第733話 仕事 (親)

「着いたよ」

「ん……もう着いたんだ」

「結局寝ちゃったじゃないの。相手してあげるって言ったのに」

「帰りね、帰り」



 2人は馬車から降り、村の中に入った。

 城下町とはまた違う、いかにも田舎という場所である。



「あなたがこの村の村長ですか」

「いかにもじゃ。ようこそおいでくださりました。お二人とも、遠いところをわざわざすいませんの」

「いえ、仕事ですから。……それで、村を荒らすDランクの魔物というのは?」

「赤尖犬という魔物ですじゃ」



 犬の魔物はこの世界では多い方であり、Dランクの犬の魔物には、赤尖犬の他にも黒兵犬などが居ることを父はすでに知識として得ていた。

 妻が寝てしまってから、彼はずっとDランクの魔物でこの村の環境で出現しそうな魔物を調べていたのだ。

 無論、出現してくるかもしれない銀臣犬のことも。



「赤尖犬ですか、わかりました。出現しそうな場所は判明していますか?」

「ええ。どうやらこの村から少し離れるだけで、匂いを察知して襲いかかってくるみたいなんですじゃ。ですからワシらは最近、村と道の結界の外にも出ることができなくて……」

「なるほど、わかりました。では私達がこの場から出たら襲いかかってくるかもしれないということですね?」

「はい」



 これは楽だな、と、彼は思った。

 そしてもう一つだけ、村長に問うことにした。



「ちなみに銀臣犬というのが出てくる可能性があるという話ですが」

「ああ…それは数年に一回くらい、この村の者が見かけるのですじゃ」

「この森の主とかリーダー的存在であるということは…?」

「違いますじゃ。この森の魔物の主はSランクの熊の魔物。銀臣犬なら倒してしまっても問題ありませんぞ。まあワシらはなんの被害も被ってませんがな」



 そのあと、またある程度の話を聞き、二人は仕事に取り掛かることにした。

 わざと森の中を目立つように歩く。

 時々、小さな犬の魔物も襲いかかってくるが、彼は難なくそれらを倒して行く。



「Eランクの魔物10匹でもそれなりの経験値になるから、襲ってきたのは余すことなく倒すよ」

「ん、わかったわ」



 村から離れて20分経った頃、父の探知に3匹の魔物が引っかかる。反応から見てDランク。探していた赤尖犬であることは間違いなかった。



「くるね……」

「Dランク3匹同時に相手するって初めてよね? 大丈夫なの?」

「さあ、やってみなくちゃなんとも」



 やがて3匹は姿を現した。まるでレンガのように赤い3匹の大きな犬。それらがよだれを垂らし喉鳴らしながら二人を見据えている。 

 


「なんで動かないの? あの魔物」

「こちらの様子を伺ってるんだと思うよ。スキができた瞬間とか________ほらきた」



 二人が話している最中に1匹の赤尖犬は飛びかかってくる。野生の獣の飛びかかり。

 ろくに装備もステータスもない二人は食らったらひとたまりもない。


 しかし、その魔物に変化は途中で現れた。

 普通ならば飛びかかりが失敗してもうまく着地し、次に備えられる。だがその個体は二人に体当たりをかますことができず、その上着地に大失敗し、勢いに任せて木に激突した。

 そして二人はそれをわかっていたかのように回避することもなくその場に佇んでいる。


 木に激突した赤尖犬の個体からDランクの魔核が排出された。目は白を向き、口からは異常なまでによだれがれている。



「……相変わらずえぐいわよね」

「でも外傷はないから、痛みもわからず速やかに死んでるはずだよ」

「でもまさか、有夢も叶も分からなかったなんてね。いや、私自身パパからその攻撃方法を聞いたときは驚いたけど」



 彼女からそう聞いた彼は、にこりと満足そうに笑った。何が何やら分からないうちに死んでしまった同胞を見て、残りの赤尖犬は固まっている。

 その2匹に、彼は杖を向けた。



「まあ、念術ってスキルの効果を見て、もしかしたら脳や心臓に直接働きかけることができるんじゃないかって思ってやって見たらできたってだけなんだけど」


 

 パタリと倒れた赤尖犬2匹に近づき、脈を図り、魔核と死体を回収した。先ほど倒した個体も同様にすぐマジックバックの中にしまう。



「念術を使うだけで、潰せはしなくても脳を激しく揺さぶれるし、心臓の鼓動を止めることもできる。肺を無理やり閉じさせることも」

「まあ、本来はこんな使い方じゃないんでしょうね」

「うん、多分、普通に念力の類だったんだと思うよ。………ああ、もしかして来ちゃったかな?」

「え? 何が?」



 向こうを向いてみて、と、父は母に言った。

 その先にいたのは、銀色に輝く毛並みをもつ美しい犬。そして、敵意を二人に発していることも明らかだった。



「魔物って、人型だったり、地球にいる動物だったりするから助かるよ。解剖図は頭の中に入ってるからね」

「でもスライムには手こずってたでしょ?」

「だってどこが弱点が最初は知らなかったし……。まあ、とりあえず、銀臣犬に遭遇しちゃったらやることは一つだよね」



 彼は、魔物に向かって杖を向けた。

 Bランクの魔物を相手にしているとは思えないほど微量の魔力が、流れる。

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