第220話 1日の終わり (叶・桜))
二人は突然頭の中に浮かんできたメッセージに驚く。
「なに? いまの…」
「わかんない…けど、とりあえず食堂に行こう」
サクラはまたカナタの腕に掴まる。カナタとサクラは自室から出て食堂へと向かった。
食堂には先程のメイドしかおらず、机の上には二人分の豪華な食事が並べられていた。
「おや、来ましたね。お二人とも、お召し物とても似合ってますよ!」
「ありがとうございます、ところで先程、頭の中に浮かんできた文字はなんでしょうか? 貴女のスキルか何かですか?」
カナタはメイドにそう問う。メイドは不思議そうな顔をしてその問いに答えた。
「はぁ…? 全員できますけどね…?」
「えっ…どうやって?」
「あー、それは_____」
メイドはカナタとサクラにメッセージの使い方や用途などをざっくりと説明した。
「すごく便利ですね、それ」
「賢者様方の世界ではできないのですか?」
「うーんと…いや、近い事はできますね。ただ、道具に頼りますけど」
カナタが言っているのは電話のことであった。
メイドは「そうなのですね」と呟いたあとに、料理が冷めそうなことに気づき、二人を席まで移動するように促した。
「料理が冷めちゃいますよ! どうぞ御夕飯をお召し上がりくださいな」
メイドに言われるまま、カナタとサクラは席に着く。
「桜、ご飯は食べられるの?」
「流石にそういう事はできるわ。着替だってできたでしょう?」
「あ、そうだったね。じゃあ食べようか」
カナタがサクラに、どこにどの料理が、どの食器があるか説明した後に、二人は料理を口に運んだ。
まず、二人は最初にステーキのようなものをナイフで切り取り口に含む。
その動作、手順が全く一緒だったため、メイドはクスリと笑ってしまう。彼女の頭の中では完全に、あの二人が恋仲だというのは確定したようだ。
「お、おひひひよ、叶っ!」
「そ、そうだね…。流石はお城の中だと言うべきか……こんなの食べたことない」
見たこともない世界で疲れが溜まっていたのか、それとも昼食は食べなかったせいか、はたまた美味しすぎたせいか、二人はそれなりに量があったそのディナーをペロリとたいらげてしまった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。…このあと俺たちがやる事ってありますか?」
ナプキンで口を拭きながら、カナタはメイドに訊いた。
「いえ、御座いませんよ。本日はお休みになられてもかまいません。ただ、明日から鍛錬を始めて頂きますよ」
「わかりました。桜、部屋に戻ろ」
「うん」
「おやすみなさいませ」
メイドは二人に頭を下げて見送った。
部屋に戻ってきた二人は、どちらが先にお風呂に入るかの相談をし始めた。
「どっち先にお風呂に入る? 正直言うと、桜が1人で初見の風呂に入るのは危険すぎるから、手伝いたいところだけど……」
「……ヤダ、いい、断る」
サクラは強く首を横に振り、否定の意を示した。
「じゃあ、俺が先に入って、お風呂に使う物を手に取りやすい場所に移したりしておこうか」
「あー、ならそうしてくれる?」
「わかった。じゃ、俺先風呂に入ってるから」
カナタは脱衣所へと消えていった。
残された桜は特にする事がないので、今日できた1日の出来事を思い返す。その大半は、カナタの事だった。
「(うん…今日だけで、叶はこんなに私なんかに気を使ってくれた……。私の目のためにローキスとかいう人の提示した条件ものんじゃうし…)」
サクラは大きな溜息をついた。
「(はぁ……でも私、叶に何もできないよ。それどころかついつい強くあたっちゃうし……。お風呂の事だってそう、正直、1人で入れるか不安。裸を見られてでも、手伝ってもらえば良かったかな? いや、でもやっぱり恥ずかしいよ……。カッコいい叶が、私なんかで…その…欲情…するとは思えないけどね)」
悶々と独り言を連ねていたら、いつの間にか、カナタがお風呂からあがってきた。
既に寝巻きを着ている。
「桜、いいよ次。えーっと…はいコレ、寝巻きと下着」
そう言いながら、カナタはサクラに寝巻きと下着を手渡した。
「……叶が私の下着を触っ…」
「あ!? ごめん…いや、その…ごめん」
「はぁ…仕方ない事くらい分かってるわよ。いいわ謝らなくて。……お風呂、覗かないでね?」
「お、おう」
今度は桜がたどたどしい足取りで、脱衣所へと入っていった。 それを心配そうに見つめていたカナタだったが、風呂場から水が流れ始める音が聞こえた事により、一安心した。
彼はソファに座り、もう一度、ステータスをすみ細かく見直した。
しばらくして風呂場から無事にサクラが戻ってきた。
「良かった、ちゃんと入れたんだね」
上がったばかりのサクラに、カナタはそう声をかけた。
「うん、お陰様で。…先に寝てても良かったのに」
「フッ…我は桜が水行をしてる間に、この世界のシステムを再見していたのだよ」
「ふーん、まぁいいや。寝よ?」
そう言いうと、サクラはベッドを探しだし、そこに横になったが、カナタの足音が聞こえない事に違和感を覚えた。
「あれ? 叶は寝ないの?」
「いや…ベッド、一つしかないんだ。だからベッドで寝るよ」
「そういえば、メイドさんとベッドの話でもめてたっけ……………」
サクラは次に、自分でも驚きの行動をとった。
彼女は今、自分が横になっているベッド縁を叩きながらこう言ったのだ。
「来ていいよ。叶。変なことしないなら」
「はぁっ!?」
カナタは声を荒らげ、大きな声で驚いたが、それよりも驚いたのはサクラ自身であった。
しかし、サクラは言ってしまったことは仕方ないと考え続けてこう言った。
「いや…その…私が叶と一緒に寝たいとかじゃなくてね? 違くてね? そう! 起きる時、起きる時に私がベッドから落ちないようにしてくれるといいな、なんて……」
「あ、あぁ……うーん……本当にいいの?」
「…………好きにして」
叶はさんざん悩みまよったあげく、一緒に寝る事にした。彼はサクラに触れないようにギリギリの体制でベッドに入り込む。
「……幼稚園以来だね、こんなの」
「うん」
2人はそれ以上会話を交わすことはなく、恥ずかしさでしばらく無言のままいた。
そして疲れによる限界からか、サクラはカナタより早く寝てしまった。
サクラが寝たのに対し、カナタは全く眠ることができなかった。恥ずかしさ、照れ、その他多くの感情が頭の中に渦巻いていたから。
その原因は……サクラは姉であるミカと同様に、寝ている間に近くのものに強く抱きつく癖があったためだ。
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