第223話 宿泊 (翔)
俺はこの獣人の女の子を背負ったまま、街の中を徘徊していた。
やっぱり、この世界の文化的には俺が奴隷を背負っているのはおかしいのか、周りの人間が何か珍しいものでも見るかのような目で俺を見ているが、そんなのは気にしねー事にする。
とりあえずは宿だ、宿。
どこか泊まらせてもらえるところを探さないとな。せめて3日間は。
そしてその間になんとか仮でも良いから、職を探して…生活を安定させ、借家を借りる。これが先ずの目標だろ。
街の中を駆けずり回っているうちに、一軒の宿屋を見つけた。
この間にも宿屋を見つけたんだが、どれも見た目的に高価そうだったからダメだ。
一方、この宿屋は見かけで判断をしているが、俺の今の所持金で3日間、十分に泊まれるかもしんねー。
俺はその『宿屋 イーネル』と書かれた看板の宿の戸を開けた。カランと、鈴の音がする。
「いらっしゃいませ」
カウンターに立っている、おじさんはそう言った。
内装は…俺にはよくわかんねーけど、とりあえず、可もなく不可もなくって感じなんじゃないか?
俺はカウンターまで行き、そのおじさんに話しかけた。
「その…すいません、泊まりたいんですが、空いてますか?」
「ええ、空いてますよ。部屋にはB~Sまでの段階がございますが、どの部屋をご希望で?」
こういうのは順番的にBが一番安いのだろう。
値段が気になるな。
「Bの部屋というのは、一泊いくらですか?」
「450ベルになります。朝夜ご飯付きです」
450ベル、つまり4500円か。
これなら、5泊でもいけるんじゃないか? 手元に52500ベル残るな。
よし、5泊で……って、そうだ、今はこの娘が居るんだった。なら部屋を二つ借りなきゃなんねーな。
となると、やっぱり3泊か。
「すいません、なら部屋を二つで3泊……」
「お客様、失礼ですがその背負ってる子は奴隷ですよね?」
「え、ええ……」
「ならば、相部屋でもよろしいのでは?」
いや、でもそうするとベッドが1つしかねーだろ。
それに、色々と問題もあるしな。風紀的な。
「いえ、でもそうすると、ベッドが1つですし…」
「……はぁ? 構わないではありませんか? 気になるのでしたら、敷布団と毛布も提供いたしますが?」
…やっぱりそうか。奴隷ってそういう扱いが一般的なんだな。客商売である宿屋ですら奴隷に対しコレなんだから、奴隷を可哀想だとか思う輩はマジで少数派なのかもな。
それにそうだ、俺は馬鹿か?
部屋を一緒にしないと、この子の世話や看る事ができねー。モラルばっかり気にしてそっちを忘れていた。
なら……。
「で、ではベッドが二つある部屋は?」
「…基本、お一人で泊まられる方が多いので、我が宿では二部屋しかご用意しておりませんが……あいにく、どちらも埋まってますね」
「そう…ですか」
ならば、仕方ない。
やっぱり、Bの部屋に5泊だな。
「では、Bの部屋に5泊でお願いできますか?」
「はい、わかりました……えっと、敷布団と毛布の貸し出しは必要ですよね? 言い忘れましたが、追加で1日50ベル頂くことになりますが?」
「ええ、構いません。あ、あと代金の先払いはできますか?」
俺は先払いをした方が良いと考えた。
もし、何かあって……例えば誰かにカツアゲされたとかで全財産失ってこの宿の金が払えないなんてことになったら大変だからな。
「はい、大丈夫ですよ。合計2500ベルとなります」
俺はポケットから大銀貨3枚を取り出し、おじさんに渡した。お釣りとして銀貨5枚を返してもらう。
その後、おじさんはカウンターから出てきて、俺らに部屋を案内し、鍵と毛布と、少し汚れているが洗っていることはよく分かる敷布団を渡してくれた。
部屋は…宿としてはちょっと狭い、と、だけ。
俺はこの子をベッドにおろし、布団を掛けた。
そして、もう一度、脈と息、ついでに熱もないかみてみた。
大丈夫、問題はなさそうだ。
だとしたらやはり、疲労と空腹で倒れているんだろう。
そして、あの御者のすぐに吐くという話を聞く限りこの子は摂食障害だ。ストレスとかダイエットでなることが多かったりするんだが……この子はおそらく、前者だろう。
摂食障害、それもこの痩せ方なら拒食症。だとしたら食べ物は考える必要がある。
あんまり一度の食事で食べちまうと、今度は過食になる場合が多いらしいしな。
そして食事の時は1人で食べさせるより、俺も一緒にいて話をしながら食べた方がいいだろう。
メンタルのケアも必要かもしれない。やり方わかんないけど。
仕事をしながらこんなことできるか? 俺。
……でもやるしかねーんだ。やらないとな。
あとは……そうだな、俺とこの子の服……それと食材を買わないとな。
この子を1人にするのは心配だが…仕方ない。
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