第750話 故郷より近場 (翔)
「はぁぁ!? 結婚前提で付き合ってるから挨拶しに行くぅ!?」
そんなに驚かなくても良いじゃないか?
想定外だったのかもしれねーけどよ。
「まじかよ、律儀かよ。たしかにさっきからラブラブだけど」
ちなみに俺とリルは……てか、リルの方から一方的に腕に抱きついできてる。傍目から見たらそういう関係なのは一目でわかるんだろうな。
「……でも、その子を攫った本人と勘違いされて狼族が敵対してくるか、あんな酷い目に合わせた張本人が襲ってくるかもしれないぜ?」
「わふ、それは大丈夫です。……私たち狼族全てが束になってかかってもショーには勝てませんから」
「確かにあんな最上級魔法のような初級魔法放てりゃな、大抵のやつには負けないと思うが、どの村にも大抵一人はSSランクに近いSランクくらいの強さを持つ化け物がいるって噂だぜ? ……そういやあのあと、冒険者になったんだよな? カード見せてくれよ」
渡したら反応が面白そうだ。俺は冒険者カードをからに手渡した。長いこと眺めていた彼は、しばらくして黙って俺に返してくれた。
「……あー、その、なんだ。……いや。とりあえず今後ともご贔屓にお願いします、大将」
「……ふふっ」
リルが人の反応見て笑うなんて珍しいな。
確かに顔とか面白かったけど。
「ていうかさ、長いことこういう客仕事してたらいやでもSSSランクの冒険者なんて把握するんだけど、大将の話は一回も聞いたことがないぜ?」
「SSSランカーになってから一回も活動してないからなぁ……仕方のないことかもしれません」
「なんだ、そうゆうことかい」
そのあとこの人からはSSSランクの力が宝の持ち腐れだの、可愛い彼女が羨ましい(あちこち移動する職業柄、中々彼女ができないのだとか)だとかすごい言ってきた。
そして2日後、約束通り村に着く。
ぶっちゃけよく話しかけて来たから、今までの中では一番退屈しなかったかとしれねー。
御手が寝ている間しか露骨にいちゃつけなかったリルは少し不満そうだったが。
「どうする? 大将の頼みなら、場所さえ教えてくれればその娘の村まで送ってくけど」
「いや、大丈夫。ここまでありがとう」
「良いってことよ。そうだ、帰りはどうするんだい大将。俺は一泊してゆくつもりだから、明日中に帰るんだったらまた乗せてくけど」
「……それもいい。5日間近くは滞在する予定だから」
「そうか。んじゃあ、しめて大金貨1枚と金貨3枚だ」
2日の旅でここまで遠く、中級ランクの馬車なのだからこの値段は仕方ないとも言える。俺はすこし……いや、かなり色をつけて渡した。
元はと言えばリルと出会えたのもこの人のおかげと言えるかもしれねーから。
「……大将、大金貨が2枚くらい多いんだけど」
「受け取ってください。あの時、馬車に乗せてもらわなかったら困り果ててたし、リルとも会えなかった」
「へ、へえ。……あの時は魔物の折半でって話だったんだけどなぁ。でもそういうことならありがたく受け取っておくぜ。ありがとうな大将」
宿代がもったいないから自分の馬車で眠るらしく、俺たちはこの御手……確か名前はフレッドだったか、その人と別れた。そうして村の中で民宿を探してそこに泊まった。
50代くらいの夫婦が経営していて、普段は別の仕事をしているらしいな。
ものを運びに来た御手以外で宿泊客が来たのは2年ぶりなのだとか。
部屋は個室しかないうえにベッドは一つ。
一応敷布団はあるらしい。それを貸すかどうか訊かれたが、ベッドは結構広めで二人で眠れそうだったので断ったぜ。
そうするとここの女将さんが何かを察したのか、旦那もとい、ここの主人さんに、アナズムでの避妊具である『アレ』がないか尋ねていた。それを見ていたリルは慌ててきちんと自分たちの分はあるって説明する。
……この二人の察しを否定しないあたり、リルはやる気だな。
ここのところほぼ隔日だったのが元の間隔と同じくらいになっちまった分、反動がくるのはわかるが……これ帰ったら大変そうだな。
ちゃんと4日に1回に戻せるんだろうか。
飯はここの名産で作った女将さんの料理。かなり寒い地域だからシチューがうまい。
そんでもって夜になったから俺とリルは客人用のシャワーを浴びてから一緒の布団、それも一人用に密着して横になった。
「きついなこりゃ……俺、図体でかいからな」
「それがいいんじゃないか。ほとんど私がショーの上に乗ってるようなものだけど、大丈夫かい? 重くない?」
「それは全く問題ないぜ」
「そっか! ……このまま寝ないよね?」
希望と恐怖が入り混じったような顔をしている。実のところ、リルはこの村に着いてからずっと震えっぱなしだ。自分のトラウマが居る場所の近くまで来たんだから当たり前だが。抱きつかれているだけでも、その震えが伝わってくる。
「ああ」
「わふぅ…! ありがとっ!」
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「夕べはお楽しみでしたね」
ここの主人にそう言われた。
もしかして聞こえてたりしたのか?
「すいません、気を遣わせちゃって……」
「いやいや、若いのですからね、いいんですよ。はっはっはっはっは!」
なんか主人は嬉しそうだ。
ちなみに俺は今、朝食を待っている。部屋で待ってるリルと一緒に食べるんだ。
「そういえばなんでこの村に来たんです?」
「ここの村が、狼族の村に一番近いので」
「ああ、確かに村ごと山中に引っ越して来ましたなぁ、去年の半ばに。なぜ狼族の村に行くんです?」
「実は俺の連れ……赤い頭巾をしていてよくわからなかったかもしれませんが、狼族なんですよ」
「ははーん、彼女の帰郷と共に両親に挨拶……と言ったところですかな? どうです、あたりでしょ?」
「その通りです」
少なくとも俺の理由はそうだ。
それにしても、女将さんが運んで来てくれるはずの朝食が遅い。どうしたんだろうか。
「家内、遅いですね? 普段はよく働くいい嫁なんですが……おおーい! お客様がお待ちだぞー、どうしたー!」
主人がそう叫ぶと、ドタドタと音を立てながら女将さんがこの世の終わりではいかという形相でやってきた。
そして、こう言った。
「で、でで、出たんだよ!」
「何が?」
「ヘルアイスナイトだよぉぉぉ!」
「なにぃぃぃ!?」
俺は物陰に隠れて、トズマホでその名前を調べてみる。
ヘルアイスナイト、寒い地方に現れる氷でできた騎士。
ランクはS。そしてそのほとんどが亜種。
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