第252話 赤頭巾 (翔)
今日もある程度、稼げた。
明日はリルを約束通り、ギルドに連れて行き冒険者となる日だ。
本当はもっと、もっと休んで欲しかったが…回復も、一度飯を食べられるようになってから異常にはえーし、何より暇そうだから…大丈夫…かな?
それにしても、リルは人前に出ることについて気になることがあるみてーだな。
……獣耳が欠けてることが嫌みたいだ。
尻尾はスカートで、奴隷の紋様は服の袖で隠せるから気にしていないみたいだったが、耳はやっぱり気になるらしい。
彼女自信が明確に、そう、言ったわけじゃねーけど、外に出る話をするたびに無い方の獣耳を弄ろうとするから、それからの憶測だ。
自分からはして欲しいこと、俺が促さないと言わないし。
つーわけだから俺は、リルに赤い頭巾を買った。
狼が赤頭巾ってのも、少し洒落てるんじゃねーか?
「ただいま」
「おかえり、御主人。今朝から言ってるが、明日は私が冒険者になっても良い日だよね! 狼族は運動神経がかなり良いんだ。きっとお役に立てると思うよ」
リルは俺が買ってくるなり、ベットから跳ね起きた。
獣耳をピーンと立てていて、尻尾を犬のように振り回すのが、スカートが若干張ってることから推測できる。
「そうだな、冒険者としての主なタイプはどうするんだ? 今のところ、俺は魔法使いっつーことになってるが……」
「私は戦士にしようかと考えている。今まで何かと戦ったことは無いけどね、父親が木こりだったから、斧だけは扱えるんだ」
「斧を使うんだな…危なく無いか?」
「大丈夫だよ。私を人族と同じだと考えてないかい? 狼族だけでなく…獣人全般、力が強かったりするんだよ」
リルの細っこい腕で、斧なんて重たいものを軽々しく振り回したりできるとは思えないけど……こう言ってるし、さっきも狼族は運動神経が良いとか言ってたし、多分、扱えるんだろうな。
「そうか…。じゃあ明日、冒険者登録してすぐに斧や防具を買いに行こう」
「あっ…そうか、お金を使わせる事になるんだね。……防具なんて要らないよ。御主人が防具とかにお金をかけてないんだし、私もそうする」
「いや、怪我したらどうするんだよ」
「いいよ、今更。私は傷だらけだし、今から一つ…二つ傷が増えたところで変わらない」
そう言うと、唐突にスカートをめくり、太ももを見せてきた。
前にチラリと見えた時と同じく、いろんな傷跡や火傷跡がこちらを覗いていた。
その傷については何て返せばいいか、困るが…。
とりあえずは………怪我をしないためだけでなく、致命傷を避けるのにも必要だっつー事を、伝えねーとな。
「致命傷を受けたら? それこそ怪我を治すのにかかるお金の方が、防具より高いとかっつー事になったら、話にならねーぞ?」
「その時は私を捨ててくれ」
これは…このセリフを、事あるごとに吐くのは治らない。
食事に関することは治っていっているのに。
どうしてだ、どうしてそんな事を言うんだ。俺はここ3日で10回近くはその、過度な自虐性について、それとなく注意をしている。
「…俺はリルを捨てない。何回言われてもそれは変わらない。……いい加減、何回も言わせないでくれ」
「ごっ…!? ごめんなさいっ…」
少し怒ると、話し方や態度が変わる。
これも、おそらく自虐的な性格になると共に身につけてしまった癖だな。
明らかに何かに怖がっているしな。
「……あー、その、なんだ。少しずつ、そういうのも治していこうぜ? な?」
「うん…うん、そうだね。御主人がそう言うならそうするよ。……でもやっぱり、防具は、ない方が動きやすいな」
「じゃあ、軽めのにするか」
「……うん。ごめんなさい、お金かけさせて」
話がひと段落した……か?
空気が大分、どんよりしちまった。
変えないと…そうだな、頭巾をプレゼントするか。
「な、なあリル。ところで、似合うと思って、これを買ってきたんだが…」
「なんだい? ……頭巾?」
「ああ、何か、妙に耳が欠けてる事を気にしてるみてーだから……。俺にはなんで気にするかがわからねーけど…」
「あ、バレてた? …まあ、人前はあまり出たくないかな。奴隷の紋様を、大勢から凝視されるより恥ずかしいかな」
「そうなのか。まあ、そういう感じだと思って買ってきた。つけて見つけれ」
「ああ……ありがとう」
リルは俺から赤頭巾を受け取り、被った。
うむ、なかなか良い。悪い感じはしない。
「わ…私は、傷だらけだし…そもそも容姿に自信はない。むしろ醜い。……だ、だけど、これは女としての性だ。その…一つ、訊きたいことがあるんだが_____」
モジモジとこちらを上目遣いで見てくる。
彼女いない歴=年齢の俺には、これはかなり大ダメージ。
……これは、可愛いと言わざるを得ない。
「似合ってるぞ。あー…その…可愛いと…思イマス」
「さ、最後まで言わせてくれっ……。ああ、でも、可愛い? 本当か? 可愛いだなんて……えへへ、ほ、本当に醜くはないか?」
「鏡…見てこいよ」
「……こ、怖い。鏡は…その…もう何年も見てないから…。お風呂入る時も見ないようにしてるし…」
「じゃあ、一緒にみるか。嫌なら良い」
「……じ、じゃあ一緒に来て……下さい」
俺とリルは洗面台前に移動し、一緒に鏡を覗き込んだ。
鏡には、餃子耳の俺と、赤頭巾を被ってる…その…可愛らしい少女…が、映っている。
「……私が映ってる」
「まあな」
「御主人、私と比べるとすごく背が高いね。頭…1個半違う」
「…そうだな。で、感想は」
「この赤頭巾、可愛いね。本当にありがとう」
「…喜んでもらえて良かった。えーっと……頭巾が可愛く見えるのは…えーっと…その…着けてる本人が可愛いので…あって…」
「…ふふ。ありがとう御主人。仮に嘘でも……本当だったとしても。私はすごく、すごく嬉しいよ」
俺達は洗面台の前から退き、その後、1日、話をしながら過ごした。
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