第633話 電話と石焼き芋
『はい、愛長です。ご用件は?』
「もしもし、成上です。光夫さんですか?」
『なりうえ……ああ、有夢さんですか。どうかされましたか?』
声をだけを聞くといつもと変わらない光夫さんだ。普通に考えてまだ地球では金剛杵に関わってなんて居なさそうだけど。
「その…確認したいことがいくつか有りまして」
『確認したいこと? アナズムに関連することですか?』
「はい」
確か光夫さんは自分が100年前にどうしていたかを覚えていなかったはず。その確認をもう一度しておこう。
「もう一度お聞きしますが、100年前のことはなんにも覚えてないんですか?」
『ええ……強いて言えな転送された時のショックくらいですかね、覚えてるのは』
「そうですか」
ふむ、やっぱり覚えてないか。
「にいちゃん、次は金剛杵のこと聞いてよ」
叶が耳元でそう囁いてきた。
それはいいんだけど、そうね、なんか……。
「うん、わかった。わかったけどみんな近すぎじゃない?」
「電話の内容をよく聞くためだよ。仕方ないね」
「うーん」
さすがに5人全員俺に寄り添って電話を聞くのはやりすぎじゃないだろうか。もうあと1、2週間とすれば冬なのに暑苦しい。気にしたって仕方ないか。暑いけど頑張って電話するの続けなきゃ。
「じ、じゃああの、導者の封印具である、金剛杵、インドラって知りませんか?」
『金剛杵ってインドの神話にでてくるアレですか? いや…どうですかね』
どうやらわからないっぽいな。
この人が導者であるって、俺自身も思うんだけどなぁ…本人がなにもわからないんじゃなにもできないよね。
「じゃあにいちゃん、次に幻転地蔵のことについて」
「うん。じゃあ幻転地蔵って知ってます?」
『ゲン…テン? いえ、よくわかりませんね』
「俺が光夫さんを地球に送り返す時に使った装置の地蔵のモデルなんですけど」
『あーあー、アレですか。あれのモデル……ああ、そういえば________』
これは手応えがあるっぽい! でもそんな光夫さんがそういえば、なんて気になるフレーズを発した直後。俺たちは騒音被害に遭うこととなったんだ。
「いーしやーきいもー、おいもっ! うぉいもだョ」
『________たんですが……』
「あー……」
「にいちゃん、もう一度聞いて」
まさかこの時間で石焼き芋の音に大事な部分を聞き取れなくさせられるとはおもわなかった。
そうだよね、もう秋の終わりだしここ住宅街だもんね、そりゃあ石焼き芋屋さんも来るよね。まだ一回も食べてないけど。
「あの、すいません。お芋屋さんの歌が……。もう一度よろしいですか? 幻転地蔵について」
『ええ、いいですよ。あれですね__________』
「いーしやーきいもー、おいもっ! うぉいもだョ」
『いーしやーきいもー、ぉいも。うぉいもだョ」
「ちくしょう!」
なんなんだこのタイミングの石焼き芋!
しかも音がさっきより誇張して聞こえてきたような気がする! もぉー、ぷくーってぽっぺた膨らませたい気分だよ。申し訳ないけれど、もう一回聞くしかないよね。
「すいません、もう一度……」
「まってにいちゃん」
叶が止めてきた。なんなんだろう。
「どしたの?」
「……ちょっと、違和感があってね。試したいことがある」
「えっ?」
叶はいつになく真剣な表情になってる。というか、もしかしてなにか異変に気がついてないのって俺だけなの?
リルちゃんと翔もなにか周りをキョロキョロと見だしたし…。
「少し大声出すから、耳塞いでて」
「えっ? えっ?」
「すぅ……」
叶はたっぷりと息を吸うと、それを全て吐き出すように叫ぶの。
「うわっ!! びっくりしたぁ!!!」
『うわっ! びっくりしたぁ!』
「えっ?」
叶がなんかびっくりしたとか叫びだしたとおもったら、小さめだけどその声が向こう側からも聞こえた。
……ああ、つまりそういうこと。
「カナタ君、私、向こう側探してくるよ」
「俺は向こうだな」
「……わ、私もあっち探してくる」
「有夢、光夫さんが逃げないように話を続けてて」
おっと、みんな一切に動きだしたぞ。やっぱり気づいてなかったのは俺だけだったか。本人は気がつきにくいってやつかもしれない。
「うん、みかねぇの言う通りにいちゃんは電話を続けてて。俺はそっちを探す。じゃあみんな、行こう」
叶のその言葉でそれぞれ走り出そうとした。走り出そうとしたのはいいんだけど、すぐに立ち止まることになる。
なぜなら。
「いやぁ…気がつかれたなら仕方ないですよね」
向こうの家の塀の影から、ピエロの姿をした光夫さんがでてきたから。真っ黒いコートのようなものを着てね。
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