第749話 故郷発見 (翔)

 翌朝。

 あ、流石に2日連続はきついからリルを襲わなかったが……それはともかく、起きたと同時にトズマホに狼族探索機から地図が送られてきた。

 この国に狼族の村は三つあるようで、それぞれレージング村、ドローミ村、リングウィ村という名前らしい。



「なあ、リル。お前の故郷はなんて名前だ?」

「わふぇ……なに? 目覚めのチュ?」

「ん……。ほら、してやったから目を覚ませ。村の名前はなんていうんだ?」

「リングウィ村だよショー……見つかったの?」

「ああ、ほらこれ」



 トズマホを手渡し、地図を見せた。

 リルは目をこすりそれを見る。次第にその眼が開いてゆくのが面白い。



「み……見つけたんだねっ!」

「ああ。もう今日から早速向かおうぜ。心の準備はいいか?」

「わふ!」


 

 俺とリルは朝食をとり、しっかりと準備をすませると馬車屋に向かった。

 ここからリングウィ村までは2日間かかる。

 そしてリングウィ村は移動式なため、馬車の御者に断られる可能性が高い。

 そのため、一番近い街の名前などを控えておいた。そこからは徒歩で行くしかねーよな。

 調べた限りじゃまだ雪が残ってる結構険しい道だが。

 


「にいちゃん達どこまで行くんだい? 国内だったら連れてってやるよ」



 仕事を引き受けてくれそうな馬車を探してる最中に、御手とみられる青年が話しかけてきた。

 うん、馬車を探す手間が省けたぜ。



「ゲルギャ村ってところに行きたいんですけど」

「はいはい、ゲルギャ村ね。2日はかかるから、かなりお金かかっちゃうけど大丈夫?」

「予算の方は心配しなくて良いので。……お願いできますか」

「はいよ、任せときな。そこのお嬢さんと2人で良いんだな」

「はい」

「それじゃあ乗りなよ」



 俺とリルは馬車に乗り込んだ。

 中は可もなく不可もなく。一般的なものよりすこし高めな類の馬車なんだろう。



「出発するぜ」


 

 馬車は走り出す。

 俺は部屋に備え付けてあったソファに腰掛け、リルを隣に座らせる。リルは黙ったまま俺の肩に身を寄せてきた。



「ところで、お客さん。……俺とどっかで会ったことないかい?」

「えっ……?」



 なんか御手が話しかけてきたぞ。

 この馬車ではリルとエッチするのはやめたほうが良さそうだ。



「なーんかどっかで……黒髪黒目の……ああああっ!」

「わふ?」


 

 どうやら思い出したようだ。

 俺はまださっぱりわからないがな。御手は嬉しそうに大声で話し続ける。



「あんたアレだよ、黒髪黒目の! イレド商人から奴隷の女の子押し付けられてた魔法使い! そうだそうだ、俺のこと覚えてるかい? あの時、あの馬車の御手をしていた奴だよ!」 

「ああ、あああ!」



 すっかり忘れてた。こんな人だったけか。

 名前も顔も全く覚えてなかったぜ。名前は今でも思い出せないな。



「いやー、久しぶりだなぁ。……まさかだとは思うけど、あの時の子がそこにいる娘ってことは……」

「まあ、言ってる通りっすよ」



 そう答えると、彼は目を輝かせた。運転に集中しなくて大丈夫なんだろうか。



「体の欠損部位が治せる……マスターポーションを買ったんだな。良くするよ、そこまで。イレド商人の言った通りだな」

「……あの奴隷商ですか」

「そうそう、あの人見かけによらずお酒に弱いからさ、一回だけ酒飲みする機会があって、その隙に聞いてみたんだよ。どうしてアンタに押し付けたのかって。するとほら、確実に良い人間だから……だって言ってたんだよ」



 ああ、確かにそんな気がしなくもなかったがな。

 そういや、奴隷商人はもう国がやれないって決めつつあるんだよな。あの人はどうしてるんだろうか。



「あの、あの時の奴隷商って今は何してるんですか?」

「あー、馬車業だよ。俺、このままあの人に雇われてんの。ってか、俺やあの人が入ってる商人会ってこの国の偉いさん達と繋がっててさ、前々から奴隷が撤廃された後のこと考えて動いてたらしいんだよね。売り物や使用人にしていた奴隷達はみーんな正規の従業員として雇い入れてるよ」

「そうなんですか……!」

「そそ。対応が異様に早かったお陰で今、この国で一番の商人会になりつつある。てかもうなってるか。さらに奴隷だった人たちに職場も用意するらしいからな。国からの評価も上々なんじゃないか?」



 さすがは商人と言うべきか、そこんところはうまくやってるんだな。金にがめついってのも悪いことばかりじゃねーよ、やっぱ。



「ところで、もうその娘は奴隷から解放したの?」

「とっくの昔に」

「まあ、アンタならそうするか。よし、今回の旅行の目的を当ててやろうか? ズバリ、その娘の故郷に行くんだろ。狼族は村を移動するが、好む場所は大体わかるぜ」

「……はい、その通りです」

「ふーん、じゃあ復讐か何か? ちなみに言っておくが、あの時のその娘の傷は商人達がつけたもんじゃないからな。売りもんにしてたわけだから当たり前だけど。捕まえた時からすでにああだった。……ま、それがわかってるから復讐に……」

「わ、わふ、違いますよ!」



 さっきまで黙ってたリルが慌ててそう言った。

 


「ん……じゃあ、なに? まさか村に返しにいくとか? だとしたらそれは奴隷のままで居させるより酷だぞ」

「それも違う」

「じゃ、なんなんだよ」



 俺とリルは本当のことを彼に言った。

 

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