第501話 勉強とデートと (叶・桜)

「……ふう…教員免許取得に必要な勉強はこの程度でいいかな」



 カナタはシャープペンシルを机に置いて、背筋を伸ばした。



「さて次は…」

「ね、待って」

「なぁに、桜?」



 新しい教材を、アリムから貰ったなんでもアイテムを作成できるアイテムで作り出そうとしたところを、カナタは桜に止められる。



「あ、あのさ。勉強しすぎじゃない? ここにこもって」

「ん…んー、そうかな?」

「そうよ。一旦アナズムに戻ってきてから叶、ずっと勉強してるじゃない」

「桜も一緒にしたでしょ?」

「そりゃあ最初のうち…うちの学校の高等部卒業に必要な分はね。それでも、ただでさえ私達中等部だから、やりすぎなくらいなのに」



 サクラは大きなため息をついた。



「叶って何かにハマるとそれにのめり込む癖があるけど、まさか勉強にハマるとこうなるなんて…1日中マジックルームにこもって次から次へと」

「勉強してるって言うよりは、記憶を詰め込んでるだけだよ」

「それを勉強っていうのよ。今までは授業を聞いてただけで学年トップレベルの点数取れてたものね。私と一緒に勉強するときも、勉強するというよりは私に教えてくれるって感じだったし」



 やれやれ、と言いたげにサクラは肩をすぼめる。

 そんなサクラの顔を見ても、カナタは首をかしげるだけ。



「ね、そろそろ休まない?」

「まあ確かにそろそろ休んでもいいかも…そうしよっかな」



 カナタは机に手をつき、あぐらを解いてから立ち上がる。瞬間、バランスを崩した。



「おっ……」

「あっ…ぶないわね」

「ふふ、ありがと」


 

 そんなカナタの身体をサクラは慌てて受け止める。



「ずっと座ってるからよ」

「はははー、そうだね……ッ!?」



 にこりと笑ってサクラに返答したカナタが唐突に自分の利き手の指を抑えた。



「どうしたの!?」

「あ……いやちょっとね」

「みせて」



 サクラは無理やりカナタの手を取り、痛がっている利き手を診た。過度に発達したペンだこにより酷い有様になっている。



「んと…気をつけてよね…」

「ごめんね」



 サクラはカナタの手を取ったまま、カナタに回復魔法を掛ける。一瞬にしてカナタの身体の不調は消え去った。

 そのまま手をつないだまま二人は勉強専用のマジックルームを出る。



「休むって言ってもどうしようかなぁ…」

「寝れば良いじゃない。最近ろくに寝てもいないでしょ?」



 サクラのその提案に、カナタは頭を悩ませる。



「んー、でもなぁ…」

「なによ私の顔チラチラ見て…か、構って欲しいんだったら…一緒にそ、添い寝しようか?」



 顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、サクラは提案をした。カナタはそんなサクラの顔を、優しい表情でじっと見つめる。



「ど、どうするの?」

「んー、お願いできるかなーって」

「いいよっ…!」



 それから二人は別々の個室で寝巻きに着替え、ダブルベッドに潜り込む。間髪入れずにサクラはカナタに抱きついた。



「昼間から一緒に寝るのって初めてだよね」

「そういえばそうかも」



 サクラは抱きついたままコクリと頷く。



「……サクラってさ、寝る時に抱きつくのは恥ずかしがらないよね」

「えっ…!? あ…ああ…!」



 サクラは目を見開いて驚き、そして顔を赤くする。

 しかしカナタには抱きついたまま。



「あぅ…そ、添い寝だからかな?」

「なにそれ」

「そ、そういうカニゃたはどうなのよ! もう恥ずかしくなくなったの?」

「いや、まだドキドキするよ。ただ寝れるぐらいには慣れただけ」



 そう言いながらカナタはサクラの頭を撫でる。



「ふぅん…。まあいいや。寝よ?」

「もう少しお話できない?」

「……カナタがそうしたいなら付き合う」



 二人は顔を間近に向き合わせながら互いに話をし始めた。



「……今度こそデート行きたいね」

「そうね。水族館に連れてってくれるんだけっけ? …研究機関の私の目に対する調査、来週は無いから……その時に行けると思う」



 サクラがカナタにそう告げると、カナタは至極嬉しそうな表情を浮かべる。



「そんなに私とのデート嬉しい?」

「うんっ。サクラは?」

「私も……嬉しいって言うより楽しみかな」



 サクラもカナタに合わせるようににっこりと微笑んだ。

 


「今考えてることとしては…朝早めに出て、デパートで買い物のして、それから水族館に行くって感じかな」

「プログラムはいいの。とにかく私は楽しみにしてるっ! お出かけじゃなくてデートなんだもんね」



 二人は今まで、二人っきりでどこかに出掛けるという行為はよくしていた。

 あくまで二人の認識はデートでは無いが、周囲はそう認識していたことは言うまでも無い。



「…ふぁぁ……そろそろ寝よっか」

「眠くなっちゃったの? うん、そうしよ」



 二人は部屋を豆電がついているだけの状態にし、互いに抱き合って眠りについた。

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