第636話 滅魔神シヴァ

「見ていた……とは?」

「見ていたものは見ていたのだ。……実を言うとこの金剛杵の中に封印されていたとしても力の大半使えないだけでな、制限はついてるが外を見て回ることはできるんだよ」



 へー、そうなのか。

 確かに封印されてたら暇だもんね。それも何百年も。だから俺たちのことを良く知ってるし、こんなに親しげなのかもしれない。



「私は何百年も前にこの地に封印されてから様々な人間を見てきたが、有夢、美花、桜の美しさは随一だ。そして叶の天才っぷりに翔のアナズムの人間ではないかと思えるほどの地球人離れした豪傑さ。いやー、ここ十数年間は飽きなんて来なかったぞ」

「そ、そうなんだ」



 なんで美花と桜ちゃんに俺を並べたんだろ。

 ……もしかして俺のこと女の子だと思い込んでるなんてことはないよね?



「えーと、それで。私以外の二柱はどうした? 短期間で揃って復活したのはわかってるのだが」



 なんて答えれば良いのか。

 何気に魔神達は魔神同士で仲間意識はあるみたいだから、ぶっちゃけていいものなのか。



「……ふんふん、やはり、やはり臭う。さっきから翔からスルトルの臭いがするのだ。あのくそ焦げ臭い。……翔は賢者だろ? まさか1度でも取り憑かれたとかではないよな?」

「いや、その、その通り取り憑かれたと言うか…」

「なにぃ!?」



 あ、本気で驚いてるコレ。

 なんか『マジで?』みたいな顔してるもん。



「じ、じゃあいまあのバーサーカーは翔の中に?」

「いやぁ…それが」



 翔は叶に目を流す。

 叶は一歩前に出て、説明をし始めた。



「もう倒したんだよ。そして封印した」

「え、マジ? それマジ?」

「ま、まじまじ………」



 これから戦闘にでもなるんじゃないかと思って内心身構えてたけどなんか調子狂うな。今まで魔神は本当に神っぽいのと戦闘狂で強そうな感じのやつだったから、こんな近代的な喋り方も交えてる魔神って拍子抜けする。



「あいつ私達三柱の中で単純な強さなら最強なのによく倒せたな」

「それはもう、にいちゃんと美花ねぇが」

「……へえ、有夢と美花がな…。え、どうやったんだ?」

「あ、いやまあ…色々と……」



 とりあえず言葉は濁しておくけど、途端にシヴァの俺を見る目が変わったような気がする。怯えを含んでるような。



「他にも私達関連で聞きたいことがある。こいつ、この身体は地球に帰ってきた導者のものなのだが、どうやらサマイエイルの中古品でもあるようなのだ。どういうことなのだ?」

「取り憑いてる相手の記憶って読み取ったりできないの? ほら、普通にサーカス運営してたし」



 叶がもうすっかりたじろぐことなく話をかけた。

 そのことについてシヴァは特に躊躇うこともなくすんなりと話してくれる。



「できるが、まあ普段はこいつに身体と精神の支配権を返してるからな」

「じゃあ電話してた時のは……?」

「あれは私がこいつのモノマネをしただけだ。そっくりさんだったか?」



 そ、そっくりさんって…。



「うん…まあ、かなり。でも光夫さんと俺たちの間しか知らないようなことをちょいちょい言ってたけど、それは?」

「それはさっきも言った通り、この時間の間にここ最近のことだけ記憶を探ったのだ」

「それじゃあ今から少し時間あげるから、光夫さんのアナズムにいる間の記憶を読み取ってよ。サマイエイルがどうなったかわかるよ」

「……あっ、そうか。ごめんねみんな。少し待たせる」



 シヴァは目を瞑り、光夫さんの記憶を辿り始めた。サマイエイルについて知りたかったらこの人が一番だからね。

 5分ほどしてシヴァは再び目を開ける。

 ちなみにその間におれたちは色々と作戦会議したよ。



「ふむ……こういうことか。大体わかった。すごいなぁ…なるほど、有夢はレベルメーカー……」

「そのレベルメーカーってなんなの?」



 本当になんなんだろ。この単語の意味がどういう意図のものかわからない。……レベルってついてるからレベル上げにこだわりのある俺としては褒め言葉のような気もするんだよね。



「あっ……。あ、いや、そのなんだ。レベルを上げまくって強くなった者の敬称みたいなものだ、うん」

「そうなんだ!」



 やっぱり褒め言葉だったか。ふふーん。

 なんかまだ隠してることある気がするけど、とりあえずこれでいいや。



「いや、それよりも、それよりもだ」



 体をワナワナさせながら唐突になんか怖い雰囲気を醸し出し始めた。なにか不満なことでもあったんだろうか。

 そうだ、俺が魔神仲間である二柱を滅ぼしたから……!?



「有夢、お前は女の子ではなかったのか!?」

「えっ…!」

「この光夫という導者に自分は男だと話してるではないか! はぁん!? どういうことだ!」



 あー、やっぱり俺のことを女の子だと思ってた系か。

 でもね? でもだよ?



「その…中学生とか、高校でも男物な制服着てお参りしに着たことあると思うんだけど……」

「あれは男装だと思ってた! 勝手に萌えてた! ……まさか男の娘だったとは…っ。まあそれもよし」



 なんだこいつ。

 なんなんだこいつ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る