第671話 全国大会 4

「うおおおお! やべぇ、やべえよ部長!」

「あんなん…すげぇよ…」

「何年経っても超えられるビジョンが浮かばない!」



 後輩や試合に出てない同期たちがそう口々に言う。

 俺も内心めちゃくちゃ盛り上がってるよ。すごいよ翔!

 まさか三人連続で一瞬で終わらせるなんてね。まさに無双だよ、本当に。

 

 そうだ、リルちゃんは……。



「あ、今リルちゃん見ちゃダメ!」

「え?」



 リルちゃんの方を向くと、美花が庇うように、覆いかぶさるように支えていた。

 なんだかビクンビクンと痙攣してるような気もする。



「わふぇぇ…ショーっ…ショ…んっ…んんっ…!」

「ね、すごくエロいから見ちゃだめよ?」

「わ、わかったよ」


 

 リルちゃんも大変だなぁ。確かに声がセクシーだし。

 強い人間を愛するオオカミ族の性なんだろうけどさ。

 でも他人の試合じゃこうならないし。



「さすがに翔は来ないね」

「次が決勝だし、当たり前だと思う。でもさっきの見てる限りじゃ…ね」

「優勝しちゃいそうだよねー」



 長いようで短い休み時間が終わり、間も無く決勝戦が始まった。お互いの高校は前に出る。

 さっきまで翔のことを話題にしていた人達も含め、会場にいるほぼ全員が、この光景を見守っているんだ。

 


<決勝、県立◆◆高校 vs _________> 



 ザッと、5対5で並びあうその光景はまさにラストバトルって感じ。1人1人が猛者だ。



<では、1試合目を開始します。◆◆高校先鋒___。_____高校先鋒、星野。両者前へ>



 呼ばれた二人は前に出てくる。

 審判が初め、という声とともに手を振り下ろした。


 星野君は初っ端から攻める。ひたすらに攻めて攻めまくった。たぶん作戦の一つなんだろうね、相手は防御一辺倒。攻撃をする余裕を与えない。


 まずは一勝を捧げる、そんな一心が星野君から見える。

 ものすごい猛攻…よくあんな攻め方して息が切れないもんだね。そしてそんな猛攻は身を結ぶ。



「技あり!」



 背負い投げによる技あり1回目。これを先取することができた。

 けれども一方で星野君のブーストがだんだんと落ちてきているのはわかる。

 それが災いに転じてしまう。



「有効!」



 こちらも、実質的な意味はないが有効を許してしまった。しかしあの猛攻の中無理に攻撃した敵も息切れをし始めている。ニヤリ、と、星野君は笑った。


 そして試合再開の次の瞬間、袈裟固め。

 その秒数13秒。



「一本!」



 技あり2回カウントの一本勝ち。

 まずは星野君が一勝をもぎ取った。

 湧き上がる会場。これ以降の士気が違うことだろうね。


 そして続くvs次鋒。

 初戦で体力を使い果たしてしまった星野君はあっさりと負け______るはずなど彼の性格でありえるはずはなく、ひたすらに粘った。

 準決勝戦の敵の次鋒の最後のあがき同様に、ひたすらに体力を削りまくろうとしている。

 


「一本」



 結局、一本を取られちゃったけれど、敵の次鋒に疲労が見える。無論、星野君は疲れきっちゃってるんだけど。

 そして次鋒vs次鋒。

 体力を主にした戦い方を今までしてきた二山君にとって、すでに疲れてる相手はとても楽だったみたいで、有効3回多く取り、勝った。


 そして、なんと二山君も次の戦い…敵の中堅に対してひたすらに疲れさせる作戦をとったの。

 (翔を除いて)一番粘るのがうまい彼によってひたすらに疲れさせられた相手。2回の技ありをされ、二山君は中川君にバトンタッチ。

 

 そして中川君はすんなり技あり2回で相手の中堅を倒し……また粘る作戦へと移行。

 敵の副将はこの展開を予想していたのか、まともに相手をしようとしない。でも、中川君は追いかけ回し、体力を削ることに尽力した。

 有効数の判定負けで中川君が負け、ついに剛田君が現れる。


 剛田君vs敵の副将はかなり見事がある戦いとなった。

 組んではすぐに解かれ、攻めたら守られ、同時に攻めたり、深い読み合いをしたり。

 

 敵の副将の体力は思っていたより高かったみたいで、動きに支障がない。

 有効の取り合いの繰り返し______そして。



「勝者、剛田!」



 激戦の末、剛田君が有効1つ多く取り競り勝った。

 ……ついに敵の大将、毛利が現れる。

 この威圧…翔に近いものを感じるよ。


 副将vs大将。

 二人は組み合う。

 


「技あり!」



 開始数秒で剛田君が技ありを取られてしまった。

 そのあとも、何回も何回も有効を取られる。でも剛田君はものすごく粘った。決勝戦にて部員全員が行なっていた体力消耗作戦……いつこれの打ち合わせをしたのか知らないけれど、どうやらこれは敵大将にも有効だったみたいだ。



「一本!」



 終了10秒前についに剛田君が倒された。

 フラフラと立ち上がる剛田君とタッチを交わしながら、翔が出てくる。

 全員が注目すべき、大将戦。

 一方は仲間の努力により疲れが見えている。



「うおおおおおお!!」



 会場に響くくらいの掛け声で、敵将毛利は翔に挑んだ。

 冷静に、翔は腕を掴む。

 はらう。

 投げる。

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