第519話 地球でのデート (翔)
「どう? ショーにあってる?」
リルが俺の部屋にやってきて服をヒラヒラと見せてきた。青白の髪の毛によく似合っている。
もちろん赤ずきんはつけているんだぜ。
「ああ。か…可愛い」
「わふん、もー可愛いだなんてそんなっ。ショーだってかっこいいよ」
そうだろう…そうだろうな、そうでなくては困る。
俺が今日着ている服は、少しカッコつけているというか、地球にある出かける服の中では一番良いものだからだ。
リルとのデート。
しっかりと楽しませなくてはならねーぞ。
「そ、そうか。ありがとな」
「うん! じゃ、行こうか!」
俺とリルは外に出た。
学校に一緒に行く時とはまた違う、特別な感じがする。
あ、そうだ。
「リル…手」
「………うん!」
いつもリルから手を握ろうとしてくるからな、今日くらいは俺からな。相変わらず華奢だ。
ちょっと力を込めれば折れちゃいそうな気がする。
とにかく手をつないだまま俺達は歩き出した。
「今日はどこ行くんだっけ?」
「とりあえずここら地域を見て回ろうかと思ってな」
「なるほど」
無理やり理由をつけるとするなら、リルに街を覚えてもらうため。
しかし、本当の理由は俺がなかなかデート方法を思いつかなかったためだ。ただ単に街をぶらぶらしようと思う。
……このままじゃダメだな、今度ちゃんとしたデートの計画をしなきゃな。わりとマジで。
「それで、どこに行くんだい?」
「ま、いつもみてーに地下鉄乗って、中央までいくんだ。中央は色々あるからな」
「そっか」
手をつないだまま駅に着いた俺達は電車に乗り、この街の中央へ。ここならなにか見つかるだろう、なんて浅はかな考えだが……実際に来てみるとそれがとても有効に思えてくる。
駅の中の時点でデパートとつながっていたり、食べ物屋や服屋が充実していたり。
「こういう人通りの多いところは疲れやすいけどわくわくするよね」
「そうだな。とりあえずそのデパートに入ってみるか」
「うん」
テキトーなデパートの地下入り口に入ってみる。
正直雰囲気ありまくりだ。何度も入ったことがある気がするが、デートとなるとこうも違うものなのか。
リルが何かに気がついたのか、掲示板ボードらしきものを指差した。
「ショー! ここ今、5階で水墨画展やってるって!」
なんだと!?
そういう展覧会みたいなのはデートスポットとしては合格じゃないだろうか。俺は運がいい。
「じゃあ行くか!」
「わふん!」
_____
___
_
「炭だけで表現するんだからすごいよね。私も真・美術のスキルを手に入れて水墨画を描いてみようかな」
30分ほどで見終わってしまった…どうしよう。
それによく見てみたらカップルって俺たちだけだったらしな。
……お互いの趣味が日本画であるわけでもないのに、デートに水墨画は映えないとなぜ思わなかったのか。リル本人が楽しんでるからいいものの…これが他の女の子なら_____いや、リル以外の女の子のことなんて考えられないな。やっぱこれで良かったか。
「ショーどうしたんだい? 難しい顔してるけど」
リルが俺の顔を覗き込んできた。
「いや、ちょっとな。…他の階層の服屋とかみてみるか」
「そうだね。買う気は無いけどみるだけでも楽しいもんね」
にっこりと笑ってそう同調してくれる。
つまらなくないのだろうか、不平不満を言わないリルが天使に見えてくる。
やっぱり俺とデートしてること自体が楽しいってやつか? 照れるな。
とりあえず俺とリルは3階まで降りた。ここ含めて4階までずっといろんなブランドやメーカの服屋がずらりと並んでいる。
服なんて近くの大型服屋でひょいひょいっと好きな色や似合いそうな色のものを選んで買ってるだけだからな…慣れないなこういうところも。
「ん…あ、水着の安売りしてる」
何を見つけたのかリルはある店のワゴンに向かってかけて行った。宣言通りそこには季節外れになった女物の水着がどっさりと。
正直、男である俺は目をやりづらい。
「かわいいなぁ…これ。試着してみようかな」
そう言いながらワゴンの中から取り出したのは水色のビキニ。
リルもこういうの着るのか意外…いや、アナズムでも毎回、事の前に際どい下着を着てるしそうでもないか。
だ、だめだ。外でそういう事思い出したら大抵恥をかく。別のこと考えなきゃな……。
「ショー、試着しようと考えたけど流石に今日はやめとくよ。……ショー?」
リルは再び俺の顔を覗き込んだ。
しまった。何言ってたのかわからねー……とりあえず試着をやめたってことでいいのか。
「えっ、あ、ああそうだな。それがいいと思う」
「わふん、やっぱりそうだよね。じゃあ次の店行こうか」
リルは俺の手を握り直す。
俺もそれを握り直す。
そういえばリルの水着の試着を促してれば、リルのことだから試着後の様子を見せてくれたんじゃ………や、考えるのやめておこう。
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