第520話 ゲームセンターデート (翔)

「わふーんわふーん」



 リルはご機嫌がいい。

 どうやら2件目のデパートの中に入っていたゲームセンターを気に入ったみたいだ。



【パーフェクト!】



 リルがやっていたガンシューティングゲームからそんな声が聞こえてくる。どうやら"また"敵に全弾命中させて勝ったようだな。さっきからこればっかりだ。



「ふぅ! ゲームは楽しいね!」

「リル、そういうの得意だったんだな」

「ま今日初めてやったんだけどね。案外いけたよ」



 今日初めてで好成績出しまくり…やっぱり獣人だから反射神経と動体視力がめちゃくちゃいいんだろうか。



「んー、ここはもういいかな。次はあの太鼓の音楽ゲーム一緒にするかい? 2人までできるんだね」

「おう!」



 このゲーム実は苦手だが、楽しさで満面の笑みを浮かべている可愛らしい彼女からの頼みは聞かなければならない。当然結果は__________



【フルコンボだドゥン!】



 俺の惨敗。それどころかリルがノーミスを出していた。

 なんかさっきからすごいぞリル。



「いやー楽しいね!」

「そうか。また今度の日曜日にでもここにくるか?」

「そうだね!」



 よし、地球での来週のデートの約束とその内容が決まったぜ。



「次はあれやってみるよ! クレーンゲーム!」



 はしゃぐ子供のように、次のゲームに目移りしている。

 今度はクレーンゲームに目をつけたか。



「あー、あまり金を使いすぎないようにな」

「努力するけれど、危ないと思ったところで止めて欲しい」



 自分でも制御効かないかもしれないことがわかってるのか、リルがそんなこというなんて珍しい。それほどクレーンゲームの魔力は高い。

 1000円札を両替機で100円玉に崩したリルはどうやらそれを全額つぎ込むつもりみてーだ。

 1000円以上行きそうだったら注意しちまおう。

 リルは早速プレイ。



「あ、とれた」

「えっ」


 

 100円で1プレイできる人形が置いてある台で、リルは巨大な部類に入るであろう景品を1発で取ってしまった。

 なんだそれ…嘘だろ。



「どうしよこれ」



 出て着たヒヨコの巨大人形を抱えながらリルは困惑の表情を浮かべる。確かに取れたことはすごいがな。



「と、とりあえず持って帰って抱き枕代わりにでもしたらどうだ?」

「うーん…まあそれが無難か」



 そのあと店員さんから袋をもらってそこに入れた。

 荷物がかさばる…まあ思い出の品としてはいいのかもしれないが。



「……ショー、また取れたんだけど…」



 申し訳なさそうにリルはそう言った。

 俺が袋をもらっている間にリルはまたクレーンゲームをしたのか、手にコンビニで買ったら300円近くもするアイスクリームを片手に一つずつ持っている。



「ちなみにそれ何回やった?」

「2プレイ100円のこのアイスばっかり入ってるやつで、ちょうど2プレイで取れたんだ」



 300円のアイスを100円で二個か、やっぱりすごいな。

 どうしてそんなにホイホイ取れるんだか。



「食べよ? 私のおごりだよ!」



 得意げな顔をしながらチョコレート味のアイスと木の匙を差し出してくる。ありがたく受け取った。

 2人で隣同士に椅子に座ってそのアイスを食べた。



「美味しいね。1個50円だと思うと特に」

「そうだな」

「これ食べ終わったらお昼ご飯食べようよ」

「そうしような」



 せっかく1000円崩したのに200円使っちまって飽きたのか。まああれだけとれれば仕方ないか。

 アイスを食べ終わったら片手にヒヨコ入りの袋を持ち、もう片手ではリルの手を握る。

 そのままの状態で、この2件目のデパート内のレストランの一つに入った。

 日曜日のデパートのお昼時となれば並ぶ時間も長かったが、まあそこはあまり気にしない。

 席に案内され、メニューに目を通しているその時に、リルにこう提案してみた。



「……好きなの選べよ。俺が払う」

「ふえっ!?」



 リルは驚いた表情でこちらを見る。

 


「い、いや悪いよ…」

「いいじゃないか払わせてくれよ昼飯くらい。デートなんだしよ…」



 なんかこう、リルを喜ばせるためではなく、デートをしている男の立場としてやってみたかったんだ。

 しかしリルはまだ断るだろうが___________



「じゃあお願いしようかな」



 リルはなんだか嬉しそうに微笑みながらそう言った。

 俺の予想と全然違う。い、いやそれで良いんだけど。



「おう、任せとけ」

「ふふ…ありがと」



 なぜだかリルが俺を、微笑ましいものであるように見つめている。

 もしかして……俺がカッコつけて払いたいことを察せられたのか? リルは頭いいし、きっとそうなのかもしれない。もしかしたら逆に気を使わせちまったのかもな。



「じゃあ私、このチキンのトマトソース仕立てにしようかな」

「お、おう。じゃあ俺はローストビーフにするぜ」



 細かいことは気にしないとして。

 メニューを決めて店員を呼び、オーダーをした。

 ……こういう店で2人きりで食事なんて、なんかマジで優雅だな。大人っぽいぜ。

 

 

 

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