第371話 感情の揺さぶり

「実はアムリタってのがあってね」



 俺は叶と桜ちゃんにアムリタの説明をした。

 スルトルが攻撃してきたけど、ミカが神弓で打ち消してくれたから問題ない。

 今はミカに戦闘を任せる事にしてる。



「ハァ!? なにそれ…。そんなのあるならもう、世間一般に広がってるんじゃ…」

「うん。でも文献も俺も1冊しか見つけてないから。有名じゃないのは仕方ない」



 俺から言わせれば、どうして逆にアムリタがちょろっとでも記録に残ってるかが疑問なんだけどね。

 どうしてあの1冊しか説明がないんだろう。

 わかんないや。



「そ…そんなのあったら…! あゆ兄、何級のアイテムなの?」

「神物級ってやつ。伝説級の1個上だよ」

「え? そんなの見たことも聞いたことも…」



 俺の話を信じかけていた叶は、また、疑問に思ってしまったみたい。



「本当に……存在するの? 存在するとして、翔さんがその話を信じて、リルさんを生き返らせられると確信するのかな? ……それに、それを見つけるのにどのくらいかかるか…」

「うん。大丈夫。はいこれ、アムリタ」



 俺は叶にアムリタを1本手渡そうとした。

 しかし、叶は目を見開いて驚いたまま、受け取ろうとしてくれない。

 ……スルトルがなんかこっちを見て来てる…いや、アムリタを見てる感じがするけど、多分気のせい。



「どしたの?」

「や…これ、本物?」

「うん。薄めてもない、原液」

「…どうして兄ちゃんが持ってるの?」

「え? 作れるからだけど…。とりあえず、叶、疲れてるでしょ? 飲みなよ、コレ。あと1000本くらいあるし、数とかは気にしなくて良いよ」



 叶に無理矢理アムリタを握らせた。だけど見つめたまま、飲もうとしない,。

 フリーズかもしれないから、脛を蹴った。



「いっ!? …痛い、兄ちゃん痛い!」

「じゃあ固まるなよ。…早く飲めってば」

「ああ…うん」



 叶はしぶしぶそれを飲んだ。

 一口、口に入れた瞬間、目がカッと見開かれる。

 そして、傷や火傷、煤での汚れなどが全部、綺麗さっぱり消え去った。



「………本当に本物なんだね?」



 目を見開いたまま、叶は俺にそう言った。



「だからそう言ってるじゃん。これを使って翔を説得するよ!」



 俺はガッツポーズを作り、今から行動を起こすことをアピール。



「わかった。やってみて。俺じゃあ、魔法を封じるまでが精一杯みたいだからさ」



 叶はその場から一歩下がった。

 逆に、俺は魔神と対峙してるミカのもとまで行き、その肩を叩いた。



「ミカ、交代しよ」

「オッケー、わかった!」



 全く疲れた様子を見せず、ミカは叶達のもとまで戻って行った。

 無傷だったし、ミカに関しては心配はない。

 

 今度は俺がスルトルと対峙する。



「……なかなかあの娘も面白かッたがナァ…! テメェはスゲェ。わかる、実際会ってわかッた! 流石はサマイエイルの野郎を消しちまッただけはあるよナァ!」



 スルトルは興奮したように、早口でそう言った。

 …俺がサマイエイルを倒したことを知ってるんだ…。



「知ってるんだ」

「ああ。知ッてるとも。…つーか、アムリタ、本当に持ってるとはナァ…。驚いたぜ」



 なんだろ、スルトルって魔神。

 なんか色々知ってるっぽい。やっぱりアムリタに反応してたんだ。それに、サマイエイルと違って単体だし…比べたら相当強いのかもしれない。



「で、やりあってくれるんだよなァ? 血湧き肉躍る戦いを…戦いを、戦いを…戦いをッッ!! オレ様は望んでいる…!」

「うーん、ボクはのんびり過ごしたいんだけどなぁ…。いいや、とりあえず…」



 俺は口の前に手で大きな輪っかを作り、それに向かって大声で叫んだ。…スルトルではなく、翔に。



「おおーーーい! 翔、聞こえるーーー?」

「あ?」



 剣を鞘から引き抜こうとしていた黒い翔の手が止まった。



「俺の声が聞こえるならーーーっ! なんか反応してぇーーっ!」

「まさか…テメェ、中のを呼ぼうと……ッ…」



 スルトルの手がぎこちなく動き始めた。

 そして、ほんの少しだけ手をあげる。プルプルしてるところをみると、無理矢理動かしてるみたい。



「聞こえてるんだねーーっ! ……リルって娘が殺されたんだってーー? ボクならアムリタを使って生き返らせれるんだけどなぁーーっ」

「やめろ、喚くなァッ! マジで起きちまうだろうがッ!」



 スルトルは慌てた様子でこちらに、黒い火の柱を撃ち込んできた。でも、それも剣が吸収してくれる。

 それにしても、魔法の1発1発はめちゃくちゃ威力が高いみたい。

 剣のためたMPと魔力の量が、尋常じゃないのがわかる。

 普通に当たってたら、俺でもまずいかも。


 …さてと、スルトルが慌てたってことは、この方法は有用ってことだ! …どんどん行ってみよー!

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