第370話 お兄ちゃんだよ
「………え?」
叶は俺のその一言を聞いて固まる…って、ああ!? 固まっちゃダメだよ、今!
本当、叶の悪い癖。
叶の頭の良さを調べてた研究機関からは『頭が良い代わりに、過度に驚き、それが一定以上の規模だと動かなくなる』って簡単に言うとそんな感じって言われた。
でも、叶がフリーズするほど驚くことなんて滅多になかったから今まで気にしてなかったんだけど。
「………アラァ? またカナタ君、固まッちャッたんでスカー? クカカカカカカ」
また…ってことは、今日、これだけじゃないってことか…。桜ちゃんからそのことは言われてない。
…仕方ない。
俺は叶の側に立ち、お尻を思いっきり引っ叩いた。
良い感触。俺とおんなじで女性ホルモンが多いのかもしれない…なんて、適当に言ってみただけ。
ミカよりは柔らかくないから大丈夫。
そして、叶覚醒。
「いっ!? ……え、あれ。 レベル上げの鬼って…」
「うん、俺の事だよね」
俺が言うのもなんだけど叶は、その男とは到底、思えないような可愛らしい顔についてる、つぶらな瞳をパチクリさせて、見下ろしてきた。
「え…あ、いやいや」
「頭のいい叶ならわかるでしょ? さて、俺は誰でしょーか?」
叶はしかめっ面になったかと思ったら、また、目を大きく見開いた。
「まさか…兄ちゃん?」
「うん。お兄ちゃんだよ」
「……証拠は?」
証拠かぁ…そうだなぁ…。
なぁにが良いんだろ、わかりやすいのにしよっかな。
「叶の部屋の本棚の2段目にある『闇魔術禁断バイブルの書』と『右手に力を宿す:少年K』」
「オッケー、わかった。兄ちゃんだね」
さらにその少年Kの方に、桜ちゃんのとびっきりの笑顔の写真と、桜ちゃんがパフェを食べて幸せそうにしてる写真と、叶と桜ちゃんの梅の木の下でのツーショットの写真が挟んである事をお兄ちゃんは知っている。
分かりやすい。さっさと付き合えば良いのに。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハ! なんですかァ? テメェらなんか関わりあるんですカァ? とりあえず死んどけよ!」
放たれる豪炎。
俺はそちらをみずに、剣だけを構えた。
こちらにその豪火球が辿り着く頃には、剣がそれを吸い取ってくれている。
「兄ちゃん…! なんで兄ちゃんがこの世界に…!? 俺らがどれだけ_____特にミカねぇなんか…! そ、そうだ兄ちゃん、ミカ姉が_____」
「呼んだ?」
そう言いながら、桜ちゃんの後ろからひょっこりと顔を覗かせる。
叶は絶句。
後、絶叫。
「えぇええええええええええええぇっ!?」
「あはは…」
桜ちゃんは苦笑い。
完全にスルトルが蚊帳の外だけど、この俺が来た時点で魔法主体の戦い方をするスルトルなんて無意味だし、問題ないよね。
「兄ちゃん…ミカ姉…! 兄ちゃん、ミカ姉…! ……うぅ…兄ちゃん…ッ」
叶が泣きそうになった。
そうか、泣くほど俺のことを好いていてくれたのか。嬉しい。しかし、今泣かれても困るから、俺は叶のスネを蹴った。
「いっ!? っーーーっ…なにすんの!?」
「感動の再会とか全部後ね! こっちだって泣きたい気分なんだから…」
それにしても元気そうだ。良かった。
「……それで? やっぱりアレが翔なわけ?」
「うん、そうだよ。ミカ姉」
ミカがしかめっ面でスルトルの方を睨む。
「信じられないよ…」
「そうね。でも本当なのよ、お姉ちゃん」
「……なんとかできないの?」
ミカは叶と桜にそう言った。
叶は首を振る。
「それが全く…。翔さんと魔神を別々にする方法がわからなくて…」
「翔が乗っ取られてるんでしょ? 漫画みたいに、こう檄を飛ばしたりとかして、中の精神体を覚醒とか…よくわかんないけど、そんなことできないの?」
俺達は顔を見合わせる。
「いや、まだ試してないけど…」
「ならやってみようよ。何か、翔が乗っ取られる事になった原因とか…無いの?」
「それなら…………………ある」
心当たりとして、桜ちゃんと叶は、リルって狼族の獣人の娘のことを、さっきよりも詳しく教えてくれた。
なんでも、そのリルって娘は……翔と彼女だったらしい。
詳しい話は省かれ、また今度って事になったけど、とにかくその娘から翔に惚れたんだそうな。
…どこに?
正義感が強くて、男らしくて、優しくて、スポーツ万能で頭も悪く無く、顔も深い感じで良い方…ってことしか惚れる要素が思い浮かばない。
………ともかく。
その娘は魔神に殺されたらしい。
それも、桜ちゃんの回復魔法では絶対に復活できないように。それで翔は怒り狂って、それから乗っ取られた…と。ふむふむ。
………髪の毛一本でも残ってたらアムリタで生き返らせられるんだけどなぁ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます