机の下では、手を握るようにせがんでくる。

 その手をぎゅっと握ってやった。

 


「えっと……お帰り、よく生きていたねー、リル」

「ど、どうやって……その、魔物から逃げられたんだい?」



 あくまでも、リルは魔物に食われたって事でしらを切るみたいだ。……この二人をしょっぴく為にも、ここはその演技に乗っておかないとな。

 リルは十分そのことを理解しているようで、すぐに俺に助けてもらったと嘘をついた。

 いや、嘘っつーか、俺がすぐに助けたのは本当だがな。



「そ……そうかそうか」

「む……娘を助けてくださって、わふ、本当にありがとう。ショーさん」



 娘だなんてほざいてやがる。

 ……っと、前村長から準備ができたと連絡が来たな。

 ここからが本番だ。

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