第253話 リルの冒険者登録 (翔)
俺とリルはギルドまでやって来た。
リルは赤頭巾を被っている。
「問題なく動けるみたいだな」
「だから、そう言っただろう?」
俺とリルはギルドの門を開け、中に入る。
その途端、例の賭け好きの男共が絡んできた。
あの日以来、何かと絡んでくるんだよなー。
「おう、ショー! おはようなんだシェー!」
「おお、お前さんか。……隣の可愛娘ちゃんは誰だ? テメーの彼女か…?」
彼女…に見えるのか?
見えるんだろうか……。そんな風に意識して女の子と歩いたことねーからわかんねーけど、周りのはリルがそう見えてるのか?
頭巾のおかげで獣人だって、わかんねーみたいだし。
ここはとりあえず、彼らの言う通りの存在っつーことにしとくか。
いや、俺にこんな可愛い彼女、できるわけねーし。
イケメンで、バレンタインにチョコを片手で数えられないくらいに貰える有夢じゃあるまいし…なあ?
ちなみに俺は、バレンタインのチョコレート、美花からの義理チョコぐれーしか貰ったことが……あ、いや、前に机の中に2個入ってたか? 忘れたな、どーだったっけ。
「あ…いや、私は御主人の奴隷です」
いつの間にか、勝手にリルが受け答えしてた。
「ほお…そうなのか。良いねぇ、ショーさんよ、奴隷が買える金があって」
「…だとしても、その奴隷、小綺麗だしぇー?」
「あー、あれだよ。きっと、ショーは奴隷愛護派か、それか、その子は実はショーの知り合いで再会したら奴隷になってて、んで、なんとか買うことができた……的な」
なんだその、一つ本が書けそうな妄想は。
ああ、いい。めんどくさい。そういうことにしとけ。
「よ…よくわかったっスね、そうなんですよ」
「おおっ!? 当たったっ!」
「しぇー…お前も苦労してるんだしぇー…」
賭けをしたい人達の集まりが、自分で創作した話で男泣きしてる間に抜け出し、なんとか受付まで来た。
そしてその後、俺の時と同じような手順を踏んでリルは晴れて冒険者となり、そしてすぐに俺とパーティの登録をした。
チーム名は、俺が火の魔法を使い、餃子耳。リルが赤い頭巾を被っていて、獣耳が片方無い。そして、俺達が初めて会ったのは実質、身体が赤く、耳が長いゴブリンと対峙した時だから……という理由で、『レッドイヤー』となった。
少しダサい気がするけど、この際、気にしない。
初仕事を勧められたが断り、ギルドをでたら、二人で武器と防具を見に行った。
「あの、ところで御主人」
武器をみている最中、話しかけてきた。
「どうした?」
「その、さっきの男の人達が言ってたこと…」
「中々良いよな、あの設定。度々使おうと思う」
「え? そうなの? あ、違くて、私が言いたいのはそっちじゃなくて、その…私が御主人の彼女だって言う方」
「あー、あれか。嫌だったら気にしなくていいぞ」
リルは激しく首を横に振る。
「それはこちらの台詞だよ。やっぱりもっと私、奴隷らしくした方がいいんじゃないかな? 御主人に迷惑かけちゃう。だって御主人、好きな人居るんでしょう?」
「え? 今はいないけど、別に」
うん、今は居ないし、初恋の人はもうすでに諦めた上に、自分の彼氏の後を追うように、死んじゃったからな……。
そうだ。美花といえば、俺がこの世界から日本に帰った時、美花の葬式の最中からなのではと、ふと考えてしまうことがある。
「あれ、居ないの?」
「おう、居ないぞ。悪いか?」
「わふぅ!? 違うんだよっ! 馬鹿にする意味で言ったんじゃなくて、ちょっと私、勘違いしてたみたいだから」
「どんな勘違いだ?」
「ん…言えって言われれば言うけど、言わなくていいんだったら言いたくないかな。えへへ」
「そうか? ならいいけど」
その後、リルのために、とりあえずの装備として、斧や、肘膝胸当てなど軽装備の鉄製のモノを買った。
念のためにと、ナイフも買っておいた。
武器を買ってもらったのがそんなに嬉しかったのか、なんだか足取りが軽い気がした。
もしかしたら気のせいかもしれないけど。
占めて1万3000ベル払う。
思ったより安かった。
「御主人はやっぱり、防具は買わないの?」
「遠くから魔法撃てばいいだけだし……」
「そうかい? ……お願いだから怪我はしないでよ?」
「はは、まー、善処するわ」
そして俺達はギルドに戻り、仕事を一つ受ける事にした。
ゴブリンの討伐で、多ければ多いほど報酬が大きくなるタイプのヤツ。
最初の数匹はリルに戦わせてみて、大丈夫だと思ったら、少し離れて行動する事にした。
それと、パーティを組んだ事により経験値が仲間に同じ量入るらしいが……俺のチートが反映されるかどうか、気になるところだ_____
_____
____
___
気がついたら、森の中。目の前には頭がカチ割られたゴブリンの死体が一つ。
これはリルがやった。
マジで斧を軽々と振り回してたぞ。
ちょっと怖かったのは内緒な。
「御主人、どうかな? やれるもんでしょ?」
「あ、ああ、そうだな」
「ちなみに、私は解体もできるからね。このゴブリンを解体してみせよう。わふぅ、私、やっと御主人の役に立てて嬉しいよっ!」
そう言ってこちらを見たそのリルの顔は、満面の笑みだった。
これがもし、斧を背負い、手は血みどろで、片手にナイフを持ちゴブリンの肉片を切り刻んでいなかったら、可愛いという感情をまた抱いていたに違いないけれど…なぁ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます