第467話 地球のリル (翔)

 ___________俺とリルは、俺らの部屋へと戻ってきた。



「大丈夫か?」



 リルは泣きじゃくったまま、激しめに首を頷かせた。

 俺は背中をさすってやる。



「なにかあったのか? 1時間の間に」

「ううん。…ヒグッ…違うんだゃ。あのにぇ…ただ、ショーにあえたのが嬉しくて」


 

 俺に会えたのが嬉しくて泣いてるだと?

 1時間合わなかったくらいでこんなになるほどリルは俺に依存してただろうか。

 いや…そこまで重症じゃあなかったはずだ。



「1時間前までずっと一緒だっただろうに」

「そ、しょれはそうなんだけど…。でも違うんだょ! な、なんてせせ、せつめいしたらいいのかなっ…?」



 なにかを一生懸命に伝えようとしてるが、泣きすぎてしゃくりあげてるためかうまく話せねーみてーだな。



「とりあえず…落ち着くまで待つから、落ち着いたら話せよな」

「うん。え、えっと…ショー。迷わ_____」

「いいって。部屋の中なんだし好きにしろよ」

「わふん!」



 リルが手を広げて上目遣いでこちらを見てきていたから、大体なにをしたいかを察した俺はみなまで言う前にそれを許可しちまった。

 案の定、リルは俺に抱きつく。

 いつものように胸が……なんて言ってる場合じゃないんだがな。ま、仕方ないよな。



「すきだよっ…」

「俺もだ」


 

 5分経ってからリルは泣き止み、抱きついたまま顔を上げて俺の方を見て来た。

 目が充血しているが、いつになく捨てられた子犬みたいな表情を浮かべている。



「ぁぅあ…あ、ありがとぅ。えっと…えっと、もし地球で会えたら、わた_____」

「勿論、この関係はそのままだぜ」

「わふん!」



 なんだか最近、リルの言う言葉が予測できるようにでもなってきたのだろうか。

 リルは本当に嬉しそうににっこり笑いながら、もう一度強く抱きつき直してきた。俺はリルの頭を撫でてやる。

 尻尾もちぎれそうなほど左右に触れていた。

 


「…ん。落ち着いたよ」



 リルは満足したのかそう言った。



「そうか。ならなにがあったか話してくれるか?」

「うん。話すよ」


 

 リルは俺に抱きつくのをやめ、普通に座り直す。

 


「まず…どうやら私は元々から地球に住んでいた人間ってことになっている」

「そうか」



 まあ、そうなる可能性が高かったしな。

 アリムみたいにいきなりこの世界にやってきて、対した苦もなく町に住まわせてもらうとか、地球では難易度が高すぎるからな。



「名前はこのままリル・フエン。16歳だよ」

「性別は?」

「せ、性別? 女だよ」



 リルが不思議そうな顔をするが、アリムみたいな例もあるしな。

 俺の彼女はどうやらちゃんと女の子のままのようだ。



「それで…地球に行った途端、私は神様…で、いいのかな。その人からメッセージで話を聞かされたんだ」



 それは俺達と同じなんだな。

 やっぱり神様っているもんなのか。



「なんでも、私に記憶を注入するって。地球で暮らして行くにあたって個人の歴史は大切だから用意するって言われたんだ。そしたら私の中に作られた歴史が入ってきたよ」

「そ、そうなのか」



 人の歴史を作るってそんなに簡単にできることなのだろうか。いや、神様なんだから簡単にできるんだろーけど。



「で、どんな過去だったんだ?」

「んーとね_________________」



_________

_______

___



 およそ50分後、リルの偽装の過去を教えてもらった。

 なんでもリルは…孤児なんだと。

 俺らの顔の特徴から日本人ってことももうわかるほどの知識はすでに得ており、リルの居たその孤児院は日本とは全く違った場所にあるらしい。

 というのも、その場所にいた他の子供や面倒を見ていた大人の多くが金髪白肌で青眼だったのだそうだ。


 また、リルは日本が好きであるという設定で、日本のことをかなり勉強してるらしい。

 外国人として転送されてきたのに、もうそれなりに日本語も扱えるのだとか。

 

 そして日本が好きになった理由、それが俺。

 ひょんなことで日本に旅行に来た時に、俺に助けられたんだとか。しかも1度ならず2度も。


 それで完全に俺に惚れて(この話をする時はリルは顔を赤らめていた)、日本に移住する決意をしているのだと。

 だから、こっちに戻って来た時に、俺と会えたこと、そして俺とあ…愛し合ってる…ことが嬉しく感じて大泣きしてしまったんだそうだ。

 

 とまぁ、大事なことだけまとめたらこんな感じだ。

 本当だったらその孤児院がどんなのだとか、その外国での学校でどう過ごして来たのだとかも細かく聞かされたんだがな。

 


「わふん、以上だよ」



 リルは眠たそうに目をこすりながらそう言う。



「そっか。……ところでリル」

「わふ…なんだい?」



 リルは俺と国が違うということしか話さず、どの国にいるかを言わなかったからここで訊いてみる。



「そのリルの出身国って…どこなんだ?」

「え、ああ。ずっと外国って言ってしまってたね。私としては日本に来るものだとばっかり思ってたから。…ノルウェーって国だよ」

「…え!?」



 の、ノルウェー…。

 い、いやなんかそんな気がしてたんだ。まさかだとは思う。でも孤児で…日本語が喋れて…ノルウェー出身の16歳の女の子つったら……!!



「り、リル!」



 俺は思わずリルの肩を掴んだ。



「わふん!? なんだい!?」

「リルお前、『海外孤児日本滞在のためのホームステイ』っつーのを申し込んでないか!?」



 そう叫ぶと、リルは目をパチクリさせてから答える。



「わふん、確かに申し込んでるけど、なんでショーがそれを知ってるんだい?」

「いや…それはな…。今、母さん達とノルウェーから来る女の子をうちで引き取るかどうかの話し合いを______」



 言い切る前に、リルは俺に強く抱きついて来た。

 また泣いている。

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