第670話 全国大会 3
「準決勝進出おめでとう!」
「おう!」
次またすぐ試合なんだけど、この15分の休憩の間に翔だけが観客席まで来た。後輩たちが駆け寄る。
「部長! やべーっす!」
「さすが部長! 俺たちにできないことを平然とやってのける!」
「ははは、頑張ったからな!」
実際さっきの翔はすごかった。
まさに一瞬一撃。かっこよかったなぁ。
あ、そうだ。
「リルちゃんは…」
「御察しの通りよ」
「はぁ…ショー…! わふ…くぅん…」
やっぱり息遣いが荒くなって顔も火照っちゃってるね。次の試合から準決勝で、翔の出番が増えると思うけど、リルちゃんは耐えきれるのかしらん。
「おお、リル! 見ててくれたか?」
後輩と試合に出れなかった同期たちの間をかいくぐり、翔はリルちゃんのもとに駆けてきて、隣に座った。
美花は空気を読んでリルちゃんから離れ、俺の反対隣に来る。
「み、見てたよ、ショー!」
「おお、そうかー! サンキューな」
「うん…次も、頑張ってねっ…!」
リルちゃんはべったりとハグをする。それに対して翔は少し照れたようにハニカミながら少しだけ抱き返した。
周りの目がなかったら抱きしめた上で頭も撫でてるんだろうけど、さっきからテレビ局や記者と見られるような人がチラチラとこっちの様子を伺ってるからね。
あまり大胆なことはできない。
「よし、じゃあそろそろまた行くわ。……2人とも、リルのこと頼んだ」
「うん、任せてね」
「しっかり見ててあげるから、心配しなくても大丈夫よ」
「おう!」
翔は来た道を戻り、また、試合の舞台へと向かっていった。その5分後にアナウンスが流れる。
<それより今から_______準決勝を開始します>
今回からフィールドは、舞台を区切って多校一度に戦わせて時間短縮するのではなく、真ん中にどんと一つだけ置かれるようになった。いやでも注目がいく。
どうやら翔たちは準決勝2戦目のようで、まずは1戦目。これで決勝で翔たちが戦う高校が決まるんだね。
<県立◆◆高校 対 都立**高校 >
呼ばれて出てきた計十人の選手。ぶっちゃけ今までとは一段と顔立ちが違う。……ような気がする。
特に◆◆高校の毛利っていう大将は至極強そう。
そして、間も無くして試合は開始された。すごく見応えがある。
先鋒、次鋒、中堅と両チームが同じくらいの感覚で減って行く。しかし途中で**高校の方が◆◆高校の副将同士の試合に勝ち1歩リード。
大将は2連勝しなきゃならなくなった。
本当だったらもうちょっと**高校は余裕のある表情をしてもいいものだけど、なんだかそんな雰囲気じゃない。
ここからが本番…みたいな?
「きたぞ…」
「もし勝ち進めば、今大会最強の敵だよな…」
後ろで後輩たちの声が聞こえる。
事実、後輩たちが言っていたのは本当だった。毛利という名前の大将は、**高校の副将を瞬殺(翔ほど早くはなかったけど)。そして大将戦でも、難なく圧倒し……決勝に進出してしまった。
「あれが決勝の相手かぁ….」
「強そうね…。そんなことより翔の準決勝応援しなきゃ」
「だね」
俺たちの高校名と、相手の高校名が呼ばれた。
なんだかこっちまで緊張してくる。
「わふ、あの学校は次鋒にエースを置いてるって話だよ」
「そうなんだ」
序盤にエースを置いて戦力を大幅に削る作戦だろうか。その作戦でここまでやってこれてるんだから強いんだろう。
間も無く先鋒vs先鋒が始まった。
割とここは今までの試合と熱狂もかわりばえしない。星野君が2回技ありを取得し、勝利した。
そして問題の次鋒。
「……一本か」
なんと星野君が一本を取られて負けてしまった。なるほどさすがは敵校のエース。
続く二山君。
俺の中では粘り勝ちに定評のある彼も、技あり2回取られ負けてしまった。
そして中堅の中川君も一本を取られて敗ける。
「や、やばくない?」
「……ここまではあの高校の台本通りだね。今までの試合もこんな感じだったみたいだよ」
「やっぱりやばいじゃん」
これはいわゆるピンチというやつなのではないだろうか。ついにこちらの副将の剛田君が出てきた。
……敵のエースは先ほどと構えを変える。
「わふ、剛田君が実力者だってわかったから、徹底的に体力を削って後方に任せることにしたみたいだね」
「ムムム…」
リルちゃんのそんな見立て通り、副将vs次鋒はとてもドロドロとした試合になった。
結果こそ剛田君の有効が3つも多く取れて、ついに次鋒を負けさせたんだけど、どうやら敵さんの狙い通り体力がめちゃくちゃに削がれたみたいだ。
「ついに翔だね」
「ん…でも勝てるでしょ、たぶん」
翔が出てきた瞬間、かなり有利な状況のはずの敵(中堅)が顔を歪ませる。顔がマジ…威圧が半端ないよ翔。
会場も固唾を呑む人が多いのかいきなり静かになった。
_________結果をみて叶が呟いたのは.『強大なる個による無双』という言葉。
うん、まさにその通りだと思うよ。
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