第219話 相部屋 (叶・桜)

 メイドによる城内案内は1時間半に及んだ。

 カナタは頭の中で、まるでゲームでマップを覚える様にして、全て記憶していっていた。

 そして、最後に紹介されたのは、2階にある、二人が泊まる部屋。



「ここがカナタ様とサクラ様のお部屋でございます」

「えっ……?」



 カナタは驚いた。



「ど、どうしたの? 叶?」

「いや…その…ドアが一つしかない」



 それがどうかしたのかと、サクラは不思議に思う。



「何バカな事言ってるの? 別に変な事なんて……」

「いいのか……? 相部屋だぞ」

「えぇっ!?」



 カナタが驚いた意味を理解したサクラが、今度は驚いた。

 そんな二人の様子を見ていたメイドは、なぜ相部屋なのかの説明をしだした。



「私はお二人がご夫婦だと、ローキス国王様より連絡を受けました」

「ふっ……夫婦!? 私達が?」

「ええ…私からもそう見えますよ? お二人ともお若くしてご結婚なさったのですよね?」

「いやっ……違っ…」



 サクラが否定しようとしたが、それをカナタは遮った。



「結婚はしていないのですが、長年、付き合ってまして」

「はっ…はぁー!?」

「おや、そうでしたか。ではそろそろお部屋の案内をさせて頂きますね」



 メイドはニッコリと笑って、部屋の中を説明し始めた。

 

 部屋の中にはすでに、二人の着替えなどが備えられていた。

 風呂やトイレ、洗面台や台所も用意されており、一見すると高級マンションの要素を、一部屋に詰め込んだかの様な感じの部屋だ。

 しかし、二人にとって問題があるとしたら……ベッドが一つしかないという事だろう。



「以上です。何か質問はございますか?」

「あの……ベッドは増やしてもらえないですか?」



 カナタはそう質問したが、メイドから返ってきたのはカナタの予想を裏切る答えだった。



「申し訳ございません、ご用意できません」

「……何故ですか?」



 すぐにカナタはその理由を求める。

 メイドは少し戸惑いながら答える。



「他にベッドが御座いませんので…。当初の予定では、賢者様はお一人だと伺っておりましたし……。で、でもお広いのであ二人で寝る事は十分可能かと思いますよ! また、お二人は付き合ってるとの事なので、色事も行いますでしょう? なら……」



 問題はないはずだと、メイドは主張した。

 カナタとサクラは唖然としたが、カナタは辛うじて言葉を発した。



「いえ…でも…困りま……」

「あーっと、こんな時間でございます! 夕食のご用意ができ次第お呼びしますので、お召し物を着替えてこの部屋でお待ちくださいね!」



 焦る二人をよそに、説明が面倒になったのか、それとも言葉に詰まったのか…メイドはそそくさと去っていってしまった。

 


「…………とりあえず、着替えよう?」



 カナタはサクラにそう言ったが、サクラは別の事で頭がいっぱいになっていた。



「……ね、カナタ」

「なぁに?」

「…………私達が付き合ってるなんて…なんで言ったの?」

「そう言えば、別々の行動をとらされるという事は無くなるかな、なんて思ったから。…嫌だった? ごめんね」

「そう…なら…しかたないわよね、うん。早く着替えよう」



 カナタの心配に対し、サクラはどこか嬉しそうだった。

 サクラが何故か上機嫌な事に疑問を持ちながら、カナタはサクラの分の服を彼女に手渡した。



「俺はトイレで着替えるから、この服に着替えてね」

「うん…。覗かないでね? 覗いたら嫌いになるからね?」

「わかった、わかった。着替え終わったら呼んでね」

「うん」



 カナタはトイレに入り、そこで着替え始めた。サクラはそれを確認すると、顔をベッドにうずめた。



「(あー! あー! 私と叶か結婚してるみたいだって! えへ、えへへへへ! 嬉しいな、嬉しいな! それに…お姫様だっこ……。私をヒョイって持ち上げて…カッコよかったなぁ…。えへへへ……と、着替えなくちゃ。カナタがトイレから出てこれなくなっちゃう)」



 サクラは急いでカナタが渡してくれた服に着替えた。



「いいよー、カナタ、来ても…」




 しかし、サクラはカナタを呼んでから、妙な事に気がついた。

 服のサイズこそピッタリだったのだが、身体の至る所がスースーするのだ。


 

「どー? 桜、サイズ合った? 俺はピッタリで……」



 サクラから呼ばれてトイレから出てきたカナタは、そこまで言うと、黙ってしまった。



「えっ…ちょっと、黙んないでよ! どうなの、私の服、どうなの?」

「…正直に言っていいの?」

「う…うん」

「えーっと、似合うよ? 似合うけどさ…その…目のやり場に困るというか……スカートも短すぎるし、肩や胸元も開いてるというか…」



 そう、サクラはまるでラノベや漫画の世界の女の子のような服装になっていた。

 カナタから自分の見た目を聞いたサクラの顔は真っ赤になっていく。



「ど…どうしよ…その…私、着る服間違えちゃったかも…カナタ、他の服はどうなの?」

「あ、あー…ちょっと見てみる」



 そう言って、カナタはサクラの用意された服を全部見ると、溜息を一つついた。



「どうだったの…?」

「ダメ、全部その…サクラが普段着る服とは違うよ。寝まきだけかな、大丈夫なの」

「……そう、なら…」



 サクラがそう言いかけた時だった、二人の頭の中に文字が浮かび上がる。



【夕食ができました! 食堂まで来てください、カナタ様! サクラ様!】




 

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