第632話 諦めかけ

「……へ?」

「いや、少し考えればわかるよ、だってさ」



 叶の考えによれば、もう光夫さんが導者で確定らしい。

 まず100年前、これがそもそも光夫さんが眠っていた時期と同じになる。次に見世物上手…これはサーカスの芸だろうと、そんで最後にメフィラド王国へ行ったこと。もうこれで確信したらしい。

 ていうか、本当に叶の言う通りじゃん。

 なんで忘れてたんだろ。ラーマ国王からもらった情報をまとめようとなんてしてみなかった上に、その時は危機感なんて皆無だったからかな。


 俺だって叶ほどじゃないけど、IQだけなら平均より何十も高かったはずなんだ。そう、IQ高い人限定の組織に入れるくらいには。……アナズムで勉強をし始めるまで学校の成績が中の上程度だったのはゲームをしまくってて一切勉強しなかったからだよ。あほだね。



「数ある中でよりにもよって最悪のパターンだよ」

「だよな……。だって今……」

「この地域でのサーカスの公園期間中。よりにもよって今…ね。最悪としかいう他にないみたいだね……わふぅ」



 叶のさっきまでの空気が蔓延してしまった。ああ、そうだよ、最悪だもん。

 どうしてこうなったんだろ……えっと……よく考えたらほとんど俺のせいではないだろうか。ああ、そうじゃん、光夫さんを地球に返したのは俺だし、ラーマ国王の話をもっときちんと聞いていれば早めに色々対応できたかもしれないんだから。



「ごめんね、みんな。本当にごめん」

「あん? どうしたんだよ有夢」

「これ…俺のせいが大きいかもね。こんな最悪な事態になったの。……だってさ__________」



 俺は悪かったと思うところをみんなに謝った。

 軽率な行動がこんなことを招くんだ、本当に反省しなきゃいけない。



「……でも仕方ないよ、にいちゃん。もう過ぎたことだし、そもそも人の自慢話に近いものを真面目に聞くのも、同郷の人が帰りたがってるのを見捨てるのも普通はできないよ」

「ごめんなさい………」

「んもぅ…一人で背負い込もうとしなくていいのに」



 そう言うと、美花が頭を撫でてくれた。…暖かい。



「しかし……魔神が復活しちゃったら何もできないのはそのままだよ。魔法も使えないし、パンチだけで地面にクレーターを作れるような奥義も同じく無理だ。いくらか日常生活でもスキルは使えているとはいえ、それは普通の人から見たら超人である……そんな程度。魔神規模の化け物には通用しないよね。予測では復活する可能性は八割超えてる」



 八割超えてるだなんて考えても、誰も文句なんて言わないよ。だってそうだとしか考えられないからね。

 そんな中、翔が叶に質問をしてきたの。



「もしかしたら魔人も俺たちみたいに制限されてたりしないのか?」

「ああ、わからないですけどそうだったら人間の兵器でも、倒せそうですよね」

「でもそれ、ここで復活されちゃったら、ここら辺は爆撃地帯になるけどね」



 確かに魔神も力が制限されてる可能性は捨てきれないだろう。でも叶が真面目に考えないと言う点で、たぶん、それはないんじゃないかと思う。仮にも神様だしね、敵は。



「はぁ……どうしようか」

「ん……どうしよね」



 桜ちゃんは普段勝気な叶がすごい意気消沈してるのがまずいと思ったのか、ひたすら叶の手を握ったりだきついたりしてる。叶が独り言みたいな考察みたいなものをやめて、桜ちゃんと目を合わせた。



「もし、魔神が復活してもう死ぬのを待つしかないなんてことになったらさ、桜」

「ん、なによ?」

「結婚式あげない?」



 唐突のそんな告白に桜ちゃん……だけでなくみんなが驚いた。



「まだ私達14歳だし、無理じゃない?」

「いや、もう婚約済みの許嫁ってことにして役所で申請すればいけるはず」

「そ……そうなんだ……」



 しばらく考えてから桜ちゃんは結論を出したの。



「いいわよ。そうなったら最後だもん」

「やった、ありがと」

「ど、どうせなら……その、キスと添い寝以上のこともその時してあげるわっ……かにゃた好きだもん」



 あ、二人とも完全にラブラブモード、二人だけの世界に入っちゃった。こんな状況でもラブラブできるのはさすが俺たちだよね。



「……私たちもそうしよっか?」

「だね」



 美花がそう提案してきたから、俺もそう言っておく。実際、叶が結論づけた通りになったらそれが一番だと思うんだ。死んじゃうならほんとに好きな人と永遠に結ばれたよね。



「わふ……」

「そうだな、俺たちもな」



 結局全員そうするつもりになっちゃった、まあ、仕方ないよね。



「まあでも、俺たちはアナズムに逃げられるから、無いとは思うけどさ」



 あ、そういえばそうだった。

 じゃあ結婚式はできないね、残念。



「……と、まあ半分冗談はここまでにして。にいちゃん、光夫さんに至急連絡とってよ。この時間に公演してるだなんてこともないだろうし

「おっけ」


 

 なんだ、半分冗談だったのか。

 カナタがふざけたら、そのおふざけが本気にしか見えないことあるからなぁ…。

 いいや、とにかく今は光夫さんに連絡しなきゃね。

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