第732話 どこまで行ったのか
お母さんとお父さんが自立してから1週間経った。
2日前に曲木家夫妻も火野家夫妻も、お金が貯まったという理由から、お母さんとお父さん同様にこの屋敷から出て行った。
ある程度のレベルになったら戻ってくることを約束してね。
「またこの屋敷も寂しくなったわね」
「ま、あとでまたみんな戻ってくるけどね」
「どこまで進んでるのかな? 一番最初に出て行ったおじさんとおばさんは」
確かに2日に1回は訪れてくれるが、元気であるという報告くらいしかもらってない。あと、お母さんからお父さんとどこでデートしたとかそういう惚気話。
「まあ1週間でCランクからBランクに上がるのは流石のお父さんでも無理だと思うけどねぇ…」
「どうかな? 昔からおじさん…いいえ、お義父さんはなにするかわかんないし」
そうなんだよなぁ。
今頃、なにしてるんだろう。
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<side 成上夫妻>
時は6日前に遡る。
アリムの屋敷から独立した夫婦は、当日になんとか宿屋を見つけ、しばらくはそこに住むことにした。
「どのくらいの強さになったら戻るの?」
「うーんと、Sランクだっけ。そのくらいになったらかな。いつでも戻って来ていいらしいし、飽きたらまたあの子達に世話になろう」
「うん」
子供達がおらず、また、17歳の姿になっていることもあり、二人は側から見てどう見てもバカップルであるような距離感を作っていた。
知っている者が見たら、有夢と美花みたいだと言ったかもしれない。
「じゃあ、今日の仕事に行こう。もうCランクだし、遠出する依頼を受けてもいいかもしれない」
「そうだね! ……ねぇ、私、足手まといになったりしてない?」
「そんなことない。居てくれるだけでやる気が起こる」
「ふふ、んもぅ。やる気が起こるもなにも、子供達から独立するくらいやる気に満ち溢れてるくせに」
二人はギルドへと訪れた。
17歳となった二人は、有夢と叶に引き継がせたのであろう美少女のような容姿をしている。そう、父でさえ。
すでに夫婦であることをバラしているので言い寄ってくる者は居なかったが、それでも色目は使われていた。
「この雰囲気は、何回味わっても不思議だよね」
「若い頃が懐かしいわ。こうやってよく見られてたわよね」
「有夢とミカちゃんもこんな感じなんだろうね、どうせ」
受付のアギトという男に軽く会釈をしてから、父は掲示板から依頼を選んだ。Cランクとしての初めての仕事。
この異常なランクの上がり具合は、皆、アリムを彷彿とさせていた。
「いやぁ……お二人さん、やっぱり似てるんだよなぁ」
アギトが顔をまじまじと見ながら、父に話しかけてきた。
「アリム・ナリウェイにですか」
「ああ、雰囲気も顔も。あの子ね、今じゃこの世界で一番の実力者で一番の美女だけどね、出身はここなんだよー……って、それはまえ話したか」
「記憶をなくしてるという話も聞きましたよ」
「やっぱり、どちらかが従兄弟とか、そんなのじゃないのかい? だとした会ってあげて欲しいなーなんて。ああ、心当たりがないならこの話は忘れてくれよ。仕事選びの邪魔して悪かったな」
アギトは二人がCランクに上がったばかりなのを思い出し、さらに話を続けることにした。
「そうだ、あんたら、今日からCランクのパーティだろ? CランクはDランクとは段違いで強い。注意するんだぜ?」
「心得てますよ。……なにかオススメの仕事とかないですか? 早速、Cランクを受けてみようかと思うのですが」
「あー、なったばかりなら……これかな?」
アギトが選んだのは、Dランクの魔物の討伐だった。3匹同時に出現するらしく、村の住人を困らせている。
ただ、銀臣犬というBランクの魔物の縄張り近くでもあるので気をつけて欲しいと書いてあった。
それもあるからCランクの依頼なのだという。
「大丈夫なんですか? Bランクって」
「いやぁ、そんな気にすることねーよ。縄張りってだけで、まず誰も遭遇したことねーんだ」
「そうですか…まあ、それなら」
どっちみち父には仮にこの敵と遭遇しても倒せるという自信があったので、それを受けることにした。
依頼を出した村はこの城下町から馬車で6時間ぐらいのところにある。
二人はギルドを出てすぐに冒険者用の馬車城まで移動し、指定された馬車に乗った。
中はマジックルームで、狭いホテルの一室くらいの快適さが保たれた空間があった。
明らかに外見より広い。
「本当にこの世界の技術はすごいわね……」
「空間とかを操る技術に長けているんだね。魔法とかあるし、不思議じゃないけど。有夢の家なんて空間操作だらけだったじゃないか」
「それもそうね。……6時間暇だなぁ……何かすることないの?」
「俺はこの世界の本を読むけど…ママはどうする?」
「えーっ、寂しい……」
「わかった、3時間くらいしか読まないよ。そのあと相手してあげる」
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