第468話 運命に感謝を (翔)

「こんな…こんなすばらしいことってあるかい!?」



 気持ちはわかる。

 俺は抱きついてきてるリルの頭をまた撫でた。



「私が…つまり私が、ショーが言っていたその申し込みの女の子だったわけだろう!? つまり、そう言うことなんだろう!?」

「そう言うことだ。今日か明後日にでも、母さんと親父は申し込みをするつもりだぜ。俺からも戻ったら説明しておく」



 リルはまたしばらく泣いた後、俺から離れ、涙を拭う。

 そして頬にも滴ってる拭いきれてない涙を、俺が指ですくってやるとリルはにこっと微笑んだ。

 ああ、可愛い。



「これは運命に感謝しなくちゃ…ううん、もしかしたらメッセージの神様とかいう方が仕組んでくれたのかな」

「そうなのかもしれねーな」

「ふふ。ショーと一緒に居られる…! ホームステイ先の家は私が望めば選ばせてくれるらしいからね。絶対に行くよ。"火野さん"で合ってたかな?」



 おお、合ってる。

 そういや何回か向こうの世界で出会ってることになってるんだったかな。

 俺は外国人の女性を日本で助けた覚えは…2回くらいしかないけれど、その中にリル・フエンなんて子は居なかったから、きっと辻褄合わせなんだろうが。



「あと…ショー。今ちょっと思い立ったんだけどね」

「ん、なんだ?」

「私、こっちの世界での生い立ちを向こうの世界で、ショーの両親とショーの前で話そうと思うんだ」

「…………そうか」



 リルは悩んだ末に考え出したようだ。

 ちょっと緊張してる面持ちだな。

 今まではなしがってなかったもんな。



「それで、その、醜い私を聞いて…うん、側から思い返してみてもひどいし…もし私のことを嫌いになって……い、いやもしかしたら向こうの世界まで張りつかれたくないとか…」

「ねぇーよ。全部ないから安心しろよ。す、好き…い、いや大好きだって、い、言ってんだろ!」



 噛んじまったが気にしない。

 ……本当は漫画のなんかの彼氏役とかみたいにかっこよく言いたかったがそうはいかないか。

 同時に俺はリルを強く抱きしめた。



「わふぅ…ありがと。ショーが嫌にならない限り一生付いてくよっ! 私からショーへの恋心は、記憶と今と兼ね合わせて2倍になってるんだよ」

「お、おう」



 逆にリルが俺のこと見限ったりなんてしないだろうか。

 い、いやここまで惚れてくれてるんだったらないだろうな。好感度2倍とか言ってたし、それで泣いて抱きついてきたりしたんだろうし。嬉しいぜまったく!



「わふ、それにしてもショーと向こうで会えるまでに最短でも数週間はあるよね」

「まあな」

「わふー、ショーが絶対に恋しくなるよ。こっちに戻ってくればいつでも会えるけど。それに日本文化も楽しみたいな。私にとって全てが記憶だけだからね。写真や動画を見せられてるようなものさ。ラーメンとか食べたい」

「お、おう」



 まさかリルの口から「写真」と「動画」という単語が出てくるなんて思いもしなかった。

 やっぱり記憶が入ってきてるんだな。

 色々と話しやすくなったぞ。共通の話題がなくて、よく会話に詰まってたんだ。

 恋人同士としてされはダメだもんな。



「それだけでなくとも、地球もこの世界とはまた違った方向で発達してるんだね、と、記憶が入ってきて色々とわかったんだ。アナズムと地球の利便性的相違点を考えるのも面白いね」

「そ、そうだな」



 もしかして、やっぱり頭いいのかリルは。てか、良いんだな。

 ホームステイ先を探すプリントに頭が良いってガッチリと書かれるくらい頭いいんだもんな。



「あとね、ショー。私、そのほかにも色々とわかったよ。心理学、生理学など地球が圧倒的に上をいってるよね」

「おう、まあな」

「そう、前から少し……気になってたんだ」



 俺が問い返そうと口を開く前にリルは自分の胸に手を当て、顔をうつ向かせる。

 な、なんなんだよ!?



「私の胸がショーの好きな"巨乳"というものに該当するかどうかなんだけどね」

「あ、ああ!?」

「どうやら私は該当するみたいだね。ショー好みみたい…えへへ、嬉しいなぁ。でねっ」



 リルは俺の顔と自分の胸を交互に見てから、何時ぞやの時みたいに、自分の服に手をかけ一気に脱いで__________!



「あと…その、ショーの目線も…その、あれだよね。たびたび胸の方にいってるよね…? ぁぅ、思い過ごしだったらごめんなさい。ふわぁ……ぅ」



 いつもより顔を真っ赤にして胸を見せてきている(?)リル。……目線、バレてたのか。

 俺は、床に正座をし、そのまま土下座した。

 


「すいませんでしたぁぁぁぁっ!!」

「わ、わふぅ!? な、なんでなんだい? わ、私の身体はショーに全部捧げてるんだ! 気にしなくていいんだよ! その、私が言ってるのは好きなら、私のこと好きにしてい欲しいってことなんだけど……あ、あの、地球のモラルも記憶に入っている私としては恥ずかしいから早く答え欲しいな…なんて」

「わかった。とりあえず頭が働かないし、また今度にしてくれ」

「う、うん」


 

 思わずかなり冷静に言い放ってしまったぞ。

 地球のモラルを覚えたとしても、リルの俺に対するこういう態度が変わらないって…やっぱり相当好かれてるんだな。俺は。

 なんか変なとこでリルからの愛情を再確認しちまった。



「わふん、逆に私がショーの……ふわぁ」

「おいリル、さっきから気になってたんだが、相当眠いんじゃないか?」



 服を着なおし、俺に何かを告白しようとする前にあくびをしたリルにそう言ってみる。



「わふん、バレちゃったかい? きっと記憶が一気に流れ込んできてしまったせいだと思うんだ……」

「なら寝てろよ。その間にアリムたちにリルに何があったかを伝えてくっから」



 リルは、俺の顔と自分の胸とを見比べた後、答えを出した。



「なら、そうしてくれるかい? おやすみ」

「おう、おやすみな」



 俺はリルがベッドに行ってよこになったのを確認すると、逃げるようにこの部屋から出て行き、アリムたちのもとへもどった。


 

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