第236話 武器の扱い (叶・桜)

「ふむ、剣か。無難だなっ」



 クルーセルは少し機嫌を直したかのようにそう言った。



「ええですがその…私…」

「わかっている、目がほとんど見えないのだろっ。そこはキチンと考慮するから安心しろ」



 それを聞いて、カナタはひとまず安心した。しかし、警戒は解いていない。



「で、どう鍛錬をするかだけど……とりあえず、扱う武器は違うとはいえ、二人は近くで練習させた方がいいだろうな」

「…ん? なぜだっ?」



 キリアンのその提案に、クルーセルは疑問を抱いた。

 が、しかし、すぐにその理由がわかったようだ。

 


「ああ、そういうことか。二人をライバルとして競わせるのだなっ」

「そういうことだ。昔の私とお前のようにな」

「うむ、共に競い高め合う者がいることは、鍛錬において有効だなっ」



 カナタはそういう結論に二人が至ったことに心底ホッとした。この世界でサクラと離れること自体、あまり好ましく無いからだ。



「だが、まずは基本からだろっ」

「ああ、そうだな。互いに目に見える範囲で基本を教え合おう。カナタ、こちらに来い」



 カナタは自分と同じように離れていくサクラを目で追いながら、キリアンについていった。

 そして、だいたい50メートルずつ離れたところで互いに歩みを止めた。



「そんなに心配か? サクラのことが」



 カナタがジロジロとサクラの方を心配そうに見ているのが気になったキリアンは、そう訊いた。カナタはそれに答える。



「ええ、まあ」

「そうか…。だが安心しろ、クルーセルは鍛錬バカだが基本、いい奴だ。あの子に怪我や無理をさせるような事はしないさ」

「そ、そうですか…」



 キリアンからそう聞いても、カナタはまだ心配をしているようだったが、鍛錬に支障が出るほどではなくなったとキリアンは判断した。



「…それにしても、私は嬉しい」

「へ? 何でですか?」

「見ず知らずの世界から来た者が、我々のために早く強くなろうとしてくれる、その事だ」

「そうですか? 俺はただ、早くあのポーションが欲しいだけでして……」

「だとしても、だ」



 キリアンはそう言うと、マジックバッグから練習用の槍を取り出した。先が丸くなっているのだ。



「これが、練習用の槍だ」

「槍…。パルチザンなんですね」



 カナタは騎乗用の槍、ランスだと予想していた。



「これに不満でもあるのか?」

「いえ、特にないです」



 カナタはキリアンから練習用の槍を受け取ったが、思ったより重く、よろけてしまった。



「非力だな。一昨日はサクラを抱えて階段を駆け上がったのを見たが?」

「あれは…カッコつけてたのが半分、サクラが軽いのが半分です」

「なるほどな」



 話してるうちに重さに慣れてきたのか、カナタは渡されたその槍を両腕で胸前まで抱え上げ、まじまじと見つめ始めた。そこまでは普通だった。

 また暫くすると、今度は槍に頬ずりをし始めたでは無いか。

 これには流石のキリアンも驚いた。



「お、おい! 何をしている」

「ふへへ…本物のランスだぜ…」

「おい? カナタ…? カナタ、おいっ!」

「まさか異世界に巻き込まれて本物の武器に触れるなんて思ってもなかった。ふふふ。素晴らしいぞこのフォルム…。最高、ああ、我が心が踊るのがよくわかるっ…! ふは、ふはははははははっ!」



 そのカナタの異常な狂いように、キリアンは慌てふためいた。



「大丈夫か? おい、おいっ!?」



____

__

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 一方、サクラもクルーセルに練習用の剣をみせてもらっていた。



「いいか賢者サクラ。私は今、目の前に剣を立てた。手を怪我しないように気をつけながら、触れて確かめてみるといいっ」

「は、はいっ」


 

 クルーセルに革の手袋を渡され、それを着けたサクラは剣をペタペタと細心の注意を払いながら触れてみた。

 その剣はかなり細身だった。



「どうだ?」

「うーん、まだ何とも…」

「そうか。因みに長さはだいたい、賢者サクラの胸元ぐらいだっ。手を少し伸ばしたところに剣の柄はある。つかんで、地面から抜いてみろっ」

「はいっ」



 サクラは恐る恐る見えない剣に手を伸ばし、それを掴んだ。



「よしっ、抜いてみろ」

「は、はいっ!」


 

 サクラは力を込めて両手でその剣を抜いた。すんなりと抜けてしまったために、サクラは尻餅をつく。



「きゃっ」

「ああ、大丈夫かっ? 手をかすか?」

「大丈夫です。立てます」



 そう言いながらサクラは剣を杖にして自分でたった。



「うむ。で、どうだ持って見て」

「そうですね…。思ったより重くないというか……数秒くらいなら片手でも持てそうな感じです」

「まあ、それは剣の中でもかなり軽い部類のものだからかっ」

「そうなんですか」



 サクラは、クルーセルの先ほどとの自分達との対応の違いに少し驚いている。



「それにしてもクルーセルさん、先ほどはカナタが失礼しました」



 サクラは頭をさげる。なお、その方向にクルーセルは居ない。



「サクラ、私が居るのは後ろだぞ? それより、あれは私も悪かったっ。私は何故か鍛錬のこととなると気分が高揚してしまうのだ」

「そ、そうなんですね……」

「ああ、そうだ。だが…うむ、ちゃんと剣は持てたな。これから練習を始めるぞ」

「はいっ!」


 

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