第604話 柔道大会 (翔)
「よし、まずは団体戦だ!」
ついに本番が来たぜ。インターハイ団体戦だ!
ちなみに明日が個人戦な。
団体戦のルールは五人チームを組み、対戦。先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の順で戦ってゆく。負けたら脱落し、勝ったらその場に残る勝ち抜け。
んで、総合的に黒星の少ないチームが勝ちだ。
大将が一人で全滅させ逆転なんてこともあり得てしまう。気が抜けねーよ
「俺たちの仕事はとにかく部長への負担を減らすこと!」
「なんならそのまま全勝してもいい!」
ははは、と笑い声が起こる。
…誰も緊張はしてねーみてーだな。前の先輩方…三年生がいなくなって、俺達二年四人と、かなり優秀だった一年一人で形成されたチームだ。
剛田に俺がつきっきりで練習相手をした結果、たった1日で本人でも驚くくらい上達したらしいからな。
ゴリセンに言われてそのあと団体戦にでる部員にも同じことやらされたぜ。
ほとんど一年は相手にしてあげられなくて申し訳なかったがな。
「ゆくぞっ!」
「「「おおおおおお!」」」
昔ながらの円陣を組む。
紅一点のリルは俺とゴリセンの間に挟まれてるぞ。応援を頑張ってくれるらしい。
円陣が解かれ、待合室で各々待機し始めた。
ちなみに大将は俺だ。副将が剛田。
先鋒が一年で、次鋒と中堅は残り二人の二年の実力が均衡してるから本人らの希望の方に入れた。
……先鋒の一年、星野は『俺一人で全員倒しちゃいますよ! 先輩方の活躍とってやります、ふふふ』なんて言ってたし期待しようと思う。
事実、おととい練習を付き合ってやったら相当実力がついてたからな。
「ショー、頑張ってね! …地区大会だから安心してるけど、慢心はしないように!」
「おう、リル。…ありがとな」
リルは昨日、どこで覚えたのやら…多分アナズムなんだろうが、いつの間にかプロレベルの整体をマスターしちまってた。最後の練習が終わり、帰ってからマッサージしてくれたんだ。
細い手で一生懸命俺の身体をほぐしてくれたぜ。可愛かった。めっちゃ可愛かった。
……途中でその、処方とは関係ない場所というか、触らせてもらったというか、色々と色々な意味でのマッサージもしてもらったが、それは彼氏彼女関係だからできることだろう。
つくづく俺はいい彼女を持ったものだ。
幸せだな。
「……キスいる?」
「…家じゃねーから口同士はやめとけ」
「わふん、わかったよ!」
そう言うとリルは俺に抱きつきながら頬にキスをして来た。俄然やる気がでるぜ!
……まあもしかしたら今日は俺の出番はないかもしれねーけど。俺抜きでもこの地区最強とか言われてるし。
「ったく、マジで羨ましいな! 羨まし過ぎだろお前」
「どうせ、どぉぉせ、昨日も家でイチャついたんだろ? 俺にはわかる」
同期、そして今回の次鋒と中堅の二山と中川がそう言って来た。こいつら俺とリルが話してる時、かなりの確率でいつも俺のことを羨ましいと言ってくる。
「……だ、だって、私、ショーの彼女で…」
「ウギギギギギギ」
「グヌヌヌヌヌヌ」
今にも血涙でも流しそうな勢いだ。そういやこの二人は親友同士で、さらに二人とも女子との交際経験はないんだったな。
……交際経験は俺もリルと付き合うまで無かったんだが、二人はその時点でも、モテるから羨ましいとか言ってきやがった。よくわからない二人だ。
「とにかく、二山くん、頑張って!」
「は、はい…!」
リルは二山の手を両手で包み込むように握った。二山は顔を赤くし、黙ってしまう。
「中川くんも、ね?」
「う、うっす!」
二山と同じことを中川にもリルはやった。リルはいつの間に手を握るだけで男を落とせるようになったんだ。
「星野くん、期待してるよ、頑張ってね?」
「ふ、ふぁい! ひゃんばります!」
そのままの足取りでリルは星野のもとまで行き、手を握る。それにしても星野くん、上がりすぎだろ。
リルが可愛いからだな。
「剛田くん、ショーを支えてあげてね」
「まかせろ」
最後に剛田。あいつ、顔には出してないけど、内心では中川達と同じ反応してると思うぞ。
リルはそのあと、『みんなも頑張って応援しようね!』とエールを送ると、俺の元に戻ってきた。
「リル、お前いつのまにあんな有夢みたいなことができるようになったんだ?」
「わふえ? 私はただ頑張れって応援しただけだよ? アリムちゃんと何か似てた?」
「いや、ならいいんだが」
そうか、天然でやってたのか今の。
こいつにも天性のアイドル性というものが備わってるんだろうな。…ふん、しかし俺の大事な彼女だ。
有夢みたいなおおごとにはなるまい。
「さっきも言ったけど、頑張ってね! 私、数ヶ月だけだけどずっとショーの頑張ってる姿みてきたから、きっと行けるはずだよ!」
「ああ、リルが応援してくれるから100人力だぜ」
思わずリルの頭を撫でた。
さて、頑張っちまうか! 例年通り全国まで行って、優勝してやるぜ!
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