第634話 時すでに

「「……っ!?」」



 とてつもなく怪しげに登場した……ロングハート君、もとい光夫さん。こんな夜に住宅街で黒いコート着てピエロの格好してるとか、恐怖以外の何物でもない。

 とっさに俺ら6人の中の男2人……翔と叶が俺を含めた4人をかばうように前に出るの。



「いやだなぁ、そんなに構えないでくださいよ」

「………なんで光夫さん、ここにいるんですか?」



 ニタニタと笑っているように見える光夫さんに、叶は物怖じせずにそう聞いた。



「なんで……でしょうかね?」

「偶然なんてことはないは。 何が目的でここにいるのですか?」



 加えて翔も。

 おおいいぞ、二人ともかっこいい。



「目的ですか?」

「そう…色々、いや、聞きたいことしか見当たりませんけどね、まずはそれですよ」



 未だに二人は俺たちを庇うように前に出たままだ。

 ……光夫さんの怪しさはマックスだ。とてもじゃないけど正気に見えない。



「そうですね、貴方方に会いに来た…ではダメですか?」

「俺たちが今なにをしようとしてるか知ってて、ですか?」



 叶は光夫さんを睨む。

 光夫さんは笑う、という表情を一切変更しないままだ。



「そこの、先ほど言っていた幻転地蔵に何かをしに来たのでしょう?」

「……はい、そうです。それで正解ですが……なんで貴方がこの場所を知っており、俺たちとこんなにもうまく会えたのですか?」

「神のお導きではないでしょうかぁ?」



 ピエロはあくまでおどける。

 なんなんだよもぉ…怪しすぎるんだよ。叶は一瞬だけこちらを向くと、俺らを確認してきた。そしてすぐに前を向きなおす。



「そうですか、神のお導きですか」

「ええ、ええ、そうですとも」

「……唐突ですがそのフードジャケットのフード被ってみてもらえません?」

「え?」



 なんの考えがあってか、叶は唐突にそうおねがいをし始める。うちの弟はなにをするつもりなんだ?

 


「これでいいですかね?」

「「「「…………っ!?」」」」



 ちがう、弟が何かするんじゃない、見破ったんだ。

 なんということだろう、光夫さんが……光夫さんが……。



「ここ最近で俺らをつけねらってたのは………光夫さんだったんですね」

「ご名答というやつだな」

「……えっ!?」



 桜ちゃんがそう小さく叫んだ通り、いきなり光夫さんの声が変わったの。でもどこかで聞いた声だ。



「まさかあの時のフードの男が貴方だったとは」

「驚いたか? 別れ際に言っただろう、もう一度会うことになるだろうとな。全員にそう伝えたはずだ」



 な、なんという事実……あの怪しい人の正体が光夫さんだったなんて。ていうか雰囲気変わりすぎ。

 さっきの道化の雰囲気から一転、今はなにか厳格な武士でも相手にしているかのようだ。



「……あんた、こんなに俺らに執拗にかまってきてなにがしてーんだ?」

「なにがしたい……か。それは少し答えられないな」



 ていうか光夫さんそもそもこんな口調じゃないでしょ。ピンチな時とか焦っとる時とかですら一人称は俺、口調は敬語を主体にしてたんだから。もう別人だよ別人。

 アナズムからここまでのことを計算ずくでずっと演技してたなんてことはないだろうしさ。

 ……ちょっと俺が質問変えようか。



「叶、ちょっとごめんね。俺がこの先やるよ」

「……わかった」



 叶はおとなしく引き下がってくれた。

 さて、と。



「ね、光夫さん」

「なんだ?」

「というかそもそも光夫さんじゃないよね? 光夫さん、俺と話すようになってから初めて連絡先やフルネームを知ったくらいだし、俺らの過去を知ってる風な言葉なんて言えるはずないもん」



 黒フードの男が妙に俺たちのことを懐かしんでいたことの芯をついてみた。あまりにも矛盾が多すぎるからね。



「そうか、となると叶の質問に私は少々正直に答えすぎてしまったみたいだな」

「うん……で、貴方は誰なの?」



 ここはスパッと単刀直入でいく。

 光夫さん(仮)はやれやれ、とでも言いたげに溜息をついたの。



「誰だと思う?」

「わからないから訊いてるんだよ」

「それもそうだ。となれば一つ、ヒントになるようなものを見せてやろう」



 そう言うと彼はカバンをなにやらごそごそとし始めたの。そうして最終的に取り出したのは……何か豪華な装飾がしてある金剛杵だった。

 いや、いやいや、どうみたってインドラの金剛杵だから。俺がもう一つの実物作ったからよくわかる。



「これを探して今日は全員集合しているとみたが、違うか?」

「そうです、そうですか…なんで持ってるんですか!?」

「普通に取り出したまでのこと」



 光夫さんが金剛杵を持っている。つまり……!

 もしかして、もしかしちゃうと、俺たちめちゃくちゃピンチなのではないだろうか。

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