第369話 やあ、叶

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 来たなァ! この魔力、ウヒャヒャヒャ! サイコーだぜェッ」



 翔は…悔しいが、顔はかっこいい。俺とはまた別なタイプで。

 だけど今は、そんな翔の肌が墨のように黒く、髪は白く…赤くひび割れのような模様が入っている。

 口を大きく開けて笑う。


 叶は…汗が流れててビショビショだった。

 確かにこの場所は、サウナなんじゃ無いかと思えるくらいに暑い。それもこの魔神のせいなんだろうけど。

 そんな叶は俺らの方…いや、正しくは桜ちゃんを驚愕を含んだ目で凝視している。



「…さ…くら?」

「ガハハハハ! まさかサクラちゃんがこっちから来てくれるなんて、思わなかったネェ、カナタ君!」



 ゾッとする。

 あれが翔なのか?

 今の翔はとてもじゃ無いけど、溺れてる人を単独で助けるような正義の味方には見えない。

 それに、サマイエイルはもっと品があったよなぁ…。



「何で来たんだよ桜ッ!? 来るなよ…っ」

「だ…だって…私…言ったじゃない…。叶が居なくなったら嫌だって言ったじゃない…! どうして一人でやろうとしたの…?」



 お…?

 おお?

 まさかお兄ちゃん達が知らない間に二人の関係が進んでる…!? 

 いや、そんなことより。

 今のところ、誰にも俺とミカは触れられてないんだけど。


 そう考えていたら、俺らの目から叶が居なくなった。

 と、同時に背後から凄まじい気配が…!



「…君達、どうして桜を連れて来たの?」



 俺とミカは後ろを振り向く。

 俺より身長が高くなってる叶が、俺とミカのことを見下し、ものすごい形相で睨んできていた。

 お兄ちゃん、叶のこんな顔、初めて見た。正直怖い。



「いや、その前に。君達は? …街の中のポスターとかでよく見るんだけど…」

「あ、え、ええと…私達は、メフィラド王国から援軍に来たの。SSSランカーとして…ね」



 ミカがそう説明すると、叶ら大きく一つのため息をつく。



「……ごめん。桜を連れて帰ってくれるかな? 正直、この世界の人間じゃ足手まといなんだ」



 汗の量とかからして、明らかに劣勢のくせに、こいつ何を言ってやがる。後でお尻ペンペンだな! …したことないけど。

 痺れを切らしたのか、待ってくれていた黒魔神が口を開く。



「なあ、話は終わったか? オレ様、戦いたくて闘いたくて、ウッズウッズしてるんだけどーッ! とりあえず、ヤル?」



 そう言いながら、翔…いや、魔神は手を前に突き出す。

 現れる魔法陣…って、すごい魔力!?

 これは驚き。単体である分、サマイエイルより強いのかも。


 魔法陣から豪炎と呼べるような炎の塊が連続して打ち出された。優に俺らの身長何て越してる大きさ。

 それでも範囲は抑えて、威力に回してるってことがわかる。



「……ッ!」



 叶は俺達の前に庇うように出た。

 向かって来る炎塊。それに魔法も唱えずにそのままぶつかろうとしてるけれど、これがファイトスタイルなんだろう。



「あっ…危ないっ!」



 桜ちゃんが叶に駆けよろうとする。

 それを、ミカが制止した。

 炎塊群は叶に当たり______そうになったところで、不意に跡形もなく消えてしまう。


 なるほど、空間がどうのこうのだったね。

 これは強いよ、本当に。



「…わかったでしょう? 早く桜を連れて帰って下さい。なんなら、俺が国に送り返します」



 そう言いながら叶は俺らの方に向かって手を伸ばす。



「にッがさなッいよォ~ん!」



 そんな間の抜けた声が聞こえてきたかと思ったら、空には紅色の巨大な魔法陣。…それもおそらくSSランクスキルの。



「じャあ…な」



 パチリ、と、音が響くかと思われるような指パッチン。

 魔法陣から島ひとつ飲み込める、炎の光線が放たれた。

 叶は俺達に手を突き出したまま焦った様子でいるけれど…ここからが、お兄ちゃんのみせどころかな?


 俺はマジックバックから、俺の愛用している神物級の剣を取り出した。



「あのね、叶。お前はステータス70万が最高なんだってね? 桜ちゃんから聞いたよ。…でもね、俺ら、カンストしてるんだよね」



 俺は炎の光線に向かって思いっきりジャンプ。

 剣は上方にさしたまま。



「カン…スト?」

「そうよ、ステータスカンスト。999999が最高なのよ? 知らなかったでしょー、桜! えへへー」



 ミカがまたドヤ顔をしてる。

 桜ちゃんはまたまた驚く。叶は何が何だかよくわからないみたい。頭がいいんだから、すぐに状況を飲み込めたりしないのかな? 


 剣は、ついに炎の光線と接触した。

 そこから、炎は俺の剣に吸い込まれて行く。

 久々に発動したこの能力、魔法の吸収。


 ドンドンと、魔法を吸い込んで行くこの剣を見て、叶はさらに理解が追いつかないみたい。

 魔神はなんかニヤニヤしてて気持ち悪いけど。


 俺は炎を吸い尽くすと、叶のすぐ側に着地。

 こう言ってやった。



「レベル上げの鬼だからね、このくらいできるんだよ!」

 

 

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