第638話 近所のおじちゃんみたいな

「どうしてみんなみたいに昔から知っている子らを傷つけることなんてできようか」



 そうはっきりと言い切った。

 さも当たり前かのように。



「そもそも私をあの二人と一緒にするな。サマイエイルは悪魔を統率するリーダーシップこそあるが、人間は認めた者以外平気で殺してしまう。スルトルは戦闘狂だ。慈悲などない」

「……なるほど、サマイエイルがリーダータイプ、スルトルが戦闘タイプなら……シヴァは?」

「私は自由人タイプだ」



 なるほどその言葉はとてもしっくり来る。

 話していたても話題を気になるところからコロコロ変えたりするところとかね。



「でも悪いことしたから封印されて地球にいるのよね?」

「うん、私も昔はサマイエイルのように認めた者以外はどうでも良かったかからな。そりゃもう、魔神らしい悪いことなんてあいつらと同じぐらいやってきた。あ、それでも殺した人数は私が一番下なんだぞ?」



 まあ特技上、サマイエイルが一番人を殺してそうだよね。



「それでなんで、そんなフランクな性格に?」

「私がここにきたのは江戸時代初頭あたりだぞ? そこからずーっと日本を見てきた。戦争も幾度となくあったが……ここ何十年間もずっと平和だ。平和に包まれた私は…性格まで平和になってしまった」



 そうか、よく考えたらこの人(?)は440年以上ずっと日本を見てきたんだ。俺たちじゃまだ計り知れない途方も無い時間。……まあ、アムリタ飲んで不老不死になればアナズムでは体験できるんだけどさ。



「本当に?」

「ほんとのほんと。いや、そもそもサマイエイルとスルトルを撃破した……主に有夢か。勝てる気がしない。全く」



 そりゃ、今ならあの二人が同時に襲いかかってきても俺らならなんとかできる自信はあるけどさ。

 


「魔神はこっちで魔法を使えたりしないの? それで今のうちに俺たちを倒すとか」

「んー、それもなぁ…もしやらざるを得ない状況になったとしてもあまりやりたくないのだよ。こっちで力を使うのは本当に難しいし、その限られた力を使って世界征服なんてしようとしても…地球の一国の軍力の方が圧倒的に強い」



 へえ、やっぱり魔神も制限させるものなのか。比較対象が国単位なのが少し怖いけど。



「嘘は言ってない?」

「言ってない。叶、一方的ではあるが昔馴染みである私を信じてくれ」



 やーっぱりピエロの顔で言われてもなぁ…かっこいいセリフもなんかおちゃらけて見えるんだよなぁ。

 まあこういうことは叶に任せておけばいいでしょう。



「……はっきりいうと信用できないけど……。でも、今までの魔神より違うのは明らかだし……とりあえず、今日は帰るよシヴァ。みんなもそれでいい?」



 俺は頷いた。

 桜ちゃんも頷く。美花も俺の様子を見てから頷き、翔は返事をせずただ黙って叶君を見ていた。リルちゃんは目をクリクリさせて光夫さんの顔を見つめている。



「とりあえずいいみたいだ……。といっても光夫さんに取り付いてるままじゃ、その人にも生活があるし……」

「ああ、そうだ。団員たちに秘密で抜け出してきた」

「……どうしよう。この金剛杵の中に戻れる?」

「自分でか? 自分で入ったら出入り自由で一度取り憑いたこいつにも何度でも取りつけるがそれでもいいか?」

「今日のところはそれでいい。一旦サーカスに帰って、自分から金剛杵の中に戻ってよ」

「……わかった」



 シヴァは身を翻す。



「いつか私もみんなにちゃんと封印されてしまう時が来るかもしれないが、その時は……まあ、内側から外を見れ、喋れるように改造してくれよな。……今日のところはいなくなろう」



 そういうと彼は暗闇の中に溶けていった。

 いや、ただ歩いてるだけだと思うけど、ジャケットのせいでそう見える。



「……まさかこんなことになるなんてな」



 翔がポツリと呟いた。



「正直俺ですら予想付かなかった。最悪、相手が好戦的なら言葉でなんとかやり込めようと思ってたんだけどね。その必要もなかったよ」

「で、でも本当に大丈夫なのかな? お姉ちゃんはどう思う?」

「私? んーとね、多分、本当に敵ではないんじゃないかな」




 なるほど、さっそく今週中にまた黒いフードの男と会えるという予想をズバリ当てた美花はそう考えますか。

 じゃあ大丈夫なのかな。



「あー、40分もこんな寒い中立ってたのか」

「ショー寒いのかい? ぎゅーしようか? …私体温低いけど」

「いや、寒くはないから手を繋ぐだけにしとこうぜ。あるきづらいし。……んじゃ、俺たち帰るわ」



 リルちゃんと翔は手を握った。

 リルちゃんがすごい嬉しそう。



「はーい、おやすみなさい」

「わふ、おやすみ」

「おやすみな」



 二人は帰っていった。

 残された俺たち4人も、それぞれ家に帰ることにする。

 ……まあ重い荷物はなんかなくなった気がするかな。明日からまた、普通に学校行こうね。

 でも魔神とのお話づきあいというめんどくさいのは今後増えるんだね、ま、仕方ないか。敵対じゃないだけ数億倍マシだよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る