閑話 城の者達
「むむむぅ…」
「どうしたんだ、カルアよ」
メフィラド王国国王は、むんずけている娘に声をかけた。
「いえ…その、明日の星の夜のことなのですが…」
「ああ、アリムのことか? 仕方ないだろう。あの子は忙しいのだ」
「その、それは私も十分承知してるんです、お父様。その後のアリムちゃんとの約束に悩んでるんです」
「ふむ」
国王は長椅子に座った。
カルアもその隣に座る。
「何を悩んでおるのだ? その鍛錬とやらの最中に魔物に襲われることか? それなら心配ないだろう。アリムとミカと居るのは今やこの世界でもっとも安全だと言える」
「ち、違うのです、お父様! その…アリムちゃんとの鍛錬でこの街の外に出るのでしょう? ちょっと緊張してしまいまして。それなりに後のことであるとはわかっているのですが……」
なるほど、と国王は考える。
そういえばカルアはあまり外に出たことがなかったと。
身内以外で気軽に話せる者は仲間の娘達か、アリムとミカ…最近はローズという友達もできてはいた。
今や十分に友達は居るだろうと言えるカルアだが、ほんの数ヶ月前までは、貴族の娘達という腹を探り合ううわべだけの仲が居ただけだ。
ゆえに、アリム達の存在もカルアにとっては今でも新鮮であると言える。
そんな外交の少ないカルアが、外に出て、友と共に鍛錬をするとなると、たしかにすごいことではないだろうか。
「なに、心配する必要はない。先程も言った通り、アリムとミカがついている。それに、ワシやルインだって冒険生活をしていただろう?」
「……はい! そうですね、お父様!」
カルアの顔はパッと明るくなり、笑顔を浮かべた。
国王はホッとするが、ふと、今居る部屋の外を見てると、自分の息子と団長の息子が、なにやらコソコソしてるのが眼に映る。
不審に思ったが、すぐになぜあの二人が怪しげな行動を取っているかわかった国王は、温かい目でその二人の恋を見届けることにした。
「いい? オルゴ…ついに明日だ」
「ああ、ついに明日だな」
この城であまり使われていない部屋に二人で入り、なにやら相談事をしている少年が二人。
一方はメフィラド王国の第2王子、ルイン。
もう一方はメフィラド王国国軍騎士団総団長の一人息子、オルゴ。
「……告白は…初めての体験だからね」
「うむ、だが恋愛に関する書物は十分に読んだから大丈夫だとは思うが…」
そう、この二人は星が数多流れる日、意中の相手に告白しようと企てていたのである。
ルインは大臣の娘のリロに。
オルゴは大司教の娘のミュリに。
4人が4人で同時期に生まれ、幼馴染として育ってきた彼らも、もう18歳。
社会見学としょうし、父親達の昔の名を借りてパーティを作り冒険をしたり、色々行なっている間に積もり積もった恋愛感情は、そろそろ解き放たれようとしていた。
「僕が…西側屋上で…」
「俺が、東側屋上だな」
この城の地図を広げながら、二人はそんなことを相談する。
「……ルインはリロになんというつもりなんだ?」
「その…まあ、率直にずっと好きだったって。……オルゴは?」
「お、俺もそうだな」
様々な恋愛に関する本を読んだ二人の答えは、シンプルに行くことであった。
実際は、リロもルインに、ミュリもオルゴに恋愛感情を持っているため、どんな告白をしようともOKされるのだが、そのことは二人にはわからない。
「あ、あとはどうすればいいんだろ? 指輪でも渡す?」
「い、いやいや、それは早いだろう。それは結婚したいときに渡すのだと書いてあったぞ」
「そうだったね。あああ…緊張する。お父様もお母様に告白するとき、こんな感じだったんだろうか」
実際はSSSランクであるということや、国に多大な貢献をしたための結婚であり、国王と王妃の初めての告白は、付き合い始めたときはしておらず、プロポーズの時なのだが、二人はそんなことは知る由もない。
一方で、告白される予定でいる二人もまた、思い悩んでいた。
「……どうするべきだと思う? みんなで星を見るか…わ、私がルインを…ミュリがオルゴを屋上に呼びつけて、二人っきりで星を見るか」
「はわわ…わ、私は…その…どっちでも……」
なんとオルゴとルインが相談しあっている部屋の隣で相談している二人だったが、隣の部屋にいる者どうしは気がつかない。
「はぁ…。やっぱり、ルインと私じゃ…ねー」
「な、なんで? そんなことないと思います! リロちゃん可愛いし、体型も…」
「ちがう。見た目が良いか悪いかは置いといて、身分の方の話だよ。私なんかでいいのかなーって」
「えっ…だってリロはオラフルおじさん…大臣様の娘でしょう? 身分の差なんて相応程度にしかないと思いますよ?」
そう言われたリロはしばらく黙る。
「そーかなー…」
「そうですよ」
「でも、ルインってイケメンじゃない? いろんな貴族のご令嬢達に言い寄られてるもの…」
「な、ならリロも言いよったらいいじゃないですか!」
「うーん……。ラチがあかない。なんで二人っきりでみる前提の話になったのかしら? いいや、ミュリ、魔法の特訓でもしに行こっ」
「…は、はい」
リロとミュリは部屋を出た。
それと同時に、隣の部屋からルインとオルゴが出てきた。
「「「「え!?」」」」
4人同時の驚愕の声が発せられる。
しばらく固まっていた4人だが________一番最初に行動したのはオルゴだった。
「ち…ちょうどよかった。ちょっとミュリに話しておきたいことがあったのだ。…すまないが、ミュリ、時間をくれないか?」
「えっ…ええ? あ、は、はい、いいですよ!」
「と、とりあえずこっちだ」
オルゴとミュリは、どこかの部屋へと話し合うために向かった。
残ったルインとリロは見つめ合う。
先に声をあげたのはルインだった。
「ぼ、僕もオルゴと同じで、リロには、話があるんだよ。ちょっときてくれない?」
「う、うん」
リロはルインに連れられて、オルゴ達とは反対方向に進んだ。
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