第363話 桜ちゃんと

「お姉ちゃん…」

「桜…!」



 そう言いながら二人は抱きついている。

 本当に仲が良い。昔からね。



「……お姉ちゃん、本当にお姉ちゃんなんだよね?」

「そうだよ? 髪は緑で目は水色。身長とか胸とかは中学生のころと一緒になってるけれどね」

「そっか………あれ! じゃあ、そっちのアリムって娘はもしかして、まさか」



 ミカに抱きついたまま、桜ちゃんは首をこちらに向ける。俺はそれに答えるように、微笑みながら手を振った。



「あゆむにぃ…!?」

「うん、その通り!」



 元々大きかった目をさらに大きく見開いて驚かれちゃった。



「あゆ…あゆむ兄なのっ…うそでしょ? あゆむ兄は顔と服装と雰囲気は女の子だったけど、戸籍上は男だったはず…」



 ミカと抱き合って泣いてちょっと冷静になってるのか、それほど驚かれない。

 まあ、向こうでもいつもミカと一緒に居たし、セットのように考えられても致し方無し。


 それにしても『戸籍上』は余計だと思うの。

 いや、今は戸籍上ですら女かもしれないけれど、地球ではちゃんと男だったんだからね!


 ……だったはず。

 ミカと一緒に歩いてたら…二人一緒にナンパされたとか…修学旅行で俺だけ風呂を個室にされたりとか…家で女装させられたりしてたけど……ちゃんと男だった…はず。

 こっちの世界に来てからアリムになってばかりだから、もっと自身がなくなりそう。

 

 まあ、そういうの全部、好きでやってるから良いんだけど。



「『赤髪の娘はすごい美少女だよね!』とか話してるの聞いたことあるから…あゆむ兄、今…女の子?」

「そうなるね。まあ、詳しい話はまた今度するよ」



 そう、今は魔神が現れてるからね。

 再会の喜びとか後にしないと。



「あ…そう、そうよ! い、今、大変なことになってるの! 叶と翔さんが…えっと…色々話すことあるけと…とりあえず、今起こってること話すね」



 本当はもっとミカに甘えたり、俺が此処にいる件について訊きたいんだろうけれど、そっちが優先だって判断する桜ちゃん。流石は中学に入る直前から物凄く勉強してるだけあるね、うん!



「そうね。叶君と翔のヤツは今どうしてるの?」

「えっとね______」



 桜ちゃんは話し始めた。

 魔神が出現した経緯について。


 魔神が出現した時に対処してもらうためにと、この国の国王が3人を呼び出したらしい。

 色々あって、魔神が復活する予定だった前日の日…つまり、今日、お城に集まるように呼びかけられたから集まったんだけど、そこで叶が今までのその国王の対応に疑問を持って質問攻めしたらしいんだ。

 そしたら、その国王は実は魔神を使って何かしようとしてたってことがわかったんだって。


 なんだけど、その計画に携わってうちの一人が、なんか変な剣を取りだして、魔神を封印していた槍を壊しちゃって、で、魔神が復活したらしい。



「それで、魔神はローキスさん…国王に取り憑いたの」

「ふんふん、それで…?」

「それでね?」



 桜ちゃんは話しを続ける。

 封印していた槍を壊されたけど、翔のやろうの仲間のリルって娘の魔法で動きを封じこめることに成功し、槍を桜ちゃんの魔法で治したんだけど、その治した槍を持って来た瞬間にリルって娘が殺されて、魔神が這い出て来て、そこから______



「翔さんに魔神が取り憑いて、翔さんから魔神を抜くために、叶が一人で、どこかで戦ってる…の」



 とても悔しそうな顔をしてる。

 まあ、叶ならそうするだろう。瞬間移動が使えるんだっけ? ホント、この世界のスキルの万能さには驚いちゃうけど、それが使える叶なら、桜ちゃんを危険な目に合わせないように努めるに決まってる。

 何せ、叶も、俺がミカのことを好きだったように、桜ちゃんのことが好きだからな!

 隠してたみたいだけど、それはわかる。


 ……しかし、どこかって桜ちゃんにもわからないのか…道具を駆使すれば見つけることは容易いかもしれないけど…それでも、ちゃんと見つけられるかな?

 心配だな。早く見つけなきゃ。



「とりあえずわかった。積もる話とかも全部後にして、今はそこに向かおう。…叶からはどっちに行っただとか訊いてない?」



 しかし、首を振られる。

 …弱ったなぁ…。



「叶とメッセージは繋がらないの?」

「うん。向こうからシャットアウトしてるみたい」



 となると…やはり、大きな魔力を拾う道具を作ってみるしかないか。



「…じゃあそろそろ行こう。なんとかできるから」

「ほ、ホント?」

「そうよ。なんせ、アナズムのトップアイドルだからね、アリムちゃんは」

「それは関係ない」



 と、その時、窓の外が突然不自然に明るくなった。

 ありえないほどに。



「な、なにこれ?」

「わ、わからない」

「あ…もしかして…」



 桜ちゃんは何か知っているのか、窓を覗き、外を見る。

 俺らもそれにつられて外を見た。


 外には、太陽が13個。

 

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