第235話 訓練 (叶・桜)
二人は訓練用の制服に着替え、城敷地内の訓練場へとやってきた。
流石にカナタは女子更衣室へは入れなかったので、着替え・装備の手伝いはヴァルキリアの兵長、キリアンが行ったようだ。
ちなみにカナタは心底、興奮していた。練習用の衣装であったが、まず、日本では、コスプレぐらいでしかこういうのが着けられないからである。
「では二人共。これから武器の扱いの鍛錬を始めるっ。改めて、私はクルーセルだっ」
「私はキリアンだ」
そう、胸に手を当て敬礼し、二人は自己紹介をした。
「えっと、カナタです」
「さ…サクラです」
二人もそれに続けて軽く、自己紹介した。
「うむ、では賢者カナタ。いくつか訊きたい事があるっ」
「は、はい?」
クルーセルはカナタに質問をし出した。少し、彼の機嫌が悪そうである。それも仕方がないと言えば仕方がなく、昨日は勉学のみを選択された上、今日は鍛錬の時間を、本来の半分にされたのだ。
鍛錬こそ全てだという思考の彼には、カナタの考えは到底理解できなかった。ただ、甘ったれてるようにしか…。
「貴殿は何故、昨日はこの鍛錬を無くし、今日は鍛錬時間を半分としたのだっ! 鍛錬は己を磨く全て。それが1日4時間しか無いのだぞっ?」
「は、はぁ…?」
「なんだその返事はっ!!」
クルーセルは手に持っていた、普通よりも何回りも大きな練習用の剣を、地面に勢いよく切先を突き立てた。
カナタの頭の中では、『何を怒ってんだこの人』程度の認識でしかない。
「わかってるのかっ? 鍛錬こそ、鍛錬こそっ…」
「いやでも…俺…いや、僕達二人、2時間の鍛錬でその数十倍は鍛錬したことになるので。称号の効果によって。しかし、勉学はそうはいきませんから」
「ほぅ…」
「そんなことは知らぬっ」
キリアンはカナタのその称号の効果を含み、計算されたその考えに納得…と、言うよりは感心をした。
彼女は既にこちらに協力的である事を嬉しく思ったのだ。
しかし、クルーセルは違った。
「だったらなんなのだ。ならば1日中鍛錬すればもっと鍛錬をしたことになる。そんなこと、鍛錬をしたくない言い訳に過ぎぬのではないかっ?」
「いや…その、確かに鍛錬はSKPを使わずにSK2をあげられる良い方法ですが…僕達はそれ以外もしなければいけませんし……。それに、そう言うのなら、早く始めた方がいいんじゃないですか? 説教よりも」
カナタは…親には反抗しなかったが、確かに反抗期は来ていた。それが、今出てきたのだ。もっと本音を言うと、鍛錬なんて不必要だと考えていた。本当はSKPで上げれば良いのだから。
サクラ流石にまずいと考え、カナタに念話で止めに入った。
【ち、ちょっと叶っ!? クルーセルさん怒らせてない?】
【怒らせてそれで俺達の鍛錬を付き合わないってのならそれでいいんだ。いや、むしろそれが良い。この世界で重要なのはいかにレベルを上げるか……だ】
【う…。確かにそれはそうだけど…】
【それに、ローキスさんからしてみれば俺達が強くなればそれで良いんだよ。正直、俺は鍛錬は今日だけで良いって考えてる。それにレベルを上げる時間を増やすだけでなく、目が悪く、身体が強くない桜に俺は無理をさせたくない】
【か…叶…】
サクラには、カナタが自分のことを気にかけてくれてるのを嬉しく思うと同時に、本当にこのままで良いのか、不安な気持ちにもなった。
「_____っ。そうだな、確かにそれはそうかもしれぬっ! では、さっさと鍛錬を始めるぞっ」
「しかしクルーセル兵長、先にサクラが扱う武器を決めさせなくては」
「ああ、そうだったなっ! 賢者サクラ、お前は何を扱える? または扱いたい?」
クルーセルとキリアンに返答を迫られたサクラは、即座にカナタに相談をする事にした。
【な、何が良いかな?】
【まず、弓は無理だろうね】
【そうね、弓は確かに】
【かと言って、俺は体術は桜にはして欲しくない。少なくとも、俺のワガママだけど】
【え、なんで?】
【正直、接近戦は避けてくれるのが望ましい。桜は魔法主体にして欲しいんだけど…本当は。ほらだって、怪我するじゃん】
【別にそれは……】
気にしないで、そう、サクラは言おうと考えたが、それは思いとどまった。この世界に来てからの今までのカナタの行動を少し振り返ってみたのだ。
よく考えたら、カナタが自分にした行動のほとんど、が怪我等をしないためのもの。
なんでそんなに自分のことを気にかけてくれるかはわからないけれど、自分が接近戦をしていたら、カナタは実戦になった時に自分にばかりに気を取られてしまう。
サクラはそう察した。
しかし、カナタが困ってるのは、この状況で鍛錬しないという選択肢は悪手だということ。
それも踏まえてサクラが出した結論は_____
【じゃあ…私、同じ槍っていうのもなんだし、ここはとりあえず剣にしてみようかな】
【剣か…あの、クルーセルとか言う人が教えてくれるんだっけ。スパルタ教育をじゃないか心配なんだけど…】
【私、そんなに気弱じゃないわよ。う…うれしいけど、ちょっと心配しすぎじゃないの?】
【ん…そういうのなら…。でも、何かされたり、少しでも暴力や暴言を吐かれたら念話で伝えてよ】
【はいはい】
二人は念話をやめ、兵長二人の方を向いた。
「私は剣にします」
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